第四章 再び落ちる、その先に
ブラック企業で心を擦り減らしていた佐倉悠人。ある夜、ビルの屋上から転落した彼が目覚めたのは、争いのない穏やかな異世界だった。失った光を取り戻す、心温まる再生の物語
塔は、村の中心から少し離れた場所にあった。
石造りの、古めかしい建物。高さは、見上げるほどだ。
「ここを登るのか……」
僕は深呼吸をして、塔の中へと足を踏み入れた。
螺旋階段が、延々と続いている。
一段一段、ゆっくりと登っていく。
途中で何度か休憩を挟みながら、ようやく頂上にたどり着いた。
「ふぅ……」
頂上には、小さな台座が置かれていた。
そこに、村人たちが用意してくれたお供え物を置く。
「これでいいのかな」
役目を終え、僕は安堵の息を吐いた。
塔の頂上から見える景色は、どこまでも美しかった。村の家々が小さく見え、遠くには青々とした森が広がっている。
「綺麗だな……」
この世界に来てから、こんな景色を見られるようになった。
元の世界では、ビルとコンクリートしか見えなかった。
光、君はこんな景色を見たことがあったのかな。
ふと、そんなことを考えた。
さて、降りるか。
そう思って足を踏み出した瞬間、僕の体はバランスを崩した。
「わっ……!」
疲労からか、それとも油断からか、足が滑る。
そして、僕は再び宙を舞った。
「あ、この感じ……」
前にもあったな。
不思議と、怖くはなかった。
むしろ、どこか懐かしいような、落ち着いた気持ちだった。
風が、頬を撫でていく。
ああ、このまま落ちるのか。
でも、今度は少し違う。
前は何もかもが嫌で、楽になりたいと思っていた。
でも今は、まだやり残したことがある気がする。
エリーゼさんに挨拶もしてないし、村の人たちにもお礼を言いたい。
もう少し、この世界で生きてみたかった。
そう思った瞬間、全身を包むほどの眩い光が僕を覆った。
「なんだ、これ……」
暖かい。
とても、暖かい。
涙が出そうなほど、懐かしい感覚。
まるで、誰かに抱きしめられているような。
光の中で、僕の体はゆっくりと速度を落としていく。
そして、優しく、地面に降り立った。
「助かった……のか?」
僕は自分の体を確かめた。
どこも怪我をしていない。
完全に、無傷だった。
「でも、どうして……」
周りを見渡すと、そこは塔の頂上だった。
落ちたはずなのに、また頂上に戻されている。
「悠人」
突然、声が聞こえた。
優しい、どこか懐かしい声。
「誰……?」
僕は辺りを見回した。
でも、誰もいない。
「こっちだよ」
声のする方を向くと、光の中から一つの人影が浮かび上がってきた。
少年の姿。
幼い頃の面影を残しながらも、どこか神々しい雰囲気を纏っている。
その姿を見た瞬間、僕の胸が締め付けられた。
「まさか……」
少年は、優しく微笑んだ。
「久しぶりだね、悠人」
その声、その笑顔。
全てが、記憶の中にある。
「光……なのか?」
僕の声が、震えた。
少年は静かに頷いた。
「うん。僕だよ」
涙が、止まらなかった。
信じられない。
でも、確かにそこにいる。
「どうして……どうして君が……」
「ごめんね、驚かせて」
光は申し訳なさそうに笑った。
「でも、君に会いたかったんだ。ずっと、ずっと会いたかった」
「光……」
僕は一歩、光に近づいた。
光もまた、僕の方へ歩いてくる。
そして、二人の距離が縮まった時、光が静かに語り始めた。
「あの日、君がビルから落ちた時、僕は君を助けたくて、この世界に連れてきたんだ」
「君が……?」
「うん。僕が死んでから、この世界の神様になったんだ。でも、ずっと君のことを見守っていたよ」
光の言葉に、僕は息を呑んだ。
「あの会社で、君が苦しんでいるのを見ていられなかった。だから、君をここに呼んだんだ」
「そんな……」
「ごめんね。勝手なことをして」
光は寂しそうに笑った。
「でも、君にはもっと幸せになってほしかったから」
僕は、もう何も言えなくなった。
光は、ずっと僕を見守っていてくれたんだ。
苦しい時も、寂しい時も、ずっと。
「ありがとう、光」
やっとの思いで、そう言った。
「君が……君がいてくれて、本当によかった」
光は、いつものように明るく笑った。
「会えてよかった、悠人」
その笑顔が、あの頃と全く変わらなくて。
僕は、また涙が溢れてきた。
長い、長い時間を経て、僕たちはようやく再会できたんだ。
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畠山ゆな




