死んでも死にきれない令嬢 ~転生したら想い人の息子の婚約者候補に〜
(あぁ…、…意識が、……、わ、私、……あなたに……まだ…伝えてない…の、…あ、あい…して、るの…………ロニー………)
クローディアは深い谷底に、独り横たわっていた。手足もあり得ない方向に曲がり、底しれぬ寒さと痛みが全身を包み、息をする度に、グブ、スゴ、と空気が何処からか漏れる音がする。
指一本動かすことも出来ず、かすかな視界には、はるか上空に星空が広がっている。あの崖の上から落ちたのかと、それも段々と霞んで見えなくなり、痛みも段々と感じなくなってきた。
何も見えず、何も聞こえない……寒気より何故だか暖かいと感じるようになり、気分が高揚し、幸福感さえ感じる。
(……あぁ、………し…んでも、…………し、しにきれな………い……、さいご……あい…たい……)
スーーと、一筋の涙が月明かりに反射され輝きを放ち、それと同時にクローディアの人生が幕を閉じた。
◇
チュンチュン…、窓の向こうから鳥のさえずりと穏やかな日差しが差し込んでいる。
(ここは…?私死んだんじゃ…………あぁ…………そうだったわ。)
モニカは一瞬何処に居るのか、分からなくなっていた。たまに前世クローディアとして生きていた時の夢をみる。
あれから20年の年月が経っている。今世では伯爵家の娘、『モニカ』として17歳になる。前世を思い出したのは、15歳のデビュタントで王城に上がった時だ。王の席に座っているロニーを見て、理由もわからず涙が溢れだした。
前世での想い人……。
その日を境に、クローディアとしての人生を夢で見るようになった。
前世のクローディアは男爵令嬢であった。ロニーは隣領の子爵の息子で、親同士が仲良かったこともあり、幼少期は一緒に過ごすことが多かった。
大きくなったら、ロニーと結婚するものだとクローディアはずっと思っていた。
しかし、事態は急変する。
クローディアが16歳の頃、辺境の地で魔王が復活したのだ。日々、魔物の量が多くなり、国は勇者を探すことに力を注いだ。
魔王が誕生する時代、勇者もまた誕生するのだと。
国中に勇者を探す使者が駆け回り、そして……ロニーが選ばれた。今世紀の勇者として…。
ロニーはすぐに王城にあがり、魔王討伐隊とともに辺境の地へと赴くことになった。
出発の日の見送りで、ロニーは『必ず、クローディアのもとへ帰るから待っててくれ。帰ってきたら伝えたいことがあるから』と言って出て行った。
私は涙が溢れ出ているのも厭わずに、ロニーの馬車が見えなくなるまで手を振り続けて見送った。
生きて帰れるかどうかも分からない状況で、お互い決定的な言葉は言えずのままだった。
ロニーが出発してから3年と半年後、魔王が倒されたと国中に伝達された。何処もかしこもお祭騒ぎだ。
クローディアは先日20歳を迎えたが、他の人とも婚約せずに、ずっとロニーの帰りを待っていた。
同年代の友人達は皆もう結婚し、早い子は子供もいるという。
やっと会える。やっとロニーが帰って来る。いっぱい褒めてあげよう。いっぱい好きな照り焼きパイを作ってあげよう。いっぱい苦労話を聞いてあげて。私もいっぱい話たいことがある。そして!いっぱい2人で幸せに暮らそう。……そう思っていたのだ。
王都で魔王討伐の凱旋のパレードがあるというので、両親と一緒に見に行った。パレードで一目勇者を観ようと凄い大勢な人達がごった返していた。
クローディアは遠くから、小さくて豆粒みたいだけど、ロニーの生きている姿をみて号泣した。
以前よりも大人びた風貌、ガッシリとした体格に変わっていたが、皆に向ける笑顔は変わっていなかった。
ロニーが生きている、動いている、笑っている、それだけでクローディアは胸がいっぱいになった。
その日の夜に、ロニーがクローディアに会いたがっていますと王家の使者が訪問してきた。
天にも昇るような気持ちが舞い上がり、あまり深く考えずに王都の宿を飛び出し、使者について行ってしまった。
そして馬車に揺られ連れて来られたのは、王城の裏に広がる谷深い森の中だった。使者が言うには、表立って会うのは難しいからと。
