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社労士独学合格難路

 社労士試験は、難関に数えられる国家試験である。通常、予備校通学や通信教育を受講し、高額の費用を払わないと合格できない。それだけ、一般に販売されている教本、過去問、等だけでは合格を勝ち取れない、難問・奇問が平気で出てくる試験である。勉強範囲もかなり広い。統計関係の資料だけでも1000ページ以上、過去問でも、5000問以上読み込み、説き、覚え、理解しなければならない。独学合格の道は、険しい。立ちはだかった垂直の岸壁を何度も転げ落ちながら、登り続けなくてはならない。しかし、独学の道にも大きなヒント、チャンスはある。予備校や通信教育なしでも、合格の近道は必ずある。

その秘訣を教示するべく書かれたのが、この小説である。26年合格への道しるべとなることを祈念する。

 暑い日だった。

 横浜関内駅の南中央口出口から、そのビルには僅か数分で付いた。

既に受験生の列が、室内のエレベータから、ビルの入り口まで幾重と列がうねっていた。みな、そうしなくてはならないように、分厚く、手垢で擦り切れ、付箋だらけの教本に見入っている。試験まで数時間前にいくら読んでも、点数1点か2点にしかならないだろうが、教本や予備校は、その1,2点が合格の境目になると教育している。クーラーのよく効いた室内でも、じっと立っていると、真夏の熱気と一発勝負の不安、高揚感から汗が流れ続く。小野は、大きめのハンカチでゆっくりとその汗をぬぐった。

 退職からすでに5年経ってしまった、つまり、この国家試験に4年連続落ちていた。それも、この3年間は、わずか1科目、1点のみ足りずに落ちていた。そんなことが、あるのだろうか。合格点と大きく乖離した得点結果であれば、諦めもつき、受験の道を閉ざし、老後をゆっくり過ごそうとも思ったが、ぎりぎりであると、来年に賭けたくなるのも人間の性である。

 65歳退職前には、小野は、アメリカ・シカゴにいた。23歳で、或る製造会社に入社したが、最後の4年間は、米国子会社に出向になり、慣れない海外生活を送っていた。アパートを賃貸したものの、数か月でいろんな問題が発生した。シャワーの蛇口がプラスチックで2回破損し、お湯が出なくなった。トイレの流し装置の金具が壊れ、数回修理が必要なる。日本風にバスタブに湯を張ると、夜間電気でタンクに溜める方式のタンクがすぐ空になって湯が出なくなる。夜間の停電は日常茶飯事で、部屋の半分のみ停電するという独特の停電方法も経験した。ケーブルテレビもなぜかすぐ切れて業者を呼び復旧しなくてはならない。窓には蜂が徘徊し、駆除も頼まなくてはならない、飲み水は怪しいので、大型の水タンクや巨大な牛乳、ジュースを購入し、かなりの重量物を日常的に買い出し、運搬しなくてはならない。セントラルヒーティングのエアコンは便利ではあるものの、エアコン切り替え時にすさまじい音が鳴り、それが四六時中なので、なかなか環境への適応ができなかった。日本との仕事のやりとりも、夕方からになり、一日気の休まる時間がなかなか取れなかった。

 そんな中、三枝隆志が半年に一度は、小野に会いにやってきた。彼とは、30年来の付き合いになる。横浜の小さな鉄工所の跡取りであった三枝は、地道に業績を拡大させてきた父が急逝し、若くして社長業を継いだ。関東学院大学を卒業後、横浜国立大学で数学を教えてきた彼は、親父のt具合が悪いということで、長男だからという理由で会社に呼ばれていた。既に次男が会社の経理職に就いており、自分は大学講師の席に満足していたこともあり、専務職は名ばかりで、週に数回、女性の業務課長を誘い、ゴルフ三昧、ゴルフ後は会社の金を使い、宴席を続ける生活であった。その当時、会社の業務で関連があり、小野との交流が始まった。親父の葬儀後、三枝隆志の人生は大きな転機を迎えた。知らなかったが、会社の経営は火の車であった。40人の作業者を、ベテランを含め、20人解雇せざるを得なくなり、日夜、解雇の説得に当たらなければならなかった。交渉は簡単でなく、三枝の後頭部には、いつか、大きな十円はげができていた。工場とは、別の会社創業の地の土地も、主力の自動旋盤機も売却せざるを得なかった。得意としていた、ゴルフも、球を打つとき、クラブが降りてこなくなり、無理やり振り下ろすと、大きく右肩が落ち、球ではなく地面を打つ。その姿勢で球を打とうとすると、落ちた右肩をしゃくりあげるので、正にぎったんばっこん、壊れた操り人形のような滑稽な動きとなった。落ち込んでいた、三枝を励ましたのが、小野であった。仕事の付き合いはほんの数か月であったものの、彼に小野の会社の競合メーカーへの新たな部品供給開始へのアドバイス等、できる限りの援助を行った。なぜなら、三枝がいつ首を吊ってもおかしくない状況であったから。小野も即つなぎ資金に窮していた彼の売れずに困っていた立地の悪いマンションも買い取ってあげた。

