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5 お嬢ちゃんお待ちなさい、ちょっと落し物

「貴女は『王様と私』のアンナのように私の心を捕えて離さない。」

と言いながら、小指の指輪が金色に輝くハンプティ山村は、フジコちゃんの手を取って立たせた。

「一目ぼれって信じますか? 私は貴女に毎日、一目ぼれしているのです。」

フジコちゃんは完全に目が泳いでいる。


盛り上がる山村教授を置き去りにして、麗香の妄想は止まらない。

『王様と私』の王様ってハゲてたよね?

頭の中では、髪を脱ぎ捨ててゆでたまごのような輝きを見せている山村教授が、「I ♡ NY」のTシャツでクマさんの白衣をはためかせたフジコちゃんと、講堂をぐるぐる回りながらダンスしていた。

教授は「シャ~ル ウイ~ ダ~ンス」を上機嫌で歌っていた。


フジコちゃんは、教授の言葉を顔を真っ赤にして聞いていたが、この構図は教授と手に手を取り合って見つめ合っているように見える、という事に気づき手をふりほどいた。

そして、クマさんをちらりと見ながら、教授に何かを言おうと口を開けたその時。


「ありすちゃん、指輪見つかってよかったなぁ。」

今まで黙っていたクマさんがいきなり口を開いた。


「え、ええ、ありがとうございます。」

ウサギのみるくの首から外した指輪を見ながら、ありすが答えると

「アンタ、それ、このヒトにあげるんか?」

と突っ込んだ。


「え、あの・・・」

ありすは返答に困って、父親である山村教授を見た。

教授は今にも、フジコちゃんの手を取り踊り出しそうだったが、娘の表情を見て取り止めた。


「このヒトなぁ、自分でもよう言うてるとおり、意外と純情なんや。」

クマさんはありすに向かって、このヒトとフジコちゃんを指しながら、飄々と話し出す。

一体なにを、といいかけたフジコちゃんは、思い直したようにもう一度座り直した。


「ワシも大学の時からの付き合いやからよう知ってるんやけどな、

このヒト実はずっと好きなヤツがおんねん。


このヒトな、無駄に顔とスタイルがええやろ?

いろんな男につきまとわれてたんや。

そやけど、なんか、ソイツの事が気になって今までうまい事いかへんかったんやて。


そんでもな、このヒト、性格がアレやろ、まさかそんなかわいらしい恋してる思わへんやん。

よう言い出せんとずっときてしもたみたいやねん。

かれこれ大学出て10年以上、ずっと心に秘めとったみたいやわ。


百人一首にあるやろ、

<恋すてふ わが名はまだき たちにけり 人しれずこそ 思ひそめしか>っちゅうヤツや。」


一体だれの話をしているんだ?

一番そう言いたいのは他ならぬフジコちゃんではないのでしょうか?

ぽかんと口を開けたままクマさんを見つめているフジコちゃんを見ながら、麗香はそう考えていた。


「でもな、10年も思い続けていたら疲れるやろ、さすがのこのヒトも疲れたみたいやねん。

最後にソイツに告白して終わろ、思たんやて。


そう決心した時に今のお父さんの話や。このヒトも踏ん切りつけにくいのん、わかるやろ?

なんせ10年やさかいなぁ。

いっぺん当たってみて、砕けるかどうかしらんけど、告白してみんと、このヒトかて気持ち切り替えらへんのと違うやろか。


ま、いっぺん言わしたろうや。

お父さんの話はそれからでも遅くはないと思うで。」


気がつくとありすは感動で目が潤んでいた。

「そんなことがあったなんて、知りませんでした。・・・嫌な事言ってごめんなさい、フジコ先生。」


フジコちゃんは、不意をつかれて、「い、いえ」もごもご口の中で返答している。


ありすは続ける。

「私、フジコ先生の恋を全力で応援します!


お父様、行きましょう。

お父様がフジコ先生を想う気持ちはよく判ってるわ。

でも、フジコ先生の気持ちが先よ。

フジコ先生の恋ががダメになったら、その時はお父様が立候補なさればいいじゃないの。

今はまず、フジコ先生の恋を見守ってあげてください。」


そういって、ありすは父親に一言も言わせず、父親を引っ張って部屋を出て行った。


後にはウサギのみるくちゃんが、出窓のところでひっそり座っていた。


「お嬢ちゃん、また落しモンやで。」

クマさんは一回だけウサギをなでてから、「ま、ええか。あとでまたくるやろ」とひとりごちた。




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