馬車から降ろされ、何か違うと異変に気づいた時には、使者にドンっと崖から落とされていた。
今思えばきっと、勇者が故郷に残してきた幼馴染で、結婚もせずに待っている女なんて、邪魔なだけだったのだろう。
…………誰にとってなんて、知りたくもないけれど。
こうしてクローディアの人生は終わったのである。
モニカが前世を思い出してから、クローディアが亡くなってからどうなったのか、詳しいことが知りたくて調べてみたことがある。
クローディアは行方不明のまま、遺体も見つからないまま、2年後に死亡として届け出が受理されていた。でも見つかるはずもない。だってクローディアは、王城の裏の王家管理の森の谷底にいるんだから……。
受理された後も両親だけはずっと探し続けてくれていたそうだ。そんな両親も年を取り、今はクローディアの弟夫婦に爵位を譲り、領地で穏やかに暮らしているみたいだ。
あの時、宿で別れたままになっていた両親。凄く心配かけただろうし、今は余生を楽しんでいるみたいで、正直ホッとした。優しい人達だったから、幸せに暮らしていて欲しい。
ロニーは………凱旋後そのまま故郷に帰らず、王城で過ごし、一人娘の王女と結婚した。今は二人の王子と王女が一人。
クローディアの想いだけが、モニカのなかで燻っているだけだ。
最近よくクローディアの夢をみるのは、今度行われる王太子の婚約者選びの為の夜会パーティーがある為だろうと、モニカは思っている。
モニカとして何も知らずに生きてきた時には、選ばれたら王子妃になれるかもって言われたら、テンション上げて夜会の為の準備をしていただろう。
だが、今は憂鬱でしかない。クローディアの事を知っているモニカにしてみたら、王族なんてクソ喰らえだし、絶対に二度と関わりたくないと思っている。
「はぁ~……」
モニカは鏡の前で大きなため息をついた。
「モニカ様、どうされましたか?髪飾りは別の物になさいますか?」
夜会の為に、侍女が綺麗に着飾ってくれて、今は鏡の前に座り、髪を結って貰っている最中だった。
「大丈夫よ。少し緊張してるだけ」
「モニカ様は、こんなに素敵なのですもの。王太子様もきっと、目を引いてくださいますよ。」
侍女が一生懸命手数をかけて、綺麗にしてくれて、普段よりも数倍気合いが入っている装いになっている。綺麗に着飾るのは嬉しいが、行く場所が王城でなければ良かったのに……。
「はぁ……」
モニカは、今度はこっそりとため息をついた。
◇
馬車から降りて、王城パーティー会場へと移動する。モニカにとったら、デビュタント以来の2回目だ。
案内係について行きながら周りを見渡すと、王城に至る所に施されてる装飾品や照明が、何処もかしこもキラキラと輝いていて、全然落ち着かない。
「モニカ・ルーソン伯爵令嬢のご入場です」
会場の扉が開くと、そこには十数人の令嬢達と一人の王子がグラス片手に談笑していた。立食形式みたいだ。良かった……これなら、目立たない所にいれば良さそうね。
給仕係の者にスッとグラスを差し出されたので、お礼を言いつつモニカもグラスを受取り、ソソッと集まりの後ろの方に何となくお飾り程度に居るようにした。
王子は爽やかに令嬢達の相手をしている。王太子の最前列にいる令嬢は、公爵家をはじめ格式高い家の令嬢が集まっている。モニカは敢えてそこに加わろうなど微塵にも思わなかった。
王太子は王妃様似なのか、ロニーにあまり似ていなかったのが救いだ。あまり視線も合わせないように、それとなく持っているグラスに目線を落とす。
飲み干したタイミングで、人の輪から抜け出すと、化粧室は?と侍従に聞き、会場を後にした。
「疲れたわ……帰りたい」
化粧室に逃げ込み、ホッと息を吐く。
特に何をした訳でもないが、そこに居るだけでも気疲れをした。あとどのくらいで終わるのだろうか。とっとと王太子が婚約者を選べばいいのに、と心の中で毒づく。
「………そろそろ戻らないと」
モニカは足取り重く、会場に戻ろうと歩いていると、廊下から見える中庭に、一人誰が佇んでいた。
星を眺めるように、上を向いてジッと空を見つめている。