 ゴルフをしたり、会食をしたりする仲ではあったが、十年ほどで、三枝は会社を立て直したばかりか、創業の土地も買い戻し、賃貸マンションを経営し、成功、子会社化した。戸塚カントリー、箱根カントリー会員権も買い、三枝と小野は、たまのゴルフを堪能し、横浜関内にある老舗の焼き鳥屋で、杯を傾けた。そうした日本時代を経て、米国赴任となり、時には鬱になりそうな気の滅入る生活を救ってくれたのが三枝であった。小野は、彼をシカゴ・オヘア空港に迎えに行く間に、人間の性を感じていた。いまや、仕事では何の関係もない男と男の関係が、日本から10時間を超えるフライトの距離を凄く短くしていた。それを肌で感じ、人生の息を感じていた。これから1週間、ほぼ毎日のゴルフ、アメリカを食い尽くす会食、楽しい会話、冗談、笑顔、が待っているのであった。

 実は、そんな三枝も長年の無理がたたってなのか、おととし、77歳にて世を去っていた。会社の引退も迫り、これからゆっくりと余生を楽しむ間際であった。彼との断続的でありかつ継続していた人生の思い出を、小野はひとつずつ記憶から想い起こしていた。3年連続不合格であった社労士試験の会場は、大学、展示会場と毎年違う場所だったが、今年は、この関東学院関内キャンパスである。三枝の母校、ともに夜を過ごした関内、因縁がぐるぐる身体を回っていた。

 過去3年間不合格であった原因は、「選択式」問題にあった。「選択式」とは、8科目、それぞれ5問ずつ、文章の「語彙の穴埋め」問題である。基本的には、教科書・教本に出てくる主要用語や、文章を丸暗記すれば回答可能である。「選択式」8科目40問の試験時間は80分。1問2分であるが、穴埋めなので、時間が足りなくなることはない。ただし、過去に回答したことのない問題や教本に全く記載のない、いわゆる難問に直面し、格闘すると時間が食われる。過去3年間の反省を、じっくりと頭に蘇らす。反省点は、単純なこと、つまり、教科書の重要点と思われることのみ覚えていて、いわゆるゴシックがかけられていない文書・単語の記憶をおろそかにしていたことにあった。当たり前だ。ゴシックの部分は、皆勉強する。覚えている。ゴシック部分だけの問題であれば、不合格者は、ほとんど出ないだろう。試験には合格枠が必ずある。社労士試験の場合は、6%前後であろうか、或る程度の人数を振り落とすには、教本のゴシック部分以外の文書・語句、教本には絶対出ていない領域の問題を出さ之ざるを得ない。その対策はどうやったらいいのであろう?小野は、何度も考えた。

 教本は、3年間、アイキャン社の最速レッスン本1冊で通してきた。初年度、TAG社の教本も使ったが、あまり差異がなかったことと、アイキャン社教本の文章や説明補足が、ほぼ網羅されているように感じたから。また、アイキャン社に、この1冊で合格圏に入れるか、問い合わせたところ、十分入れるとの回答を得たのも一因である。教本を何度も読む。当たり前のことで、1回より2回、十回以上は、読み通したい。また、選択式対策に、教本のあと、TAG社のみんなが欲しかった社労士合格のスパイス選択式

