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スフィアの神  作者: 琶苑
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第1話:契約と別れ

人間、妖精、魔族、獣人、ドワーフが生存する世界『スフィア』。


力を持つ妖精族、魔族、獣人族の仲は悪く、互いににらみあい、戦争していた。


妖精族は“秩序”のために…。


魔族は“支配”のために…。


獣人族は“自由”のために…。



それぞれの世界づくりのために、長年争いを続けていた。



戦争に巻き込まれた人間とドワーフは年々数が減っていった。


生き残った人間とドワーフは神を召喚した。


神は1つだった大陸を4つに分散した。


1つは妖精族が統治する『フェリアス』。


1つは魔族が統治する『ディスウィル』。


1つは獣人族が統治する『グレイル』。


1つは神が統治し、中立の国『ソレイユ』。



神は大陸を分散することで、戦争を止めた。


神が大陸を分散してから、500年がたった。























【妖精族の国『フェリアス』】




「クロウさん!

どこにいますか?」



少女がアセルア村の外のアセルアの森で人を捜していた。


名前で呼んでも返事はなかった。


今度は先ほどよりも大きい声で呼んでみた。


「クロウさん!!!」


「そんなに叫ばなくても聞こえている」



「え?どこですか?」


「ここだ」



少女が声がした方を見るとそこは大樹の上だった。

大樹の上から一人の青年が降りてきた。



「クロウさん、大樹にあがって何をしてたんですか?」


「大樹の枝が傷んで折れそうだったから布で折れないようにしてきただけだ。

それより、何の用だ?」



クロウに言われて少女は本来の目的を思いだし、ハッとした。



「そうだったわ。

クロウさん、おじいちゃんが呼んでましたよ」



「村長が………。また魔物退治か?」


「分からないけど、多分そんなかんじだと思います」



「分かった。面倒だが、世話になってるから逆らう訳にもいかないな。

それから、リリィ」


「はい」


「敬語はやめろ。“さん”もいらない。

俺たちは他人じゃないだろ」


「え…でも…」


「敬語を使われると俺としては窮屈だ」


「わかりまし、わかったわ」


「あんまし村長を待たせるわけにもいかないし、村に戻るか」


「そうだね。早く行きましょ、クロウさん……(じゃなくて)クロウ」



クロウとリリィは大樹を離れ、森の外へと向かい、村へと戻った。
















【アセルア村】



「遅い!もっと早くこんかい!!」


「年くってるくせに、短気なじーさんだな」


「老人をもっと敬わんかい」


「そんなことより用件はなんだ?」


「“そんなこと”ではなかろう。

……まぁ、いいわい。最近、夜になるとアセルアの森で変に光っておるのじゃ」


「まさか、その光を調べろっていうのか?考えるだけで面倒だな」


「お主はもともとは傭兵じゃろう。少しは働かんかい!」


「クロウ、村人がその光を怖がってるの。

私も手伝うから調べに行きましょうよ」


「まぁ、この村には世話になってるしな。

俺が人間だってことを隠してもらってるし…。面倒だがやるよ」



それから夜になってクロウとリリィはアセルアの森へと向かった。

昼の森とは違い夜の森は静かだった。



「森に来たのはいいが、光がないと調べようがないな」


「でも、そろそろ光が出るころだけど…。

あっ!光ったわ」



森の奥の方で何かが光った。

二人は光が見えるのと同時に光った方へと走って行った。


光っていたのは大樹だった。




「大樹が光ってる…」


「なんか光のなかになんかあるな。ちょっととってくるからそこで待ってろ」


「え?危ないわよ」


「とりあえず、光の原因を突き止めないといけないだろ。

じゃねぇとあのじーさんがうるさくてさらに面倒だ」



クロウはゆっくりと光の中に手を差し伸べた。

そして光の中のものをつかむと手を引いた。



「!!」


「女の人?!」



クロウが大樹から光を取り出すと、光は少しずつ消えていき、光の中から少女が姿を見せた。

少女は目を覚まし、目の前にいたクロウを見た。



「あなたが…私の契約者…」



少女はそうつぶやくと有無を言わさず、クロウに口づけをした。



「なっ、何してんのよっ!!」



クロウが少女を引き離すより先に、リリィが少女とクロウを引き離した。



「あなた、いきなり出てきて何なの?