(あれは……!!っ…ロニー!!!………………いや?違うわ……王様はあんなに若くない。……あれは、もう一人の王子だわ……確か今年16歳。ちょうどロニーが旅立った頃と、同じ年頃………だわ。)
ロニーにそっくりな王子から目が離せない。
胸が締めつけられるように痛み、思わず胸を掻き抱き、動悸がし、息が上手に出来なくて、イヤな汗が出てくる。その場から一歩も動けない。
この想いはクローディアのもので、モニカのものではないと分かっていても、心は狂おしい程ロニーを求め、後悔や無念さの薄暗い感情がモニカを支配する。
(ハァ、ハァ、ハァ………落ち着くの。あれはロニーではなくて別人よ。)
モニカは大きく息を何度か吸い、呼吸を整えていくと、段々と自分の意識がコントロール出来るようになってきた。
「ご令嬢。大丈夫ですか?」
声の方に振り向くと、先ほどまで中庭にいた人物がそこにいた。
「あ、ありがとうございます。大丈夫ですわ」
私……ちゃんと笑顔になっているかしら…?声までロニーに似ているのね………
「もしや兄上のパーティーに?」
「はい。これから戻るところでした」
「……だいぶ顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
心配そうに覗きこむ顔も、優しい声も……ロニーと重なって辛くてどうしようもない。
(私はモニカよ。………クローディアじゃない。)
目を一度ギュっとつぶり、気持ちを切り替える。
「………えぇ。大丈夫です」
「それでしたら、会場まで送りますよ」
スッとエスコートの為に出された腕に、モニカは王子の申し出を断れるはずもなく………恐る恐るそっと手を添えた。
王子の名はロナルドというそうだ。
「いま会ったばかりのご令嬢に、こんなこと言うのも可笑しいんですが、………以前何処かでお会いしたことがありませんか?」
「…いいえ。私が王城に来たもの、デビュタントの時と本日のパーティーだけですし……」
「……そうですか」
少し寂しそうな残念そうにロナルドは微笑んだ。
そのまま沈黙が続き、居た堪れなくなったモニカは何か話題をと、
「…………王子は中庭で何を?」
ハッとした顔になったロナルドを見て
「す、すみません!!不躾なことを……」
「……いや、いいんです。誰かに見られているとは思わなかったから。……………中庭には、夜空を見に。……たまに無性に過去のことを思い出すのです」
「……過去?」
「えぇ………もし昔の自分を覚えてるって言ったら、可笑しいですか?」
「昔の自分、…ですか?」
「……前世と言ったら、…可笑しいですかね」
少し苦笑いしながら、ロナルドが言うものだから……
「前世…………ロナルド様も……?」
「……え??……もしかして……君も…?」
ハッ!!私ったら…!クローディアのことを誰にも言えるわけないのに……
「いいえ…!なんでもありません!!ここまで送って頂きありがとうございます」
ペコリとお辞儀をすると、私はロナルド様のエスコートを離れ、1人早足で会場まで移動した。
「ちょ!ちょっと!!君!待ってください。さっきの話は…!!」
バダン。…………はぁ~会場近くまで戻って来てて良かった。
ふぅ~と息を吐き出すと、会場の中をキョロキョロと見渡す。王太子が公爵令嬢と一緒に仲睦まじくダンスを踊っていた。ダンスホールの周りには悔しそうに2人を見る令嬢達。
どうやら王太子のお相手が見つかったみたいだ。
……良かった。これでもう帰ってもいいだろう。
◇
暫くして王太子の婚約発表がされた。そして何故か私に婚約記念パーティーの招待状が届いた。また王城に行かねばならない。
貴族の役割として、分かっているけれど憂鬱だ。
あの夜会からクローディアの夢はまだ見ていない。代わりにロナルド王子のことを思い出すことが多くなった。
ロナルド王子は前世を覚えてると……。それは一体どんなものなのだろう。私と一緒で、夢に見るのだろうか。まさか他にも前世を覚えてる人が居るとは思わなかった。
ロニーに瓜二つのロナルド王子の前世……気にならないと言えば嘘になる。しかし、ロナルド王子の前世の話を聞くのなら、モニカの前世の話にもなるだろう。
