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力の価値

あの後、俺は周りの人達の興味津々な視線に耐えられずこの場から脱出しようとしたのだが……。


「……」


どういう訳かエストニアさんにカウンターの奥の部屋へと案内され、俺はそこで椅子に座って待機していた。

何やら色々聞きたいことがあるらしい。まぁ、あんなこと起きれば聞きたいこともたくさんあるんだろう。


「ご主人様、大丈夫ですか?」


一緒に部屋に案内されたフラウが不意にそう話しかけてきた。


「ん? ああ、大丈夫だよ。ごめんな、何か面倒なことになって」


「そんな、気にしないでください。私はご主人様と一緒ならどこにでもついていきますよ」


どこにでもついていきますよ……か。ちょっとグッときたかも。フラウが動物じゃなかったらもっと感激していたかもな……。

何て間抜けなことを考えていたとき、部屋の扉が開きエストニアさんが中に入ってきた。


「すみません、お待たせしてしまって」


「いやいや、大丈夫ですよ。ところで先程の人は?」


「今は奥にある休憩室のベッドに運んで休ませています」


「そうですか」


とりあえず事態は一段落したようだ。


「と、ところで荒崎さん。先程のことについてお聞きしたいことがあるのですが」


「ああはい、それは全然いいんですけど……エストニアさん何でさっきからずっとそわそわしてるんですか?」


何でかは知らないが先程からエストニアさんの様子がおかしい。昨日あった時のような落ち着いた雰囲気が感じられなかった。


「いやその……あのようなすごい魔法を見たのは初めてで、まさか荒崎さんがそんなことできるなんて思わなくて……あ、いや別に荒崎さんのこと悪く言ってる訳ではなくてですね!!」


今度はあわあわと慌ただしくなるエストニアさん。別に俺は何も言ってないんだから気にしなくていいのになぁ。


「あの、エストニアさん?」


「ひゃ、ひゃひ!!」


いや、ひゃひ!! って……。もう呂律回ってないじゃないですか。


「何かよく分かりませんがとりあえず落ち着いてください。ね?」


「あ、す、すいません……」


今度はシュンとなるエストニアさん。うーむ、何とも感情表現豊かな人だ。嘘をついてもすぐにばれるタイプの人なんだろうなと、勝手に思う俺であった。

まぁ、それは一旦置いといて、


「それで、聞きたいことっていうのは何ですか?」


そう聞くとエストニアさんは俯いていた顔を上げ俺のことをしっかりと見据えてきた。


「私がまずお聞きしたいのは荒崎さんがベイルに使ったあの魔法についてです」


あの魔法ってのは俺が使った回復の力のことだな。


「あれは一体何なんですか? 先程もお聞きしましたが荒崎さんはやはり光の魔術師様なのですか?」


でました‘光の魔術師’。何か名前だけ聞いたらとてつもなく神々しそうな感じがする。

俺が光の魔術師……少しだけどんなもんか想像してみた。……うわー、無いわー……似合わないわー……神々しさの欠片もないわー……。自分で想像して少しだけへこんだ。


「えーと……残念ながら俺はその光の魔術師っていうのではないです」


「そうなんですか?」


「はい。そもそも俺、その光の魔術師とやらの存在も知らないですし」


そう言うとエストニアさんは少し驚いたような顔になった。


「荒崎さん、光の魔術師様をご存知ないんですか?」


「え? は、はい。知らないです……」


もしかして光の魔術師っていうのはこの世界では有名な存在なのかな。もしそうだとしたらエストニアさんが驚いているのも納得できる。

しかし、どれだけ有名でも俺はこの世界に来たばかりなのである。知らないものは知らないのである。


「その光の魔術師っていうのは一体何なんですか?」


「本当に知らないんですね……えと、そうですね。光の魔術師様というのはこの世界の数百もある様々な国の中で、片手で数えられるほどしかいないと言われるとてつもなく希少な魔力を有している方たちのことをいいます。その力はとてつもなく強大で、不可能だと言われていることでさえも可能にしてしまう程だとか。それこそ荒崎さんがやったスケイルドラゴンの猛毒を一瞬で治す、みたいなことも普通であれば不可能です」


「はぁ……」


「それにあのような治癒魔法を使うことができる人はほとんどいません。いたとしてもそれぞれの国の王宮で雇われている魔術師の素質がある人くらいです」


「魔術師……」


この単語はこの世界に来てからちょくちょく聞いていたが、そういう意味だったのか。簡単に考えると国に雇われてる魔法の才能がある人みたいな感じなんだろう。


「その魔術師ってのはこの国にもいるんですか?」


「ええ、でも私達一般市民がお目にかかれることは滅多にないですね」


どうやら魔術師というのは中々お高い存在らしい。だからヴィオーラや俺が怪我を治してあげたあの男の子も目をキラキラさせていたんだな。


「なるほど、まぁ残念ながら俺は魔術師でもありませんがね」


「なら、あの力は一体何なんですか?」


うーん……さて困った。こういう時はなんて答えた方がいいんだろうか。女神さまからもらった力なんですー。……うん、完全に頭のおかしい人にしか見えない。でも、実際そうなんだよなー。