にて教本内容の選択式回答のための知識の確認を、昨年より行っていた。それでも、落ちた。教本のゴシック以外の部分は、覚えずらい。覚える量が絶対的に多い。また、アイキャン社の最速レッスン本は、補足欄が多い。試験にも出るので、必須ではあるが、補足ばかり見ていると、本文の記憶が薄れていく。そのため、小野は、昨年来の勉強や公開模試で出てきた補足のみ、マーキングしていたので、25年教本にても、その部分の補足のみマーキングして、あとは、無視することにした。無視はするものの、一通りは読んで、マーキング箇所は、しっかり頭に入れた。つまり、補足欄の取捨選択を行った。

 選択式の各科目には、「足切り」がある。5点中、3点は、なにがなんでも取らないと、ほぼ不合格である。年により、科目の難易度が高く、受験者の平均点が低いと調整で、5点中2点に下限点が下がることもあるが、基本は3点である。これが、社労士試験の最大の難関と言ってもよい。「選択式」試験が第1部であれば、題2部が「択一式」試験である。択一式では、7科目、各10問、基本的に1問当たり5つの文章が出てくるので、350文章を読む作業、かつそれを1問3分で解いていかねばならぬ労力、知力、体力を消費しなくてはならない難作業なのだが、選択式は、時間に余裕はあり、問題数は少ないが、

ここで足切りされる可能性は、むしろ「択一式」より高いと言わざるを得ない。たったの5問であるが、間違えば、すべてが終わ世界である。したがって、小野は、合格には、選択式が6割、択一式が4割、の

勉強が必要と考えた。択一式はなんとかなるが、選択式は、なんとかならない、これが社労士試験である、と。

 そうした重要な意味を持つ「選択式」をクリアするためには、今での教本、選択式問題集では足りないと感じた。重要性の高い選択式は、もっとみっちり、網羅的にやり、文章や語彙の「記憶の落ち」がない方策をとらねばあなぬ。そこで、前年の勉強を振り返り、公開模試で基本をしっかり出題でひていたLEG社に目を付けた。本屋に行くと、膨大な教本・問題集が並んでいる。しかし、全部勉強する時間はない。その取捨選択の中で、前年の公開模試の経験を生かそうと考えた。LEG社なら、良いのでは。小野は、LEG社の出るかな順必須基本者と、出るかな順選択式絶対対策問題集を購入した。アイキャン社最速レッスン本は、網羅的で、ゴシック部分も分かりやすく、補足でぬけのない知識を賦与させてくれているが、LEG社の出るかな順必須基本者は、基本事項とともに、過去問により、より実践的な知識、つまり、試験によく出て回答につながる知識を賦与してくれることに、驚いた。アイキャン社教本がやや教条的な部分もあるが、それを実践的に補ってくれる。試験に近い教本である。アイキャン社選択式問題集を解き、次にLEG社の選択式問題集を解くと、同じ部分もあり、違う部分もあるので、知識が偏らず、風呂敷を広げるように知識が広がり、選択式クリアのための「知識の穴をしっか埋めていく」のを痛感し、自信がじわじわと広がっていくのを感じた。

 そうした学習の中で、小野は、これでは絶対にクリアできない選択肢の「別な穴」に気づく。その一つは、「判例」。社労士関係の判例は、労基法(労働基準法)、労災保険(労働者災害補償保険法)、労務管理その他労働に関する一般常識の各法あわせて、100以上あり、かくその条文から、穴埋があり、労基法は、その配点が高い。判例を覚えていくのは、膨大な作業、時間を労する、他の科目の勉強に割く時間が減ることへの焦りもある。しかし、必須である。いろいろ調べ、小野は、大日本法律社の社労士Wイラストでわかりやすい労働判例100、労働検討会社の月刊社労士試験「労災事例問題演習」、日本法律社の社労士W「労災認定の判断事例」を購入した。けっこうつらい作業だが、1日で3冊読破でき、試験直前にも1日かけ知識を深めた。今年の問題で、やはり、これらの判例から出題があり、確実な得点に結びついた。