ロナルド王子はロニーの息子であり、王族である。おそらく王族の思惑で殺されたクローディアの話をするには、モニカの身にあまりにも危険だろう。
やはり関わらないのが一番良いだろうと思う……。
ロナルド王子はロニーではないし、モニカもクローディアではないのだ。
クローディアの無念も呑み込んで、モニカは強く生きて行かなければ。そんな決意をもって、婚約発表パーティーへと赴くのであった。
◇
「君に会いたかったんだ」
パーティーで友人達と歓談していると、後ろから声を掛けられた。
ギョッとして振り向くと、今夜は王族らしい服装のロナルド王子が立っていた。
周りにいる友人達は驚嘆し、どうぞどうぞと王子に場所を譲り、ササッと何処かへとはけていった。
「…………殿下、先日は心配をおかけし、申し訳御座いません。改めて御礼申し上げます。」
モニカは内心動揺しているのをひた隠し、カーテシーをした。
「顔を上げてください。……少し話をしませんか?」
「…………はい」
周りもどうなるのかと、動向を伺っている様子がチラチラと向けられる視線で感じる。王子に声をかけられて、無下に断ることも出来ず、モニカはロナルドについて行くしかなかった。
移動した先は、以前ロナルドが眺めていた中庭がよく見渡せすバルコニーであった。ここなら他の人が邪魔をすることもなく、聞き耳をたてることも出来ないだろう。
「…………………」
ロナルド王子はバルコニーに寄りかかり、夜の星を見たまま動かない。
「………………お話とは?長い時間は周囲に要らぬ誤解を与えます。何もなければ、これで…」
モニカは一歩下がってカーテシーをしようとしたところ、ロナルドに手をとられ、
「すみません。……何から伝えればと。………前回、モニカ嬢には、僕が前世を覚えてると話をしましたね。そして、モニカ嬢……貴方自身も前世を覚えているのだと……」
「…………」
モニカは沈黙を選んだ。前世について何も言うつもりはないし、言えない内容なのである。
「……自分でもビックリしました。誰にも言ったことがないんです。それを会ったばかりの令嬢に言うなんて。……そうしたら、君も前世を知っていると………何か運命でもあるのかと思いました。名前も知らない貴方のことが、気になっていたんです。」
「……先ほどモニカ嬢と」
「………すみません。兄上のパーティーの参加者名簿と、貴方の瞳や髪の色で調べました」
「…………」
「モニカ嬢、貴方と話がしてみたかったんです。私は他に前世について話せる相手が、他にいません」
「…………」
「まぁ………独り言だと思って、聞いてください。……昨年、前世の夢を突然見始めたんです。それが前世なのだと認識するのに、かなり時間は掛かりましたが……」
ロナルドは、バルコニーの手摺りに肘をつくようにし、顔を夜空に向ける。
モニカも、ここまできたら逃げられないと腹を括り、そっとロナルドの横に寄り添った。ふんわりと風を乗って、ロナルドの香りが鼻をくすぐる。
ロニーと同じ懐かしい香りに、モニカは涙が出そうになるのを、必死で堪えた。
「私はある子爵の息子でね、隣の領に素敵なレディがいて、いつか結婚して、平凡で穏やかな幸せな暮らしを夢に見てたんです。しかし、魔王が誕生して、その子と離ればなれにならなくちゃいけなくて…。待っててくれと彼女に言ったけど、肝心の言葉は帰ってから伝えるとか格好だけつけてね。………後悔するんです。あの時に伝えていればと。彼女に会いたく必死で帰ってきたのに、彼女はもういなかったんです。死ぬ程後悔したんです。彼女のことを愛していたから。彼女が自分に会おうとしていなくなったことを知り、正気では居られないほど、愛していた。彼女は私の唯一だったのに……そして、彼女の真相に辿り着いた頃には、私も毒に侵され、死んだんです……」
話の途中から、モニカは涙が止まらず、顔を両手で覆って嗚咽した。
(だって………それって………もしかして………貴方なの?……、……ロニー……でも……それだと…あの王様………誰?……それとも、全く別人の………話だったりする………?)