「えーと、その……じ、実は生まれつき持ってる俺の能力みたいなものでして……。こ、この魔法だけ何でか使うことができるんですよ……」


我ながら無茶苦茶な理由だと思った。誤魔化すにしてももうちょっとマシな言い方があった気もするが、俺の頭ではそんなもの思い浮かぶはずもなかった。


「生まれつきの能力ですか……」


「は、はい。この力を使うとどんな病気や怪我でも一瞬で治すことができるんです。どういう原理でそうなるのかは俺も分かっていませんが」


「どんな病気や怪我でも治せる!?」


俺がそう言うとエストニアさんは急に大声を出し椅子からがたっと立ち上がった。


「うおおおっ!!」


「荒崎さん、それは本当なのですか!?」


ずいっと顔をこちらに寄せてくるエストニアさん。ちょっ! 何でこの世界の女性はこうすぐに手を握ってきたり顔を近づけてきたりするんだよ! 女の人に耐性の無い俺には心臓に悪いんだぞ。


「た、多分本当です」


そう言うとエストニアさんは力が抜け椅子に体を預けるようにしてゆっくりと座り込んだ。


「そんな……そんなことが出来るなんて……荒崎さん。あなたは本当に何者なんですか?」


「何者と言われましても……最近この辺に引っ越してきた只の一般市民……みたいな?」


本当は引っ越してきたというよりも新たにこの世界で生き返りましたという方が正しいがな。まぁ、そんなこと言えるはずないけどね。


「……」


エストニアさんは最早呆れたような顔で俺のことを見ていた。あんなことしておいてこんな適当な返答しかしないのだから当たり前と言えば当たり前かもな。これで俺はこういう奴なんだなって分かってもらえればありがたいんだけど。


「エストニアさん? 大丈夫ですか?」


俺がそう声をかけるとエストニアさんは、はぁ~……とため息をついた。


「全くあなたはよく分からない人ですね。本当に……」


「よく言われます」


そう言って俺が笑うとエストニアさんも軽く笑い返してくれた。よかった、とりあえず怒ってはいないようだ。

少しの間お互いに笑いあっていたのだが不意に彼女は真面目な表情になり、


「ねぇ、荒崎さん。あなたさっきどんな病気でも治すことができるって言いましたよね」


そう俺に聞いてきた。


「はい、多分治せると思います」


するとエストニアさんは顔を伏せながらゆっくりと目をつむった。何だ? 一体どうしたのだろうか。もしかしてどこか具合が悪いのかな。


「あ、あの……」


「荒崎さん、申し訳ないのですが場所を移してお話してもいいですか?」


「え、いいですけど……どこに行くんですか?」


「彼女の休んでいる休憩室に来て欲しいんです」


休憩室に? 何で今そんなところに行きたいのだろうか? 彼女が休んでいるのだからそんなところで話さずに、ゆっくりさせてあげたほうがいいのではないんだろうか。

そう思ったのだが彼女はどうしてもそこで話しがしたいというので、俺はそれを承諾し彼女についていくことにした。







エストニアさんに案内され奥にあった通路の突き当たりにある休憩室にまでやってきた。中に入るとそこには五つほど白いベッドが置いてあり、そのうちの一つに誰かが横になっているのが見えた。

そのベッドに近づくとそこにいたのは先程俺が毒を治した女の人だった。

そこで俺は改めて彼女を見てふと思った。あれ? さっきは色々慌ててたから気づかなかったけどこの人どこかで見たことあるような……。

えーと……どこで見たんだったっけ? 確か……あ、そうだ。昨日薬草を届けた時にエストニアさんと一緒にカウンターの奥の部屋から出てきた人だ。

艶のある黒髪、整った顔立ち、印象的な褐色の肌、そして何より記憶に残っていたあの尖った耳。

絶対そうだあの時の人だ。


「彼女の名前は‘ベイル・レイミリア’。彼女とは昔からの付き合いで私の親友でもあるんです」


「そうだったんですか」


彼女とエストニアさんにはどうやら深いつながりがあるようだ。


「実はね荒崎さん、彼女には一人妹さんがいるのよ。ベイルのご両親は彼女が小さい頃に亡くなられていてね。だからベイルにとっては唯一人の大切な家族なの」


「はぁ、妹さんが」


エストニアさんはベッドの上ですやすやと寝ている彼女の髪を軽く撫でた。


「でもね、その妹さんが今とてつもなく重い病気にかかっていてね……その病気を治すための資金を稼ぐために、ベイルは一人でいつも危険な仕事を請け負っていたのよ」


資金ねぇ……異世界でも金が大事なのは変わらないってか。何だかちょっと虚しくなってくる話だな。


「なるほど、それで今回のような事件が起きたと」


「ええ、そういうこと。まさかいつも受けているような仕事でこんなことになるなんて思わなかったけどね……」


……何だろう、部屋の空気が重い。俺はこういうしんみりした感じの空気が苦手なのでものすごく居心地が悪い。どうしよう、そう思っていた時だった。


不意にエストニアさんがこちらに振り向き、


「ねぇ、荒崎さん」


と声をかけてきた。


「はい」


「あなたに一つお願い……いや、仕事の依頼を申込みたいのですが」


「仕事……ですか?」


そして彼女は真っ直ぐに俺の目を見てこう言った。


「私の親友の妹を救ってあげてくれませんか?」


静かな休憩室で俺はエストニアという女性にそう仕事の依頼をされたのであった。



更新が遅くなってしまいすいませんでした。

パソコンの調子が良くなくて中々書けない状態でございます。

ホントこのフリーズする現象の原因は一体何なんだろうか?

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