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転生して得たものは最強の回復魔法でした

新しく始めちゃいました。よろしくお願いします。

皆さんは散歩はしたことがあるだろうか? 天気がよく雲一つない青空の広がる休日に特に用事もないのにふらりと外に出てみる。まぁ、大抵の人が一度くらいは経験があるだろう。

そんな散歩を俺‘荒崎 達也’(20)はしていた。これだけ聞けば全然大したことはない。そこらへんにいる何の変哲もない男が一人寂しく歩いているだけである。

ところが、この散歩中にもしも車に轢かれてしまったとしたらどうだろう。突然飛び出した子猫を避けようとしたダンプカーがこちらに突っ込んできたとしたら? もちろんそれはもう一大事である。

何? そんなこと普通はありえないって? それが実はそうでもないんだなこれが。だっていま説明したこの状況に俺がなっているのだから。


見事にダンプカーに吹き飛ばされた俺の体は軽々と宙にまいそのまま電柱に激しく激突。そんな凄まじい衝撃をくらった俺は一瞬で意識を失った。

ああ、俺死ぬんだな……。最後の最後にそんな思いが頭をよぎった。



あれ? 何だろう? 何だかものすごく体が暖かい。それに体が軽くなって行く気がする。あぁ、そうかこれがあの世に行くってやつなのかな。俺はあんまりあっちの世界とかそういうのを信じないタイプだったけど、こんなに心地いいものなら信じてみてもいいかな。


「……ません。……きてください……」


何だろう誰かの声がする。どこから聞こえてくるんだろう。


「……いません。起きてください……」


だんだんはっきり聞こえるようになってきた。起きてくださいって聞こえた気がする。


「うぅ~……起きてくれません。こ、こうなったら!!」


こうなったら? そう聞こえた瞬間俺はゆっくりと目を開けた。その瞬間、


「えーーーーい!!」


‘べしっ!!’


「ふべらっ!!」


ものすごい衝撃が俺の頬を襲った。あまりの衝撃にどこかの漫画のザコ敵がやられる時のような声がでてしまった。うぅ、痛い……。


「あ、起きましたか!! よかった~……」


全然何もよくないんだが……。ほっぺたをさすりながら声がした方を見るとそこには一人女の人がいた。

真っ黒で綺麗なロングヘア、まるでモデルのような綺麗な顔、大きくて丸い緑色の目に筋の通った鼻筋。簡単に言えば超絶美人である。そんな女の人がまるでゲームの中の教会にでもいるシスターが着てそうな白い修道服のようなものを着て座っていたのだ。


「あ、あんたは?」


俺はの口から自然とそんな質問がでてきた。こんなよく分からん状況でいきなりこんな美人にひっぱたかれたら当たり前か?


「わ、私は今、貴方の住んでいた世界で見習いの女神をやらせていただいていたクーエルというものです」


「……はい?」


な、なんだって? 女神? 世界? 俺の頭のネジは先程の衝撃で一本どころか数十本吹き飛んでしまったんだろうか。それともこの人がちょっと可哀想な人なんだろうか。どっちだろう。


「いきなりそんなこと言われても信じられませんよね」


「え、いや、はぁ……」


なんて言っていいか分からないので曖昧にしか返答できない。こんなこと言われてはい、信じますなんて言える奴がいたらそいつはかなりの変わり者だろう。


「順を追って説明しますからよく聞いてくださいね」


彼女はすっと立ち上がり俺の近くまで近づいてきた。その顔はいたって真面目な顔である。


「実はあなたはもうすでに死んでいます」


「…………へ?」


いきなり言われたその言葉に俺の頭は思考停止した。そのため間抜けな顔で間抜けそうな声しか出すことができなかった。


「信じられないかもしれないですがあなたはあちらの世界で車に轢かれて死んでいるんです」


「車に……轢かれて……」


そういえばそうだった。俺、散歩してたら急にダンプカーが突っ込んできたんだった。それでそのまま吹っ飛ばされて……


「そうか、俺死んだんだ……」


「残念ですが」


やっぱり助からなかったのか俺。そりゃそうだよな、あんだけ派手に吹き飛ばされれば即死だろうな。はははははは……。


「マジかよ……」


俺はがっくりと項垂れた。こんなふうに意識があるとあんまり実感が沸かない。それに、さっきぶたれたほっぺたもまだジンジンする感覚があるし。


「そ、それでですね実はあなたに言わなければいけないことがありまして」


「言わなければいけないこと?」


なんだろう? これから天国に行くか地獄に行くかを決めなければならないとかそんなことだろうか。どうせ行くならやっぱり天国がいいな。まぁ、それに足りる行いをしてきたかどうかは分からないが。