 もうひとつ、選択肢の穴は、一般常識問題における統計資料からの出題である。全部入れると1000ページを超える分量と言われ、攻略本も少なく、あるいは、網羅していない、抜けがある。しかし、これまた選択式クリアには必須であり、「択一式」にも多くの配点がある。まさに受験生泣かせである。しかし、ふるい分けのための試験であるから、毎年、かなりの頻度・数量で問題が出される。小野は、数日考えたが、これは、自分で網羅するしかないことに気づいた。教本はない、あっても内容は限られている。

労働経済白書、厚生労働白書の社労士試験関連ページを印刷し、冊子に作り上げた。同様に、派遣労働者実態調査、能力開発基本調査、外国人労働者雇用調査、若年労働者雇用調査、雇用均等基本調査、就業構造基本調査、就労条件調査、転職者実態調査、労働組合活動に関する実態調査、パートタイム有期労働者契約実態調査のエッセンス冊子を作った。これらも、1日で読破できる。試験直前にも1日おさらいしたが、きわめて効果的であった。

 関東学院ビルの13階、100名ほど入る教室の席は、一番後ろであった。席順は試験にあまり関係ない。数年前は、1番前の席であった。試験開始前に、どの会社の付録なのか忘れたが、最後はこれだけ暗記BOOKの小冊子を開く。わずか40ページで、すぐに読み終わるが、去年も一昨年も、その中から1題出題された。今年も、出る。午前中は、生死を分ける「選択式」だ。いざ、出陣。

 5点中3点をとればいいだけの試験かつ時間もたっぷりあるので、確実な問題を確実に正解することに

集中する。労基法、3点取れた、OK。次の労災法が難関だった。選択肢の壁は、雇用保険法、一般問題にある。一般は難しければ、下限点が3点より下がるが、ほかは、3点の壁があるのが普通である。ところが、2科目目の労災保険法にいきなりの「壁」が立ちはだかった。予想外だが、想定内である。どこかの科目にかならず、落とし穴が穿かれている。いかにして、3点を取るかに集中する。その際の基本は、やはり教本における基本である。すべて、その原点から考えていく。問題に振り回されたり、その問題をいま考えて解くのではなく、自分の知識の基本、教本から得た基本を軸、根幹にして、問題に対峙する、それが正攻法な対策。題57回選択肢試験、労災法2の問題で、止まった。長期家族介護者援護金の傷病手当を受けていた期間が何年以上えあったか、の難問。どの教科書・問題集にも出ていない。しかし、小野には2-3年前の公開模試か問題集で一度見ていた。その感想を思い起こした。その時、回答を見て、こんなに長い間もらえないんだと感じたことを、懸命に思い起こそうとした。冷房のよくきいた室内ではあったが、額から汗が流れ出た。長期は、7年か10年か?7年を選んだが、正解は10年だった。当然

当問は、不正解確率が高いとカウントした。残り4問で、間違いは1問しか許されない。2問間違うと、この1年の勉強は霧と消える。緊張が全身に走った。労災法1の遺族補償年金受給できる家族の障害は5級以上は、だれでもできる問題だが、次の穴埋めの身体の機能または精神に高度に制限を受ける回答は、

日常生活、日常生活または社会生活、労働からの3択。アイキャン教本には、確か、労働と補足欄に小さな文字で書いてあった、それだけを根拠に、なんども消しゴムを使いながら、労働、を選択。しかし、

絶対的な自信はない、日常生活または社会生活、ではないか、でも基本に心中しよう。結果は、それが正解であった。基本を貫いた勇気が勝利した。しかしながら、本番で答え合わせは禁物である。午前の解答に引きずられると、午後の試験への集中力がなくなる。午前のいわゆる3点ゲット作戦の成功を神に祈り、昼食のコンビニで買った3個のおにぎりにかぶりつく、

 午後の択一式試験は、7科目3時間半ぶっ続けの体力消耗の試験である。例年、3科目、4科目あたりで、頭がボーっとしてくる。思考能力が薄れ、なぜか眠くなる。特に初めの科目の労基法が難しいと、かなりの思考エネルギーが費やされ、そうなりやすい。今回の試験では、すでに2科目目でその症状が出始めた。

