無敵のオートセキュリティ
家に入った俺はまず玄関でコイツの足を拭いてやった。これがまた大人しいもんで、普通は嫌がったり暴れだしたりしそうなもんだがそんな事はなくとても落ち着いていた。
何かここまで利口だと少し違和感が湧くんだが……。いや、まぁ大人しいことにこしたことはないけど。
「よし、もう入っていいぞ」
そう言って廊下を進むとコイツもトコトコ付いてきた。我が家の自称リビングの部屋に入ると、俺はテーブルの椅子にドカッと半ば倒れこむように腰掛けた。
はぁ~疲れた。この世界に来ていきなりこんな面倒くさい事態に巻き込まれるとは思ってなかった。やはりあの森とは良い意味でも悪い意味でも何かしらの縁があるようだ。
しかーし、いつまでもグチグチ考えてたって始まらない。起きちまったもんは仕方がないのだから、どうにかするしかない。
「とりあえず、お前の名前を考えるか」
椅子の近くにちょこんと座っていたコイツの頭を撫でながら俺は名前を考えることにした。と言っても俺、そう言うネーミングセンス的なものがあんまり無いんだよな。変な名前つけたら可愛そうだしな。
俺はコイツのことをジーッと見つめながら何かいい名前が思いつかないか考え込んだ。
そんな時、俺はコイツと初めてあった時を思い出した。狐のような顔、ライオンのようなたてがみ、羊のような角、狼のような尻尾……確か俺はそんな風にコイツのことを見たんだよな。
狐、ライオン、羊、狼……ねぇ。俺はちょっと考えてみた。狐は英語でフォックス。ライオンはライオン。羊は……あれ? 何だったっけ? やべ、ど忘れした。まぁ、いいや。とりあえず置いといて狼はウルフ。うーん……フォックス、ライオン、ウルフ。頭文字を取ったら……
「フラウか……」
そうぼそっと口に出すと
「アヴッ! アヴッ!!」
とこいつは急に俺に向かって吠え出した。
「ん? どうした」
あれ? 何かコイツいつにも増して激しく尻尾振ってるぞ。
「もしかして……今の名前がいいのか?」
「アヴッ!!」
俺はこれを肯定の意味として捉えていいのだろうか? よく分からないので試しにもう一度呼んでみることにした。
「えっと、フラウ」
「アヴッ!」
そう呼ぶとコイツは尻尾を振ったまま俺の足に擦り寄ってきた。
「……」
どうやらこの名前が気に入ったようです。あれ? 何かあっさり決まっちゃった。まぁ、コイツが気に入ったのならいいんですけどね、はい。
という訳でこの子の名前は‘フラウ’に決まりました。
それから時間は過ぎ、いつの間にやら陽も落ちました。
そして、今俺は自称我が家のキッチンの前に立っていた。キッチンと言っても日本にいた頃に使っていたコンロのようなものはなく、火をつける際に使うのはこの朱炎石である。
これを筒型に窪んだ穴の中に投げ入れて使うそうだ。何ていうか、ちょっと原始的だよなやっぱり。
ちなみに鉱属石はどれも再利用可能で、少しすれば石の効力が完全に戻るそうだ。何とも便利な石である。
「それはいいとして……さて、何を作ろうか」
いや、考えられるほど料理できないんですけどね。はぁ~、もっと自炊して色々な料理ができるようにしておけばよかった。そう後悔する俺であった。
それから数十分後。いろんなことに悪戦苦闘しながら何とか作り上げた料理がこれだ。
なんとかって名前の動物の肉とよく分からない野菜の肉野菜炒め~!!
うん、自分で作っといてなんだが……不味そう。テへ!
「ちくしょー!! 料理なんて! 料理なんてー!!」
思わずその場に伏せこんでしまった。駄目だ! 俺には絶望的に料理のセンスがないことが発覚した。
「くぅ~ん……」
そんな俺をフラウは慰めてくれているのか、顔をペロペロと舐めながら体をすり寄せてきた。
うぅ~、優しさが痛いとです、心に染みるとです。
食材を無駄にするわけにもいかないので作ったものは食べたが、予想通りまずかった。肉は固いし、野菜は生っぽいし、何か味も薄いし……。駄目だこりゃって感じだった。
一応フラウにも同じものを作っておいたので試しにあげてみた。
「無理して食わなくてもいいぞ」
と言っておいたのだが、何とこやつは綺麗に完食してくれました。
「アヴッ!!」
そんな光景を見て俺は思わず口元を押さえ泣き出しそうになった。
「お前、本当にいい奴だな!!」
わしゃわしゃと頭を撫でてやった。今ならよーしよしよしよしよしよし、と動物を撫でるあの人の気持ちが分かる気がした。
その後、俺は風呂に入り色々疲れたのでさっさと寝ることにした。ちなみにフラウは一緒に風呂に入るか? と聞いたら何故か嫌がりこの時だけは扉の前で待機していた。
水が苦手なのだろうか?