「あ、あのですね……その……」


彼女、えーとクーエルだったっけ? は、何故かモジモジしはじめて中々その言わなければならないこととやらを言ってくれない。

なんだ? この際だからスパッと言って欲しいんだが。


「なんなんですかその言わなければならないことって? 遠慮せずにパッと言ってください」


しびれを切らした俺は彼女に早く言うよう促した。すると、クーエルは少し俯き上目遣いになり


「お、怒ったりしませんか?」


「怒る?」


俺が怒るようなことを彼女は言おうとしているのだろうか? 俺はそんなに怒りっぽいほうではない。むしろ波風立てずに穏便にことを済ます方である。それに、女性に怒ったことなんて俺は一度もない。その逆なら何度かあったことがあるが。


「べ、別に怒ったりはしませんよ。多分」


「ほ、本当ですね!! 約束ですよ!!」


こくこくと頷くと彼女は覚悟を決めたようだった。一度深く息を吸い込むと俺を見据えた。俺も思わず身構えそうになってしまう。

一体なんなんだ。


「じ、実はですね……私、間違ってあなたを死なせてしまったんです!!」


でーーーーーーーん!! な、なんだってーーーーーーー!!


「ま、間違って……死なせた……?」


一体どういうことなのだろうか? 俺の死が間違いだったってことなのか?


「は、はい……実はあの時あなたの歩いていた地域を私が管理していたのですが、その……私うっかり居眠りしてしまって、それで本当はあの子猫が死ぬはずだったんですがそう操作するのを忘れてしまってそれで……」


「それで俺が死んだと?」


「本当にすいません!!」


地面に頭がつくんじゃないだろうかというほどクーエルは勢いをつけて頭を下げた。そんな……俺の死は彼女の居眠りのせいで起こったってことなのか。ははははは……こりゃまいった。


「は、ははははははは……はぁ~」


何だろうこのやるせない気持ち。彼女に全部ぶつけてもいいんだろうがそれで何が解決するわけでもない。これはもう起きてしまったことなのだ。ここでどうこうしたって死んだという事実が変わるわけではないし。


「本当に、本当にごめんなさい!!」


涙声で頭を下げ続けるクーエル。その様子から察するに彼女は本当に反省しているのだろう。

はぁ~……女性に頭下げられっぱなしってのはあまり気分が良くないものだ。


「もう、いいですよ。起きちゃったことはしょうがないですし」


出来るだけ優しい声でそう声をかけた。するとクーエルはゆっくりと頭を上げこちらを涙でくしゃくしゃになった顔で見てきた。


「い、いいんですか? 怒らないんですか? わ、私はあなたを殺してしまったようなものなんですよ」


震え声になりながらそう言う彼女。自慢じゃないが俺は女性経験がほとんどないのだ。だから、こんなときどう声をかけてやればいいかさっぱり分からなかった。どうしたものかと考えた結果俺は、