 択一式対策は、基本は過去問修練である。10年分過去問をマスターすれば、択一式で、10点満点中6点は取れるだろう。しかしながら、本試験では、例年の合格点から7点はとりたい。7点ないと、合格発表日まで、1か月以上毎夜悪夢にうなされねばならないだろう。科目ごとの出来不出来もあり、最低点基準の4点になる科目も出てくることもある。年により試験の難易度があがれば、なおさらである。したがって、10点満点中「平均で7点以上取る」作戦が必要になる。昨年までは、TAG社の10年過去問題集で学んできた。この本では、問題が科目別項目別に並んでいるので、説いていく中で、自分の弱点とする科目・項目が明らかになってくる。つまり、弱点対策が容易になってくる。弱点を何度も何度も勉強することにより、弱点がなくなると、おのずと平均点はアップする。科目別最低点の足切りの恐れもなくなってくる。それはそれで利点ではあるが、それでは、まだ7点には届かない。いかにして7点にするか?小野は、別な問題集も購入してみた。LEG社の出るかな順社労士必須過去問題集である。ここでの過去問は、項目別ではなく、本番で出た5択の問題のまま、まとめている。つまり、択一式の知識の習熟度も必要とされるが、5問中1問のみ正解や誤りという、4対1で、5問を振り分けるという作業の訓練ができるのが利点である。確かに、社労士の知識も必要であるが、5問中1問を振り分けるという能力アップにも繋がる。これは、一種のゲームである。知識が薄くとも5問の中から1問の正解を確率良く見出す訓練である。5問中3問が簡単な内容であれば、2問の中から1問をどうやって見出すかの鍛錬である。10年分の問題には平易なものも多いので、最初に間違った問題のページのみチェックしておき、再度見直すこととしておけば、膨大な量の問題にかかる時間を削減できる。この過去問を解いていくと、おのずと5問の中から1問を選び出す能力がアップしていく。試験で生きるのは、その能力であり、難しい問題に直面した時、「カン」で正解を見つけられるようになる。この「カン」は、単なる山勘ではなく、多数の問題を解く経験と、5問から1問を見出す訓練のなかで養われる。

 本番の択一式試験のなかで、困難な問題に直面したとき、頭が疲れて判断できないとき、科目により時間が足りなくなった時、この「カン」である程度正解を稼げる。これが6点を7点にする秘訣であることに小野は気づいたのであった。実は、本試験でも、3-4問は、この「カン」で正解していた。

科目別に教本の文章を読み、選択式問題集を解き、その後にTAG社のみんなが欲しかった社労士合格のスパイス択一式、最後の10年過去問の順番の繰り返しは、かなり試験に対する実践的な力を油性することが、次第に感じられるようになる。そして、5問から選ぶ「カン」も培われる。それら知識は、6月より順次開始される公開模擬試験で検証される。独学でいる限り、試験情報は限られるし、比較的最新情報や傾向の情報は不足しがちである。そのための、公開模試試験は、試験場であれ、自宅受験であれ必須となる。自宅受験の場合は、きっかり時間を計ってやらないと、本番受験への体力がつかない。択一式でも、読み返す時間を15分以上は保つ訓練が必要であり、そうした所作が基本になれば、試験への不安が払しょくされる。

 昨年、一昨年は、資格の小原(2回)、TAG社(2回)、LEG社(4回)、アイキャン社(3回)とこなしてきたが、LEG社、TAG社の直前問題集と合わせると、回数が多すぎ、最後に教本をしっかり読み込み試験にあたることが、時間的に難しかった。最後の1か月の教本おさらいは、必須であるから。価格的に高いこともあり、今年はアイキャン社の公開模試ははずした。はずしていいかどうか、昨年のアイキャン社公開模試も見直し、有効度を確認したが、外してもよいと判断したものだった。