しかも、(私が先にキスするはずだったのに)クロウにキスして!!!」



「キス?あれは契約の誓いよ」


「契約?なんの契約だ?」


「次なる世界の王になるための、神の地位につくことができる契約」


「神の地位?次の世界の王?

何を言ってるのかわかんねーけど、とりあえず村に戻ってゆっくり説明してくれ。

この森は危険が少ないとはいえ、あんまり夜に長居するのはよくないからな」


「わかったわ」



クロウとリリィは少女をつれて、村へと戻った。















二人は森から帰ったら、村長の家へとはいって行った。



「おじいちゃん、今戻ったわ」


「無事じゃったか。

ん?そのお嬢さんはなんじゃ?」


「こいつが光の原因だ」


「はぁ?お前さん、ついにバカになったのか?」


「そう思いたいなら思えばいいだろ。

だが、この女が光の原因なのは事実だ」



村長はリリィを見た。

リリィは村長からの視線に気づくと、うなづいた。



「本当よ、おじいちゃん。この娘〈こ〉が光っていたの」


「とりあえず、リリィの部屋に行っていいか?」


「そうね。私の部屋に行きましょう」



クロウとリリィは少女をつれてリリィの部屋へと向かった。


リリィの部屋につくと、3人はそれぞれ座るとクロウとリリィは少女をみた。



「まず、お前は何者だ?」


「私はシズクよ」


「ねぇ、シズクって種族は何?」


「種族?」


「私は妖精族だけど、苦労は人間なの。

シズクは妖精族でもないし、魔族でもないし、獣人でもないし…」


「私は“神種”よ」


「神種?聞いたことのない種族だな。神種ってなんだ?」


「神の子のことよ」


「神の子!?」


「じゃあ、お前は神なのか?」


「私は神から生まれたけど、神じゃないわ。

神になるということは世界の王だから。私は世界の王じゃないから神じゃないわ。

だから私は神種なの」


「じゃあ、あの“契約”って言ってたあのキスはなんなの?」


「契約の証は口づけ。

王の血を引く者には世界の王になる資格が与えられるの」


「王の血?」


「王の血を引く者ならだれでもいいの。

妖精族の王の血縁者でも魔族の王の血縁者でも獣人族の王の血縁者でもいいの」


「ちょっと待ってよ。シズクの言うことが本当ならクロウに契約をするのはおかしいわ」


「どうして?」


「クロウは王の血をひいてないもの」


「そうなの?」



シズクは首をかしげてクロウを見ると、クロウは口を開いて答えた。



「俺は王の血は引いていない。人間だしな」


「そうなの?でも、おかしいわ。王の血をひいていないなら契約できないもの。

あなたと私の間には契約が成立しているわ」


「なにか誤算が生じたんだろ?

