迫りくる音から逃げ切れ!限界サバイバル
音が迫ってくる。
決して追いつかれてはいけない。
新井洋平はひたすら音から逃げるために走っていた。
「はぁ……はぁ……生存者は?」
息も絶え絶えに周りを見渡すと自身を含めてわずか五人。
一五人もいた同志達のほとんどは音に飲み込まれてしまっていた。
生きのびている者も大量の汗を流しながら、絶望した表情をしている。
足を止めたものから消えていく。それが共通認識だ。
「すまん……洋平。お別れだ。お前は……止まるんじゃねえぞ」
そう言って足を緩めた瞬間、一人の男が音に飲み込まれていく。
その瞬間に見せた顔は満ち足りていた。
「はぁ……はぁ……ここに来てまだ上がるのかよっ!?」
音が迫る速度が一段と速くなる。
「俺の足はもう限界みたいだ……洋平。お前とここまで生き残れただけで十分だ。これ以上望むのは罰が当たるってもんだろ」
一人また一人と仲間達が脱落していくのを助けることすらできない。
別れを言う時間すら、その音は待ってくれない。
肺も足も限界が近いが、全身を叱咤させながらがむしゃらに腕を振る。
「……ヒャク……」
姿も見えない女性が冷たい声で告げると、
「これが俺の死に様だ」
また一人膝をついて倒れていった。
残りは和樹と洋平の二人だけになったところで再び音の迫る速さが上がる。
「……ふざけやがって」
洋平は魂から絞り出すように怒りを込めて呟いた。
いなくなった者達の顔が走馬灯のように脳裏に浮かび、彼は自分の中のスイッチが押されたような錯覚に襲われた。
「くそがぁあああああ」
音を振り切るように全力疾走。
「ッ!無茶しやがって」
その様子に和樹は顔をしかめる。
「……ヒャクジュウ……」
女性の声が響く。
もはや常人では逃げ切れない速度に到達し、和樹は膝をついた。
「洋平ッ!お前は俺らの最後の希望だッ!全て託した……」
和樹は悔しそうに叫ぶと、音に飲み込まれていった。
「はぁ……はぁ……たくっ、勝手な奴らだ。ずいぶん重いモン背負わされちまったな」
荒い息を吐きながらも足だけは止めない。
音に飲み込まれていった奴らのためにも足を止めるわけにはいかない。
「……ヒャクニジュウ……」
だが、どこまでも冷淡な女性の声が響き、ついに音が彼を捉えた。
全身の力が抜ける。
一歩、二歩進み、膝から崩れ落ちるようにして地面に倒れた。
「新井のシャトルランの記録は百二十回。すでに他クラスは終えているので一回差で学年一位は新井に決まりだ」
体育教師の声に盛大な拍手が巻き起こった。