「あんたみたいな美人に殺されたのなら俺も本望だよ」


とイマイチひねりのない言葉を返していた。いや、本当は本望なんかじゃないぞ。

すると、クーエルは今まで涙で濡れていた目を大きく見開き顔をうっすらと赤くしていた。


「び、美人だなんてそんな……」


涙を拭いた彼女はまたもじもじとしはじめた。全く、泣いたりもじもじしたり忙しいやつだな。まぁ、でも泣き止んでくれたようだし結果オーライかな。


「あ、ところでさここって一体どこなの?」


そういえばさっきから衝撃発言ばかりされてて全然気にしてなかったけど、この真っ白い部屋のような空間は何なんだろうか。


「ここはですね我々神の一族が住む神界の一部の場所です。今のあなたはこの神界にかつての肉体から離脱した幽体の状態として存在しています」


幽体ねぇ。つまり肉体的には死んでるけど魂的なものとして生きてるってことか。そういうのって本当に存在してたんだなぁ。実感は沸かないけど。


「なるほど。で、俺はこの神界とやらに何で連れてこられたわけ?」


一番気になるのはそこだ。ここに連れて来られたってことは俺のこの幽体状態の体に何かしようってことなんだと思う。それこそ、天国に行くか地獄に行くかみたいな選別をされるとか。


「それがですね、私が間違ってあなたを死なせてしまったことによってあなたの住んでいた世界のバランスが微妙に変わってしまったんです。変な話ですけど子猫が一匹死んだ時に与える世界の影響と、人間が一人死んだ時に与える世界の影響は全然違うんです」


「ふむふむ」


「それに本当は死ぬはずだった子猫の魂の行き着く場所への選定は終わっていたのですが、あなたの魂の行き着く場所への選定はまだ終わっていないんです」


「ほうほう」


「つまりこれがどういうことか分かりますか?」


「うーーーん……全然わからんです。はい」


今の説明で全てわかる奴がいたら俺はそいつを天才として一生崇めてやってもいい。それくらい俺にはさっぱりわからなかった。


「つまりですね、あなたに今死なれると困るってことです」


「あー……なるほどね」


って、え? 今死なれると困る? どういうことだ? 今もなにももう死んでるんじゃないのか?


「どういうことだって顔してますね。まぁ、そうでしょう。普通はそう思いますよね、俺はもう死んでるだろうって」


「お、おう」


そう答えると、クーエルはにやっと怪しい笑みをつくった。うわ、何か悪そうな顔・・・・。


「それがですねその問題を解決する方法が一つだけあるんですよ」


「そ、そんな方法があるのか!?」


クーエルは得意げな笑みを浮かべていた。い、いやそんなドヤ顔をされても・・・・まぁ、いいか。何にせよ話がいい方向に進んでいきそうな気がするぞ。


「それはですね……」


「それは?」


そこでクーエルは少し間を空けた。何なんだそのタメは。こういうのが好きなのかなこの子。少し面倒くさい。


「あなたを別の世界で生き返らせればいいのです!!」


「な、なんだってーーーーーー!!」


本日二度目のリアクションをとり俺は驚いた。別に気に入ってないぞ。


「っていうか、え? 生き返らせる? そんなことできんのか?」


「はい! 私の上司に相談したところ特別に許可を得ることができました!!」


へー、女神にも上司とかいるんだ。というか相談して許可取れるもんなんだ生き返りって。神様結構ゆるいんだなぁ……。


「え、でもどうやって生き返らせるんだよ」


あれか? 最近ネット小説で有名な赤ちゃんからやり直しパターンか? それとも別の生き物になってとんでもライフの始まりか?


「方法は簡単です。今のあなたのその幽体を元に生き返る世界で同じような器となる肉体を生成します」


「つ、つまり?」


「えーと、簡単に言いますとあなたが死ぬ前の体の状態のまま別の世界に生き返ってもらいます」


つまりこのままってことか。何かちょっと残念だな。もっとかっこいい体に生まれ変わるとか、最強のモンスターになるとかそんなのを期待していたんだけど。そうなったところで多分何が変わるわけでもないのだから別にいいのだけど。


「なるほど」


「あ、と言っても全部そのままってわけではなくて今回は私の不手際で死なせてしまいましたから特別に一つだけ特典をつけてもいいとのことです。あ、あと行きたい世界も自由に選んでくれていいそうですよ。元の世界はだめですけど」