「さぁー寝るぞー」
俺はベッドの中に潜り込んだ。すると、フラウも俺に続いてベッドの中に入ってきた。
「うお、お前もここで寝るのか?」
「アヴッ」
フラウは掛け布団からひょこっと頭だけを出し気持ちよさそうに目を閉じる。
か、可愛い……。そんな姿にホッコリした俺はまぁ、いいかと再びベッドに横になった。
「そんじゃ、おやすみなさい」
俺はゆっくり目を閉じた。
その頃外では。
「ボス、家の明かりが消えましたぜ」
怪しい男四人組が木の陰から家の様子をうかがっていた。
「やっと消えたか。よし、お前ら今のうちに準備しときな。少ししたらあの家に乗り込むぞ」
「「「へい」」」
「さっさと片付けてがっぽり報酬をもらわねぇとな……」
ボスと呼ばれた大柄で顎から縮れたヒゲを垂らした男はにやりと笑った。
それから数十分後。
「よし、お前ら旦那からもらった薬は飲んだな」
「へい、ばっちしでさぁ」
「しかし、すげぇですよねこの薬。気配も姿も消せるなんて。しかも飲んでいる奴同士だけは姿も見えるし、一体どうなってるんですかね」
「さぁな、そんなの俺達の知ったことじゃねぇよ。んなことよりさっさと仕事終わらして、宴開くぞ宴
」
「へへ、そうっすね」
「よし、行くぞ!!」
男達は木の陰から家の近くまで移動し、玄関の扉の前で止まった。
「いいか、俺達の目的はあの白い動物を始末すること。一緒にいたあのよくわからん男は邪魔するようなら一緒に始末しろ。いいな」
「「「へい」」」
そうボスと呼ばれいている男は確認をするとドアノブに手をかけようとした。
「それじゃあ行くぞ」
そしてドアノブを掴み思い切り扉を開けようとした。
その時、
‘バチッ’と男の体に電気が走った。
「ぎゃあ!!」
あまりの威力に男はその場に倒れ込んでしまった。
「「「ボス!!」」」
慌てて他の男達が駆け寄る。
「駄目だ、白目むいてる!」
「一体なんなんだ!?」
「扉を開けようとした瞬間こうなったよな?」
男達は入口の扉をじっと見つめた。一体何がどうなっているんだ?
「まさかこの扉、罠貼ってるんじゃねぇのか?」
「「罠?」」
「俺らみてぇのが侵入してこないようにしてるんじゃねぇかってことだよ」
「じゃ、じゃあどうすりゃいいんだよ。他に入口なんて見当たらないぜ」
「馬鹿、よく見ろまだ侵入出来そうなところはあるだろ」
そう言って男が指差した先には窓があった。
「あそこから侵入するのか?」
「他にどこにも入れそうな場所はなかっただろうが。もうあそこしかねぇ」
男達は窓に近づくとそこから中の様子を伺った。
「ほれ、丁度そこに目当てのターゲットもいるしよ」
「ああ、本当だな」
「でも、こっからどう入りゃあいいんだよ」
「そんなもんこの窓を割って入るしかないだろ?」
男は手に持っていた大きな鉈のような刃物を構えた。
「割って入るって。本当に大丈夫なのかよ」
「何ビビってやがんだ。大丈夫だよ。何せ俺達の姿は見えてねぇんだからな」
そう言うと男は思い切り勢いをつけ窓を叩き割ろうとした。
しかし、
「ぐぎゃ!!」
またしても‘バチッ’という電撃と共に今度は大きな衝撃も加わり、男と振りかざした鉈のような刃物は思い切り後ろに吹き飛ばされた。男は空中でくるくると回転しながら宙を舞うと背中から地面にグシャッと落ちた。
「な、なななななな……何なんだよ。どうなってんだよこの家は!?」
「お、俺が知るかよ!! 俺はもう知らねぇ! 知らねぇぞ!!」
「お、おい待てよ!!」
残った二人はどうしていいか分からずその場から逃げ出した。
「う~ん、料理なんて~……。ぐー……」
外でそんなことが起きていたなんて全く知らずに爆睡する俺であった。




