第五章 君と歩む明日
ブラック企業で心を擦り減らしていた佐倉悠人。ある夜、ビルの屋上から転落した彼が目覚めたのは、争いのない穏やかな異世界だった。失った光を取り戻す、心温まる再生の物語
「ねぇ、悠人」
光が僕の隣に腰を下ろした。
塔の頂上から見える景色は、どこまでも穏やかで美しい。村の家々が小さく見え、遠くには青々とした森が広がっている。
「なに?」
「僕ね、ずっと心配だったんだ。君が笑わなくなっちゃって」
光は空を見上げながら、静かに続けた。
「小学生の頃、君はもっと笑ってたよね。僕と一緒にいる時、すごく楽しそうだった」
僕は、胸が締め付けられるような思いがした。
「うん……光がいなくなってから、僕は笑い方を忘れちゃったのかもしれない」
「そっか」
光は少し寂しそうに微笑んだ。
「でもね、君はこの世界で少しずつ笑顔を取り戻してきてる。それが見られて、僕は本当に嬉しかったんだ」
その言葉に、僕は何か引っかかるものを感じた。
「光……?」
「悠人」
光は僕の方を向いた。その瞳が、どこか寂しげに揺れている。
「僕ね、そろそろ戻らなきゃいけないんだ」
「戻る……って、どこに?」
「天界。神様の世界だよ」
僕の心臓が、ドクンと大きく脈打った。
「待って、それって……」
「うん。僕は神様だから、ずっとこうして君のそばにいることはできない」
光の声が、優しく、でも確かに告げる。
僕は必死に首を横に振った。
「嫌だ。せっかく、せっかくまた会えたのに……」
「ごめんね」
光は申し訳なさそうに笑った。
「でも、これでいいんだ。君がもう大丈夫だって、わかったから」
「大丈夫なんかじゃない!光がいなくなったら、また……また一人になっちゃう」
声が震える。
涙が溢れそうになるのを、必死にこらえた。
光は、そっと僕の頭に手を置いた。
「悠人は、もう一人じゃないよ」
「え……?」
「この世界には、君を大切に思ってくれる人たちがいる。エリーゼさんも、村の人たちも、みんな君のことが好きなんだ」
光の手が、温かい。
「君はもう、あの時の孤独な悠人じゃない。ちゃんと、人と繋がれるようになってる」
「でも……」
「それに」
光は、いつものように明るく笑った。
「僕はいなくなるわけじゃないよ。ただ、姿が見えなくなるだけ」
「どういうこと?」
「僕は神様として、この世界をずっと見守ってる。君のことも、ずっと見てるよ」
光は空を指差した。
「困った時は、空を見上げて。僕に話しかけて。きっと、何か力になれると思うから」
僕は、ゆっくりと空を見上げた。
青く広がる空が、どこまでも続いている。
「本当に……会えなくなっちゃうの?」
「うん。でもね、悠人」
光は僕の肩に手を置いた。
「君はもう、ちゃんと生きていける。自分の足で、前を向いて歩いていける」
「自信ない……」
「大丈夫だよ。だって君は、僕の大切な親友だもん。きっと、大丈夫」
光の体が、うっすらと光り始めた。
「あ……」
「時間みたい」
光は少し寂しそうに笑った。
「ねぇ、悠人。最後に一つだけ、約束して」
「約束……?」
「笑って生きてね。辛いことがあっても、悲しいことがあっても、ちゃんと笑顔を忘れないで」
僕は、涙をこらえながら頷いた。
「うん……約束する」
「ありがとう」
光の体が、どんどん透けていく。
「じゃあね、悠人。また、いつか」
「光……!」
僕は思わず手を伸ばした。
でも、光の体はもう、僕の手をすり抜けてしまう。
「ありがとう、悠人。君と友達になれて、僕は本当に幸せだったよ」
最後にそう言って、光は眩い光に包まれた。
そして、光が消えた後には、何も残っていなかった。
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畠山ゆな