 最後の1か月に必要な点はもう一つあった。それは、横断整理である。難しい作業ではない。教本の必要項目をコピーして、切り貼りした冊子を作るだけである。各科目ごと同じ項目があるが、科目別に勉強していくと、次の科目で前の科目の同じ項目、例えば、罰則等、忘れてしまう。それを項目別にまとめれば、まことに覚えやすい。項目とは、届出、資格喪失時期、記録書類の保存期間、事項、罰則、設立(人数等)である。この冊子を作製し、小目別に目を通して記憶していくと、容易に覚えられると同時に、思わぬ違いにめを止めることもある。同じ代理人届は、雇用保険は「つど」であるのに、健康保険では、「あらかじめ」である。そうした違いが一目瞭然である。実際、今年の試験にも出題され、即座に正解を選択できた。罰金も頭に入りやすく、当然、今年も出題されたが、簡単に回答できた。落とすための試験に対抗するには、そうした単純な知識で、基礎点を埋めていくことである。そうすれば、択一式試験平均点7点は、夢ではない。

 戦いは終わった。択一式は、公開試験で得た速度での解答、「カン」活用もあり、20分ほど、時間を

残し、チェックしておいた箇所の問題をやり直した。労働保険関係が主である。しかし、結果的には、回答を直した箇所3か所は正解を誤りに訂正していた。直観のほうが見直しを上回ったといえる。これが試験の難しさである。見直しが良いのか悪いのか、よほどの確信がなければ、直さないほうが良いのかもしれない。

 1年に及ぶ悪戦苦闘の毎日が一時的に完了し、落ち着く思っていたが、小野の安泰はやってこなかった。今年こそ、すぐに解答合わせを行おうと誓っていたが、帰り際、関内駅前で解答速報をもらいながら、翌日もそれを開くことは、できなかった。8月24日試験、試験結果は、10月1日にインターネットにて、合格者の受験番号が発表される。小野の懊悩は続いた。選択式の労災法は、下手をすると5点満点で2点、それが、もっとも気がかりでった。3年連続、択一式の得点は確保しながら、選択式の1科目が2点で帆合格になっていたから。どこからくるのかわからない不安が身体を暑くし、心拍を速めた。一方、自信も存在した。その場で流されるのではなく、あくまで教本の基本に朴訥に忠実に解答したし、3点確保に徹した。この方法態度に間違いはないはずだ。受かっている。しかし、選択式で落ちるかもしれない。択一式は、まず大丈夫であろう。見直す時間も予定どおり確保できたし、実際、訂正もできた。

平均点7点確保に問題はない。しかし、選択式の懸念が。休まらない気分の中で、この1年の労力を考えると、どうしても答え合わせはできないでいた。

 9月30日、意を決して、速報回答をプリントアウトし、答え合わせを開始した。自分の鼓動が感じられた。抑えようとしても、鉛筆を持つ手の震えを止められなかった。解答合わせの問題の順番をとばしてしまうミスも頻発しながら、やっと採点を終えた。選択式はクリアできた。懸念していた選択式の労災法は、基本徹底の効果か4点を確保できた。他も問題なく32点をゲットし、足切り科目もなかった。択一式は47点だったが、訂正箇所3か所で3点損をした。昨年の最低点44点はクリアしたものの、問題への鉛筆走り書き、解答のまるばつが交錯していたり、本当にどれを正解としてマークしたか思い出せない箇所もあり、2-3点は減点の可能性もあり、再び、不安が身体を駆け巡った。

 10月1日の合格発表を、薄目を開けながら、そっとのぞき込むと、小野の合格番号が掲載されていた。57回試験であることの確認、受験番号の確認を何度も何度もチェックすると、少し涙が出てきた。

ユーチューブによると、合格率は、かなり低く5.5%、昨年より1.4%下がり、かつ、選択式3問で

最適基準点が2点に引き下げられ、択一式でも1科目3点に引き下がられるなど、かなりの難関試験だったようだ。確かに、受験による疲労度は、毎年増すばかり、であった。見たこともない聞いたこともない、判断できない難問奇問も多く見られた。その厚い壁を破る方策は、やはり、基本にあった。教本に愚直に、かつ「カン」作戦を最大限に活用し、最低合格点を確保する方策が最良であった。来年は、今年に増して試験は難しくなると予想される。また、法改正など、今年は、出題されない問題が目白押し、数も膨大である。来年もし受験したとしても、合格する自信は、まったくと言っていいほど無い。それが、社労士試験なのである。

 


 難関といわれた社労士試験も受かるだけでは何の意味もない。社労士として、どう活動し、何を目指していくのか、そのための受験がまた、スタートするのである。

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