「特典ねぇ……」


と言われても何がいいかなんてすぐには思い浮かばないんだけどな。どうしようか。


「その特典っていうのはどんなものでもいいの?」


「はい。誰にも負けない力が欲しいとか、お金に困らないような生活がしたいとかその他なんでも」


うわぁー、悩むなぁ~。どうしよう、何にしようかな? うーーん……

その時だった、


「ん? あれは?」


遠くの方で何かもやの塊のようなものが上へ上へと上っていくのが見えた。それはゆらゆらと漂いながらどんどん上っていきやがて見えなくなった。


「あれはあなたと同じように亡くなっていった人達の魂ですよ。彼らはここで一度浄化され行くべき場所へと旅立っていくんです」


亡くなった人の魂。……そういえば昔おばあちゃんっ子だった俺はおばあちゃんが病気で死んだあとこんなこと考えてたっけ。どんな病気やケガでも治せる力が欲しいって。あの時はずっとそんなこと考えてたんだっけ。

……今ならそれを叶えられるんじゃないか? 力が欲しくないわけではない、お金だって困らないほうがいい。でも、それは俺が本当に欲しいものなのか? 俺がずっと欲しかったものそれは


「治せる力……」


「え?」


「俺、決めたその特典」


きっとこれが俺が一番欲しいものだと思う。


「どんな病気や、怪我、その他体の異常なんかを全部一瞬で治すことのできる力が欲しい。もちろん対象はその世界で生きとし生けるすべてのもので」


そう言うとクーエルは意外そうな顔をした後、少し考え込むように顎に手を当てた。あれ? 何でもいいんじゃなかったのか?

すると、クーエルはどこからともなくスマートフォンのような物を取り出しどこかに電話をかけ始めた。神様ってスマホ持ってるんだな。


「もしもし、はいクーエルです。例の件なんですがごにょごにょ……」


口元に手を当ててヒソヒソと何やら話している。誰と喋ってるんだろう。


「あ、はいわかりました。ではそういうことで」


そう言ってクーエルは電話を切った。どうやら何かしらの話にけりがついたようだ。


「ごめんなさい、お待たせして。今、上司に確認していたんですがその内容でも大丈夫だそうです」


今の上司と話してたのか。神様間の連絡方法がスマホっていうのは意外すぎたけど、まぁいいか。大丈夫ってんなら問題ないし。


「ただし、いくつか制限が付きます。いいですね」


「せ、制限?」


何だろう制限って。俺は少し緊張した面持ちになっていた。


「まず一つ、この力はあくまで治す力であって蘇らせる力ではありません。なので、すでに死んでいるものを助けることは出来ないですし、この力を使うこともできません。二つ目、この力は寿命による身体の異常、または病気は症状自体は治すことができますがそれによって延命するということはありません。以上この二つがこの力を与える際の制限になります」


なるほど、死んだ人間は生き返らせることが出来ない。寿命による死も防ぐことは出来ない。あくまでもこれは治す力であるということか。別に俺は死んでしまった人間を生き返らせるつもりはないし、寿命には逆らっちゃいけないだろう。これくらいの制限なら全く問題ないな。


「わかった、それでいいよ」


俺はその制限を了承した。するとクーエルは何故かニコニコと笑い始めた。何だ? 急にどうしたんだ。


「ど、どうしたんですか?」


「いえ、何だかあなたらしいなぁと思って。その特典」


あなたらしいねぇ。そんなことはないと思うが、とにかくこれでよかったんだろう。俺はそう思えた。


「それじゃあ、特典は決まりましたね。後は行く世界ですが……どうします?」


「ちなみにどんな世界があるの?」


えーとですねとクーエルは何やらリストのようなものをどこからともなく取り出した。一体どこから出したんだ? しかもリストの厚さを見ると結構いろんな世界があるみたいだ。


「例えば、この世界が二つに分かれているドック世界。それから、天界と地上界があるシーゼル世界。その他にもたくさんありますよ」


何か全部ゲームの世界で見たことのあるようなものばかりだな。実際に存在するとは思ってなかったけど。


「じゃあそうだな、とりあえず平和な世界がいいかな。戦争とか紛争とかそういうのがないところね。それからせっかくなんだし色んな種族のとかがいるようなところがいいかな」


とりあえずリクエストを挙げてみる。クーエルはその要望に合う世界がないかリストの中を探してくれた。


「それじゃあ、この世界はどうですか? グランヴェル世界。気候は温暖で様々な多種族が住んでいます。それにこの世界では大昔に一度戦争をしたきり全くそういった争いごとが起きていません」


温暖な気候かぁ……。いいかもな、戦争もしてないしいろんな種族が住んでるみたいだし。あんまりこれがいいそれがいいと文句を言うのも面倒くさいしな。うん、よし!!