人間の王なんて聞いたことないしな」


「そうかしら」


「分かったならさっさとクロウとの契約を破棄してよ!」


「ごめんなさい。契約破棄の仕方がわからないの」


「え?わからない?」


「王の血をひいていない人と契約が成立するとは思わなかったから…。

だから私、わからないの」



クロウとリリィは同時にため息をついた。



「じゃあ、何でお前は大樹の中にいたんだ?」


「あの大樹はマナがたくさんあったから。

マナが強いところに自然と惹かれたの」


「確かにあの大樹には昔から精霊が宿ってるからマナが強いとは聞いてたけど…」


「とりあえず今日は疲れたから寝る。

リリィ、シズクは頼む」



部屋を出ていこうとするクロウにシズクは声をかけた。



「クロウは一緒じゃないの?」


「俺は村の者じゃないからな。家はないし、この村には宿もない。

俺は外で寝るんだ」


「クロウは村の人じゃないの?」


「この村にはかくまってもらってるだけだからな」


「どうしてかくまってもらってるの?」


「クロウは人間でしょ。人間とドワーフってね今じゃ珍しいのよ。

絶滅危惧種よ。天然記念物的存在よ」


「(それは言いすぎな気がするが…、まぁ、あながち間違いじゃないな)」



リリィの言ったことに対してクロウはそう思っていた。

クロウがそう思っている間にリリィはシズクに説明を続けていた。



「人間とドワーフは保護対象なのよ。公〈おおやけ〉にはされてないから一般人には知られてないけど、

少なくとも妖精軍にクロウが見つかったらきっと捕まえようとするのよ」


「そうなの?」


「この村に来る前は軍に追われることはそれなりにあったからな。

お前と話してたらさらに疲れた。早く寝たい…」



クロウは独り言をしながら、リリィの部屋を出て行った。

部屋にはリリィとシズクだけが残った。



「とりあえず、お風呂に入ってご飯でも食べましょう」


「お風呂に入るの?」


「シズクはずっとあの大樹にいたんならずっとお風呂に入ってないんでしょ。

お風呂に入るのは女の子のたしなみよ」


「そうなの?」
























次の日になってクロウはまた大樹のある場所にいた。

そして、大樹の光っていた場所に触っていた。



「……世界を旅しても、分からないことは、まだあるんだな…」


「クロウ!!!」



リリィがクロウの名前を呼びながら、クロウのところにシズクと一緒に走ってきた。

様子からしてあわただしいようだった。



「どうした?またじーさんが呼んでるのか?」


「違うの。村に妖精軍が来てて…」


「軍が?なんで、こんな何もない村に?」


「おじいちゃんを連れていこうとしてるの!!」


「じーさんって確か昔は軍に所属して、今は引退してるはずだろ。

今になってじーさんを連れていくなんてどういうつもりだ?」


「よくわからないのなら、村に行けばきっとわかるわ」


「でも、軍がいる村にクロウが行くのは危ないわよ」


「……いや、俺は行く」



クロウの答えにリリィは驚きを隠すことができなかった。



「どうして!?クロウは軍から逃げるためにこの村に来たはずよ」


「なんだかんだ言ってあのじーさんには世話になってるからな。

恩をあだで返すわけにはいかないだろ」


「クロウがそういうならわかったわ。でも、クロウはどこかに行っちゃいやだからね」



リリィはそう言うと、クロウの手をつかんだ。

クロウはただリリィを見ていた。



「……」


「クロウはどこにも行かないでね」


「……行くぞ」



クロウはリリィの手を振りほどくと、急いで村へ向かった。

シズクもクロウの後を追うように村へ向かう。

リリィは小さくなっていくクロウの背中を見つめていたが、すぐに村へ向かった。




















村にはリリィの言う通り妖精軍がいて、村長がつかまっていた。

その様子をクロウ達は物陰からのぞく。


村長が軍をまとめているであろう男に話かける。



「こんな村まで来て何の用じゃ。わしはもう現役を引退したはずじゃが?」


「世界を妖精のものとするために我々には戦う人が必要なんです。

そのためには敵から“剣豪”と呼ばれたあなたの力が必要なんですよ、ゼーザン殿」


「わしは剣を持つ気はまったくないぞ」


「そう言うと思いました。それでも、私はあなたに来てもらいます。

そのためならば手段は選びません」



男は部下に合図をすると、部下は村人の女を一人つれて来た。

そして、村人に剣を向けた。



「きゃあ!!」


「!!!」


「ダルシアン、お前さんは相変わらず目的のためには手段を選ばんのじゃな」



ダルシアンと呼ばれた軍の男は再びゼーザンを見た。



「自由に選択させてあげますよ。

ただし、あなたが断れば、村人が一人ずつ消えていきますが」


「村長!私たちのことは気にしないでください!」



周りの村人たちはゼーザンにそう言い放った。

しかし、ゼーザンの心は村人たちの言葉とは裏腹だった。



「村の者たちを守れないで何が村長じゃ…。

これもお前たちを守るためじゃ…。お主らと………」



