世界で最もユーモラスなピザ
今日、私は世界で最もユーモラスなピザを作るのだ。
午前九時十三分、私は台所に材料を並べた。
トマトソース、モッツァレラチーズ、ベーコン、むきエビ、マッシュルーム、それから黒オリーブ。
生地は昨夜のうちに四枚分仕込んでおいた。もっとも、世界で最もユーモラスなピザになれるのは、そのうちの一枚だけだ。
さっそく、生地を丸く伸ばした。
世界で最もユーモラスなピザは丸くなくてはならない。
もちろん、四角いピザが存在することは承知している。しかし、四角いというだけで面白くなるわけではない。三角形にすれば多少は意表を突けるかもしれないが、それでは大きな一切れのピザにしか見えない。
こういった奇抜さに頼るのは自信のなさの現れだ。私は自信と誇りをもって世界で最もユーモラスなピザの制作に取り組んでいる。
直径は二十八センチ。ユーモアを追求した結果、この寸法に落ち着いた。
次に、生地にトマトソースを塗り、チーズを散らした。
ここまでは普通のピザである。
問題はここからだった。
私は人を笑わせたい。
それも、可能ならば、何の説明もなく笑わせたい。
ピザを見せるたびに、なぜ面白いのかを説明していては仕方がない。説明を聞いて笑うのであれば、それは説明が面白かったのであって、ピザが面白かったわけではないからだ。
そこでまず、黒オリーブを八粒、円周に沿って配置した。
残る一粒を慎重に中央に置く。
八人が一人を取り囲んでいるように見える。
私はしばらく眺めた。
面白くない。
取り囲まれている一人が、ひどく気の毒だからだ。
中央の一粒を少し右にずらしてみた。
今度は八人の会議に、一人だけ遅刻してきたように見える。
私は笑った。
しかし、すぐに笑うのをやめた。
遅刻という既存の概念に頼っている。これではピザそのものの面白さとは言えない。
私はオリーブをすべて取り除いた。
午前十一時四十八分。
ここまでの成果は、生地のみである。
私は一度手を洗い、椅子に座った。
面白いとは何か。
人間は予想を裏切られたときに笑うという。しかし、予想を裏切るだけなら、玄関を開けたところに冷蔵庫が置いてあっても面白いことになる。
それは面白いだろうか。
面白いかもしれない。
私はその光景を想像して少し笑った。
だが、今はピザの話をしている。
考え直す必要があった。
私はメモ帳を開き、今月笑ったもののリストを確認した。
転んだ人。
言い間違えた人。
犬。
犬については、もう少し詳しく記録しておくべきだった。犬というだけで笑えるわけではないからだ。もっとも、犬とだけ書いてあることは少しばかり面白い。
私は「犬」の横に小さく丸をつけた。
午後零時二分。
腹が減ったので、食パンを一枚食べた。
当然、ピザには手をつけなかった。
午後一時十六分、再び作業を始めた。
今度はベーコンを使うことにした。
二本を平行に並べ、そこに一本だけ斜めに置く。
奇妙なことに、それだけで三本目がひどく生意気に見えた。
私は思わず笑った。
かなりよい。
しかし、三本目を反対方向に傾けると、今度は申し訳なさそうに見えた。
私は笑わなかった。
これは重大な発見だった。
角度によって、ベーコンの人格が変化するのである。
私は分度器を取り出した。
三十度。
四十五度。
六十度。
七十五度。
三十八度に戻す。
三十八度が最も生意気だった。
これは良い。
だが、ベーコンが三本並んでいるだけでは、世界で最もユーモラスとは言えない。
私はもう一本加えた。
四本目は他の三本より明らかに長く、最初の三本などまるで眼中にないようだった。
気づけば、四本目ばかりを見ていた。
四本目が笑いを独占している。
これは由々しき問題だった。
四本目が面白ければ面白いほど、ほかの三本はただそこに置かれているだけになってしまう。
三本目など、あれほど生意気だったのに、今では四本目の引き立て役に甘んじている。
ひとりが面白いことと、集団として面白いことは違う。これは集団で何かをする際にしばしば起こる問題だが、ピザも例外ではない。
私は協調性に欠ける四本目のベーコンを取り除き、冷蔵庫に戻した。
午後二時四十一分。
生地の縁が少し乾き始めていた。
私は新しい生地を用意し、再び二十八センチに伸ばした。
トマトソースを塗り、チーズを散らした。先ほどの三本のベーコンも移した。
最初の生地が悪かったわけではない。むしろ、よくできた生地だった。ただ、私の不手際によって、世界で最もユーモラスなピザの生地になるという栄誉を奪ってしまった。