「じゃぁ、そこで!!」


「わかりました。行く世界はグランヴェル世界で決まりですね。それでは少し待っていただいていいですか? その世界の女神に連絡をしておきます。あなたが行くことで少し世界のバランスが変わるでしょうから、そのことを向こうの世界の担当女神が承認してくれるように頼んでみます」


やっぱり変わるんだ、そういうの。神様じゃないからよくは分からないけど、色々あるんだろうなぁきっと。またさっきみたいにスマホを取り出すとクーエルはどこかに電話をかけた。その口元に手を当てる仕草は癖なんだろうか。

少しして、確認がとれたようで向こうの女神も了承してくれたそうだ。


「これであなたは向こうの世界で生まれた存在として承認されました。ですのであなたがこれから向こうの世界で起こす事柄は世界のバランスには影響を与えません」


「つ、つまり?」


「つまり、あなたが向こうの世界で普通に生きてても何も問題ないということです」


クーエルはさらっとそう言ったがすごいことだよなそれ。電話一本でそんなことできるなんて流石女神ということなのだろうか。





「よし、それじゃあ後は転生の儀式をするだけですね」


「転生の儀式?」


一体何をするんだろうか?


「あぁ、大丈夫ですよ。儀式といっても今回はただあなたを向こう側に送り込むための措置みたいなものですから」


そんなのでいいのか。本当に神界というのは何かどこかゆるいところがあるんだよなぁ。


「それではこちらの方にいらしてください」


そう言われて、クーエルの支持された場所に俺は立った。


「それではいきますよ!!」


すると、俺が立っていた場所の真下に何やら大きな円がいくつも書かれた模様が浮かび上がってきた。その円の中には何かの呪文のようなものがそれぞれ書かれておりその文字が徐々に光り始めている。


「今のうちに確認しておきますからよく聞いてください!! まずあなたの望んだ特典についてですが、向こうの世界に行ったら自動的に備わるようになってます。使い方はあなたの頭の中でイメージしてあなたの体に直接覚え込ませてください。それから、向こうの世界には既にあなたが住むための衣・食・住は一通り揃ってます。もし足りなくなったら自分で調達してください!」


「わ、わかった!!」


次第に光が強くなり円の中に激しい風が吹き渡ってくる。だんだん目を開けるのも辛くなってきた。


「それと、向こうの世界の言語は読み、書き、それから喋ることも聞くとも自動でできるようになってます!! ですから、心配しないでください!!」


「りょ、了解!!」


「あとこれは私からのプレゼントです!! 左腕を見てみてください!!」


そう言われてかろうじで開く目で左腕を見てみる。すると、そこにはいつのまにか‘10000000’と書かれていた。


「なにこれ?」


「それは、向こうの世界であなたがもし死んだとしても生き返ることのできる回数です!! 私なりのお詫びです!!」


死んでも生き返れる回数? よく見てみるとゼロの数が七つもあるのだけれども・・・・。


「百って数字が書かれてるでしょ!! ‘寿命による死’以外でもしも死んでしまった場合にだけ発動しますから!!」


「ごめん! 百どころか一千万って書いてあるんだけども!!」


「えぇええええ!! そんな馬鹿な!!」


そんな馬鹿なってお前がやったんだろうが!! 