モニカの中のクローディアが、強く激しく心を揺さぶる。こんな奇跡みたいなことって、あり得るのか。私の勘違いだったりしないのだろうか。こんな話は何処にでもある、ありきたりな話なんてこと…あるのだろうか………。いいえ、私の中のクローディアが、彼こそ愛しい人だと……。
本当に起こり得るものなの…………ねぇ、神様。
「…ぅう、…、ぅぅ゙……ロ、ロニー……、なの?」
話終わってから、夜空から私に視線をよこすと、まさかこんなに泣いているだなんて思っていなかったのか、狼狽えるロナルド王子だったが………ロニーと呼ばれて固まった。
「!!?……いま、……なんて?」
「……………ロニー…………ぅぅ゙……」
「…、モニカ嬢………もし、私がそうだと答えたら…君は、………君の前世は………」
「…………ぅ゙ぅ、……ぐす、……ぅ、…クローディア……です」
「あぁぁぁ………クローディア……」
ロナルド王子も嗚咽を漏らしながら、モニカを強く抱きしめた。
「……、ぅ゙………会いたかった…。愛してたんだ。……魔王を倒す程強くても、……君を……守れなかった……。すまなかった………」
「…ロニー、ロニー……ロニー、わ、私も、……私も、愛しているの……会いたかった、…、ぅぅ゙……」
2人は……お互いに強く抱きしめ合いながら啜り泣いた。暫くして段々と頭が働いてきて、ある疑問が浮かび上がる。
「……ロニー…貴方も死んでるってことは、…あの王様は??」
「………あれは当時の弟です。私が王女との結婚を拒んだので、王家と手を組んだみたいです。顔を整形してまで………欲にまみれた人達ですよ。そんな王家も、今の私の家族ですがね………」
切なそうに苦渋の顔を浮かべながら、真実を教えてくれた。
クローディアがいないと分かると、ロニーは手当たり次第探した。それでも見つからないのは、誰も入れない場所にいるのだろうと考え、姫に気を許すフリをして王城に潜り込んだ。
そこで、姫と侍従がクローディアの件に関わっているのを知ったそうだ。
「当時の王様に、事件の全貌を告白し、姫との結婚も断ったんだよ。愛する人を殺した相手と、結婚なんて反吐が出ると……。その日の夜の晩餐に、自分も毒殺されたんだ。このままだと姫の悪事を私が漏らすと踏んだんだろうね……。王家のメンツは影武者を用意することで保たれた…………」
自分を殺した相手が、今の両親や祖父だなんて……。最初は信じられなくて、気が狂いそうになったそうだ。
自分の頭がおかしくなったのか、兄上に相談し、前世の話通りなら……と、2人で王家管轄の森の谷底を散策したら、クローディアと思われる遺体を発見したそうだ。
ジャラッと、ロナルドの懐から、クローディアが亡くなった日に着けていた懐かしいネックレスが出てきた。薄汚れているが、そのネックレスはロニーが15歳のデビュタント祝にクローディアに贈ってくれたものだ。
それで、自分の前世が正しくて、王家がしてきた残忍なことも本当だったのだと確信したのだと。
「だから兄上は、そんな腐った王家を変えようと模索しているんだ。兄上も私達の味方だよ」
それを聞いて、モニカは心底安心した。また王家から睨まれて殺されたんじゃ、クローディアもモニカも報われない。
「ぁぁ……クローディア。……いや、モニカ嬢。あの時に、帰ってきたら伝えたかった言葉を、今ここで君に贈ってもいいだろうか?」
「………はい」
モニカは、また胸がいっぱいになった。そう……ずっとクローディアは待っていたのだ。ロニーが旅立ったあの日から………。ロニーのその言葉を聞くことを支えに、ずっと待っていた。死んでもなお。
すぅ〜と大きく息を吸い込んで、ロナルドが真剣な眼差しをモニカに向ける。ロナルドの瞳の中にはモニカしか映っていない。
「貴方を愛しています。どうか、私と人生を共に歩んで欲しい。……結婚してくれませんか?」
「……、はい。……愛してます」
モニカの瞳の中にも、今はロナルドしか映っていない。やっとクローディアの想いが浄化された。
モニカのその美しい瞳から
スーーと、一筋の涙が月明かりに反射され輝きを放ち、それと同時にモニカの新しい人生が幕を開けた。
その後、王太子殿下とロナルドによって、王家の闇を告発し、ロニーやクローディアの真実が明らかになり、民意を失った今の王妃と王様は、早々に王位を譲り、王太子が王位についた。
クローディアの形見のネックレスは、当時の両親へと渡した。
今のモニカの胸元には、ロナルド王子から贈られた婚約記念のネックレスが輝いている。
お読み頂きありがとうございます。
一応、これで完結になります。
今後のモニカとロナルドが幸せでありますように…