彼に恥じないように、必ず世界で最もユーモラスなピザを作り上げなければ。
私は決意を新たにした。
午後三時十八分。
行き詰まったので、スマートフォンを取り出しAIに相談することにした。
「世界で最もユーモラスなピザを作るには、どうすればいいですか」
少し間があった。
「まず、右膝と左膝のどちらを使うか決めましょう」
私は吹き出した。
午後三時二十八分。
私はマッシュルームを取り出した。
包装には「生産者の顔が見える」と書かれていた。
確かに顔写真が載っていた。
ただし、顔には三割引のシールが貼られていた。
私はしばらく具材を吟味し、マッシュルームとむきエビを生地に載せた。
午後三時四十分。
私は食卓に突っ伏していた。
面白いものを三つ集めれば、三倍面白くなるだろうか。
そんなことはない。
だとすれば、面白さとは足し算ではないのだろう。
私は顔を上げ、しばらく考えた。
引き算だろうか。
私はむきエビを一尾取り除いた。
エビの下には、その形に沿ってくぼんだチーズが残っていた。
私は笑い出した。
一度は収まったが、もう一度見ると、また笑いが込み上げてきた。
引き算かもしれない。
しかし、次に何を取り除けばよいのか分からなかった。
午後四時三十八分。
私は世界で最もユーモラスなピザの具材の配置を決めた。
三本のベーコンと九粒の黒オリーブ。
マッシュルームとエビも、ちょうどよい位置に収まっていた。
一つずつ見れば、どれもそれほど面白くない。
しかし、全体を眺めていると、自然と笑みがこぼれた。
これこそが、世界で最もユーモラスなピザだった。
私は一度目をそらし、もう一度眺めた。
やはり面白かった。
私は慎重に位置を調整した。
一ミリ右へ。
二ミリ左へ。
三本目のベーコンを、さらに二度傾ける。
二次元的にも三次元的にも完璧な配置だ。
私は分度器をしまった。
もう、何もする必要はなかった。
午後五時六分。
私はピザをオーブンに入れ、つまみを回した。
チーズがゆっくりと溶けて崩れ始めた。
ベーコンが縮んだ。
黒オリーブが少し動いた。
マッシュルームは反り返り、エビは特に変わらなかった。
私は立ち上がった。
私のピザが、ピザになってしまう。
タイマーの目盛りを見ると、残り七分を指していた。
七分あれば、何かできるかもしれない。
しかし、オーブンを開ければ温度が下がる。焼成の途中で配置を修正することもできるが、そうするとチーズが乱れる可能性がある。
私は七分間、考え続けた。
結局、何もしなかった。
午後五時二十四分。
ピザが焼き上がった。
私は皿に移し、食卓の中央に置いた。
椅子に座り、ピザを見た。
私は考えた。
しばらく考えた。
午後六時三十一分。
額に汗が滲んでいた。
私は袖口で拭った。
ピザはすっかり冷めていた。
午後七時四十二分。
腹の底から、じわじわと怒りがこみ上げてきた。
私は奥歯を噛みしめた。
何がいけなかったのか。
午後八時四十二分。
涙が一粒、ズボンに落ちた。
私はしばらく染みを見ていた。
午後九時六分。
私はまだピザを見ていた。
少し首を傾けると、ピザが笑っているように見えた。
私は首を戻した。
テーブルの上には、ピザが一枚ある。
ただ、それだけだった。
午後九時四十三分。
窓の外は真っ暗だった。
私は大きく息を吐いた。
今日はここまでにしよう。
ピザをラップで包み、冷蔵庫にしまった。
使わなかった材料を片づけ、食器を洗った。ノートは引き出しに戻し、分度器も定位置にしまった。
それからシャワーを浴びた。
風呂から上がると、スマートフォンに会社の同僚からメッセージが届いていた。
月曜日の営業会議で使う資料についての確認だった。
私は内容を読み、簡潔に返信した。
明日も九時から勤務だ。
いつもと変わらない一週間が始まる。
私は明日のワイシャツにアイロンをかけ、歯磨きをした。
それから目覚まし時計を七時に設定してベッドに入った。
今日はなかなか充実した休日だった。
来週は、もう少し面白いピザを作ろうと思う。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本作は、長編小説の執筆に行き詰まった際、気分転換として書いた露悪的な短編を、公開に向けて加筆・修正したものです。
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