その言葉を最後に俺の体を光と風が完全に包み込み俺は最早立っていることすらできなくなっていた。


「う、うわああああぁぁぁぁぁあああああああ!!」


そして、体は完全に光の中に吸い込まれていった。






「う……んーー……」


あの後しばらくして俺は意識を取り戻した。ゆっくりと瞼を開けると徐々に意識が回復し視界がはっきりとしてきた。どうなったんだ俺は? ゆっくりと立ち上がるとまだ頭が少しクラクラした。何とかつけたのだろうかグランヴェル世界とやらに。辺りを見回すとちょうど朝日が昇ってくるあたりらしく空はまだ少し薄暗かった。


「ここは……どこだ?」


周りにあるのはたくさんの生い茂った木、木、木である。俺はどうやらその木の間にある少し開けた場所に倒れていたようだ。


「もしかして……森の中か何かか?」


これだけの木に囲まれているのだ、恐らくそう言った場所なのだろう。とりあえず自分が今どこにいるのか確認しないとな。

俺は木と木の間を縫うように進んでみた。中々広い場所のようで少し進んでみたが見えてくるのは木ばかりである。もしかして早速迷ってる? そんな嫌な考えが俺の頭に浮かんだ。とにかく進んでみるしかないか。そう思いながらどんどん進んでいく。


しばらく進んだとき、


‘がさっ’


「ん?」


草むらの中で何かが動いた。何だ、動物か何かか? そう思いつつも慎重に音のした草むらに近づいていく。なんで俺こんなに緊張しているんだ。大丈夫だ、大丈夫。きっとリスかなんかだ、そうに違いない。

そう心を落ち着かせゆっくりと草むらを掻き分けていく。そして、見えたものは


「はぁ……はぁ……」


「な!? 何だ?」


大きな黒い布にくるまれた何かがそこに倒れており弱々しく呼吸をしていた。大きさ的には俺よりも少し小さいくらいだろうか。……見るからに怪しい。どうしようか、少し怖いがあの布をどかしてみようか。

そう思い、俺はゆっくり上下する布を指先でつまむと軽くぺろっとめくってみた。すると見えたのは金色の髪の毛だった。


「ん? 髪の毛?」


ってもしかして!! 俺は慌ててその布にくるまれた体をひっくり返してみた。


「マジかよ……」


そこにいたのは動物なんかではなく一人の女の子だった。仰向けにしたことで明らかになった顔や体の見えている部分は何故かどす黒く変色していて、まるで火傷をしたあとのようになってしまっている。

その顔が苦しそうに歪みかろうじで弱々しい呼吸を繰り返しているような状態だった。


「ど、どうする!! あ、そうだ救急車を!」


そこで俺は気づいた。そうだ、ここはもう俺の住んでる世界じゃないんだっけ。ってことは当然救急車なんているわけがない。仮にそれに似た機関があったとしてもこの世界での呼び出し方を俺は知らない。

どうする、どうする!! 俺は完全にパニックになってしまっていた。

その時、


「はっ!! そういえば俺、特典が使えるんだった!」


そうだ、あの力を使えばこの人をなんとかできるんじゃないか。俺はその力を使おうとした。けれども使い方が分からない。そういえばクーエルが言ってたっけ頭の中でイメージして体に覚え込ませればいいって。


「力の使い方、力の使い方……」


そう考えているうちに俺は自然と右腕を伸ばしていた。イメージしろ、この人が治っていく様子をイメージするんだ。そして、意識を右腕に集中させる。治す、助ける、治す、助ける……

すると、俺の右腕がうっすらと青色に光り始めた。何が起こっているのか自分でもよく分からないがとにかくやるしかない。そう思ったとき、俺の頭の中にある一つの言葉が浮かび上がってきた。俺はそれを無意識に口に出していた。


「レイズ!!」


その瞬間、彼女の体が光に包まれた。その光は直ぐに彼女の体の中に吸収されそして消えていった。


「ど、どうなったんだ?」


光の消えたあとの彼女の顔を見てみるとそこには、先程まであったはずのどす黒い肌は完全になくなり代わりに真っ白で透き通るような綺麗な肌がそこにはあった。顔だけではなく手や足などの黒くなっていた場所も全て綺麗になっていた。

呼吸も先程までの浅くて苦しそうなものではなく安らかでゆっくりとしたものに代わっていた。


「な、何とかなったのか?」


それに先ほどの光は……もしかしてあれが俺の望んだ力の使い方なんだろうか?

俺は右腕を見つめて力強く拳を握っていた。




5月27日

本文の一部を書き直しました。

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