6 アリス・イン・ワンダーランド
「センセ、もう笑ってええですか?オレ限界」
答えを聞かずに桐原が豪快に笑い出した。
「そんで、純情フジコセンセの10年愛の相手いうのは、誰ですのん?」
桐原はまだこみ上げる笑いを噛み殺そうとしながらクマさんに聞いた。
「ええ話やろ。アンタら得したで、こんなええ話聞けて。」
クマさんはこれおいしいなと言いながら、ひなあられをぼりぼり食べている。
お茶淹れ直そか、といつものごとくのっそり立ち上がった。
私も手伝います、と麗香も立ち上がる。
「ちょっとクマ!」
おや、さっきまで黙っていたフジコちゃんが反撃に出るもようだ。
「アンタ、どうしてあんなこと言うのよ?!」
「あれ、言わん方がよかったんか?」
そういわれるとフジコちゃんは気勢を殺がれたかのように、目に見えてしょぼんとなってしまった。
「そういうわけじゃないけど・・・アンタがどういうつもりなのかなと思っただけよ。」
「そやなぁ、アンタは困ったことになったなぁ。
10年越しのカレとやらに告白せんことには、ここにいるこいつらも、山村サンもありすちゃんも、納得せんやろ。
もしもせぇへんねんやったら、山村サンと一緒になるいうことになるかもしれへんなぁ。」
うわ、クマさん、言っちゃった。桐原クンと麗香は顔を見合わせた。
そう言われたときのフジコちゃんはちょっとした見ものだった。
思わず立ち上がりテーブルをドンと叩く。
その拍子に、元々ぐらぐらしていたローテーブルはバランスを崩し、ひなあられが盛大に飛び散った。
「アンタッ、それが目的で助け船出したのねっ!」
涙目でくってかかるフジコちゃんだ。
フジコセンセは他人に怒ってるときが一番かわいいなぁ、でも怒られとうはないなぁ、とイケメンだけどちょっと残念な桐原クンは思うのであった。
「あぁあ、美味しかったのに。アンタ、食べてへんのとちがうか、ワシのん、あげよか。」
自分の分だけ小皿に取り分けていて無事だったクマさんは、ひなあられをもぐもぐしながら、小皿をフジコちゃんに差し出した。
フジコちゃんは手をテーブルについて、がっくりうなだれていた。
飛び散ったひなあられを片付けていた麗香は、「みるくちゃん、これ食べる?」とウサギのみるくに落ちたひなあられを勧めてみたが、やはりみるくはひなあられは好きではないようだった。
「それじゃ、桐原クン、私たちは帰りましょう。」二人の教師の微妙な空気に気づかず、残ったひなあられをほおばっている桐原の腕を強引に引っ張りながら、麗香は「おじゃましました~」と明るくドアを閉めた。
桐原クンと一緒だし、おしゃべり雀のみんなへの報告はあとまわしでいいや、と考えながら。
部屋の中では年齢だけオトナな二人が座っている。
「ま、ええんとちゃうか。ありすちゃんはかわいいけど、まだママにはなりとうないやろ?」
クマさんは明るく呟く。
フジコちゃんはふてくされてしまったのか、返事をせずにそっぽを向いている。
「なぁ、アンタ、覚えてるか?」
クマさんはテーブルの上の淹れなおしたお茶を飲み干した。
「昔、ワシらの前で、『アンタたち、アタシに好きだって言わせるようになってみなさいよ』って言うたやろ」
フジコちゃんは顔をあげてつぶやく。
「覚えてたの」
「そら、そうや。あの時からワシ、アンタのこと好きやもん。」
「えっ」
フジコちゃんの目が大きく見開かれた。
「ほんとに?」
「ワシ、うそはつかへんで。そやから、アンタも言うてみぃ。」
「クマ…」
二人がちょうどいい感じになったその時、ドアがノックと共にがばっと開かれた。
「よかったぁ、みるく、ここにいたのね!」
ウサギのみるくのいない事に気づいて、引き返してきたありすであった。
ありすはみるくを腕に抱くと、やおらクマさんのそばにやって来た。
「クマセンセ、今日はどうもありがと。これは今日のお礼です。」
ありすはクマさんの右頬にチュッとかわいらしくキスをして、「お邪魔しました~」とさわやかに去って行った。
あとに残されたフジコちゃんが急に冷たい顔になって、ぼんやりしているクマさんに向かって
「アンタ、ロリコンだったのね」
と言ったとか、言わないとか。
それは二人だけのお話としておきましょうか。
完
これにてフジコちゃんとクマさんのお話は一応おしまいです。
短編から沢山の皆さんに愛していただいて、二人も喜んでいる事と思います。
拍手お礼にありますようにいろいろな方にお手伝いしていただきました。
あらためてお礼申し上げます。
また、拍手などで大勢の方がコメントを下さって、毎回励みになっておりました。
本当にありがとうございました。
また、別な機会にお会いできることを心より願っております。
桐原草 拝