『なんだ、おま…ぐわっ』



突然、向こうのほうが騒がしいことにその場全員は気付いた。

ダルシアンは不機嫌そうな顔をして、部下たちに尋ねる。



「何事だ?」


「何者かが軍の者を次々と倒しています!!」


「何!?」



ダルシアンが報告を受けた次の瞬間、殺気に気付き、ダルシアンは剣をかまえて襲ってきた者の攻撃を防いだ。

ダルシアンに攻撃を仕掛けたのはクロウだった。



「くっ!!」


「悪いが、じーさんを連れて行かせるわけにはいかねぇ」


「クロウ!!お前、なぜ来たんじゃ!?」



ゼーザンはクロウの姿を見て、とても驚いていた。

クロウはゼーザンを見て、無事な様子でほっとしていた。



「じーさんに恩返しだよ」


「だが、お前さん…」


「気にするな。こいつらを倒せばそれで問題はない」



ダルシアンはクロウをジロジロとみている。



「あなたは人間ですね」


「だとしたらどうするんだ?」


「人間は手厚く保護するように言われていましてね。

我々と来ていただけませんか?」


「断る。ずっとお前らの監視下にあるのは嫌だし、面倒だからな」


「なるべく手荒なことはしたくないんですがね…。

ですが、あなたが生きていれば問題はありません。

手足がなくともねっ!!」



ダルシアンは言い終わるか終わらないかで、クロウに攻撃をしてきた。

クロウはダルシアンの攻撃にすぐさま反応し、大剣で攻撃を防ぐ。

剣と剣がはじきあう音が響き続ける。



「なかなかやりますね。

人間は取り柄のない生物だと思っていましたが…」


「人間でも武器で戦うくらいはできるさ」



クロウの戦いの様子を遠くから見ていたシズクとリリィ。



「クロウ…」



今まで黙って見ていたシズクは杖を光とともに出現させ、クロウのところへと歩いて行った。



「シズク、危ないわよ!」



リリィはシズクを呼びとめるが、シズクは聞く耳を持たなかった。

それどころか歌を歌い始めた。



「~♪」


「こんな時に歌なんて…」



その歌声はクロウたちにも聞こえていた。



「何だ?この歌は?」


「ダルシアン様、なんだか力が抜けて…」


「私もです…」



ダルシアンの部下たちはどんどん力がぬけてゆき、膝を地面につけていった。



「くっ…!力が…」



ダルシアンにもその効果が表れていた。

しかし、他の者とは違い、なんとか立ち続けてはいた。



「クロウ!」


「リリィ…。この歌は…?なんだか、力が抜けていくんだが…」


「シズクが歌ってるのよ」


「シズクが?」



クロウがシズクを見ると、シズクは歌っていたが、歌うのをやめてしまった。

そして、苦しそうにした。



「シズク!」



クロウは素早くシズクにかけよる。



「大丈夫…。少し疲れただけだから…」



歌がやむと、軍人たちは力がはいるようになり立ち上がった。

リリィはクロウのところへと急いで行った。



「クロウ、どうしよう…」


「……」


「クロウ!二人をつれて逃げるのじゃ!!」


「おじいちゃん!?」



ゼーザンはクロウにそう言うと、リリィは驚く。



「お前の恩返しなんぞいらんわい!

どうしても恩返ししたいなら、リリィを頼むぞい!!」


「……わかった」


「おじいちゃんを見捨てるの!?」


「いくら剣の達人でも、この圧倒的不利な状況で勝つのは難しい。

逃げるのが一番いい方法だ」



リリィはクロウにそう言われて、周りを見た。

クロウたちに対して軍人は武器を持っていて、人数も圧倒的に不利な状況だった。



「…わかったわ…。おじいちゃん、元気でいてね。死んじゃ嫌だよ!!」



クロウはシズクとリリィを連れて村を出ようとした。

しかし、クロウの目の前に軍人が立ちふさがる。



「人間を目の前に逃がしませんよ」


「邪魔だ」



クロウはそう敵に冷たく言い放つと、大剣で軍人を斬りつけた。

道ができると、村の外へと走った。



「逃がしてはいけません!追いかけるのです!!」



ダルシアンの命令で数人の部下がクロウ達を追いかける。


クロウ達は走りながら話合っていた。



「とりあえず、森に行くぞ。森から町にいけるはずだ」


「うん…」



クロウ達は森へと逃げ込んだ。当然、敵はクロウたちを追って森の中へ入るが、木々が邪魔でクロウたちを見失った。




「おじいちゃん……」


「大丈夫だ。話しからするとじーさんを殺すわけじゃないみたいだしな」


「うん……」



クロウが落ち込むリリィを励ますが、リリィは落ち込んだままだった。

そんなリリィを見て、クロウはため息をつくと、リリィの頭にポンと自分の手を頭に置いた。



「気休めでしかないが、お前は一人じゃない。

できる限り、俺がお前のそばにいてやる。だから泣くな」


「クロウ…ありがとう…」



リリィは顔を上げていなかったから、クロウとシズクには見られていなかったが、

涙を流していた。



クロウたちは森の奥へと進んでいった。

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