書き納企画 木恩神話 聖獣オトガと恩栂村
※このエピソードは大晦日企画の小説です。
本編とは直接関係ないのでご了承ください。
聖獣オトガについて
木恩国初代神皇であり、木教の創始者との言い伝えのある恩栂神皇の名を冠している北根島 磴根郡恩栂村と言う場所がある。その場所は北根島の山深き場所にあり、気候が厳しい場所である。夏は日中霧がかかり日があまり出ず、冬は豪雪であり積雪が多いときは3間ほど積もることもある。村人たちは互いに助け合い厳しい気候に耐えてきた。
恩栂村の住人達は木教の創始者である恩栂神皇の名を冠しているにも関わらず、木教を信仰している人は殆どいない。住民たちは聖獣オトガを本尊とするトガ教を信仰している。恩栂村は長らく木教僧による活動を禁止している。伝説によると恩栂神皇は恩栂村の地で布教していたところ聖獣オトガと愛巫と呼ばれる女性守護神が現れ「ココノ住民タチハ私ノ神通ガ無イト生キテイケマセン。アナタノ教エヲ広メルノハヤメテクダサイ。」と注意された。恩栂神皇は深く反省しこの地を去った。恩栂神皇は弟子たちや、初期木教信者達に北根島にある聖地での布教を禁止する命令を出した。そのため、恩栂村には木教信者が殆どいないのだ。
恩栂村のはずれにトガ教の神務本山がある。その中には木人と言われている神官がいる。木人は、毎年夏至の日に聖獣によって選ばれ、10年間トガ教の代表者である木父の命令に10年間従う。10年目で木父に選ばれなかった場合、木人は聖獣に差し出されて、絶命する。木父は、聖獣語の使用が唯一認められている存在で直接聖獣オトガと愛巫の2人と会話することが出来る。木父は28年に一度交代する。その間は神力によって木父は絶命することはないと言う。木父は週に一度、聖獣と愛巫の3者で会話を行い、それらの内容を村民に伝える役割がある。また年に1度根雪が解けるころに聖獣から与えられる聖肥を受け取る。木父は聖獣との3者の会話で指示された内容を木人に伝える。木人は指示された内容が遂行できるように木父の補助を行う。木父は28年が経ち交代し役目を終えた木父は聖獣に身を差し出し絶命する。
トガ教には冬至に聖獣によって選ばれた村の娘を差し出す儀式がある。冬至の頃になると娘がいる村民たちはお告げがあるまで、いつも恐怖で手が震えている。この儀式の意義に疑問を持つ村民たちも多くいたが、中には儀式をやめると聖獣からの聖肥が受け取れなくなると考える村民もいた。恩栂村の約8割は農民であり、夏は農業、冬は狩猟で生計を立てる人が多くいた。この厳しい環境下で作物が良く育つのは聖肥のお陰だと考える人も多くいた。その為、聖獣を怒らせると、聖肥が受け取れなくなる恐れがあったからである。
仕来りを壊す恩士
恩栂村の村長の娘に幸江という美しい女性がいた。村長は幸江がまだ幼い時に聖獣から逃れさせるために元茎島中部の地方都市千仲にある杉宗寺院の寺子屋に通わせた。幸江は寺子屋で木教の教えを学ぶにつれ次第に恩栂村の儀式に疑問を持つようになっていった。幸江は禁止されていることを知りながらも、いずれは恩栂村にも木教の教えを広めていきたいと思うようになった。
幸江は寺子屋にいる間、家族とは文通を行っていたものの、恩栂村の実家には一度も帰らなかった。両親や弟が一度帰ると二度と千仲に戻れなくなるからだと言っているが当時の幸江には理解出来なかった。
幸江は千仲の有力恩士の息子であり、同じ寺子屋の先輩である。岳郎と恋仲になっていった。寺子屋を卒業した後、幸江と岳郎は結婚することになった。幸江と岳郎は結婚の挨拶の為に恩栂村の実家に帰ろうとした。しかし、実家にいる両親に手紙を送っても「実家には二度と帰るな。幸江の幸せを願っているからそうするしかないんだ。ごめん帰らないでくれ。」と返事がきた。
その手紙を読んだ瞬間、幸江は何かを察したのか?岳郎を説得して実家には帰らないことを決めた。ところが岳郎は納得しなかった。岳郎は声を荒げて「トガ教やら、聖獣やら分からんが俺が守ってやる。だから、幸江は怯えなくていい。父に頼み有力な供回りを連れていく何かあったら私や供回りが必ず幸江を守ってやるからお願い幸江の実家に行くぞ。そう言うと幸江は分かりました。「岳郎さん。私は恩栂を離れて以降、一度も両親や弟に会えていません。岳郎さんが守っていただけるのでしたら私も恩栂村に帰ります。」と言って来た。
結局、幸江と岳郎は婚姻する前年の12月に恩栂村へと向かうことを決め、10名程の供回り衆を連れて恩栂村へと向かった。元茎島から船を使い、恩栂村へと向かった。北根島の港に着くと雪で埋もれていた。雪になれない岳郎と供回り衆は戸惑いながらも雪景色を見て興奮した一方で、幸江は久しぶりの北根島の景色を楽しんでいた。そこから、約3日かけて籠に乗り北根島へと向かった。磴根郡の中心部より先はかんじきを履いて徒歩での移動となり、1日かけて移動した。
千仲の出発から約4日かかって恩栂村にたどり着いた。かなりの時間と体力を使って移動したが2人は歓迎されなかった。幸江の実家に帰ると幸江の父である恩栂村村長は「帰るなと言ったのになぜ帰ってきた?」とかなり怒った様子で言ってきた。幸江は「いえ、父上。どうしても岳郎さんが父上と母上そして太郎に挨拶したいと言ってきたからどうしても行きたくて」すると母が「父さん。久しぶりに幸江が帰ってくれたのになんてひどい事言うの?幸江久しぶりね元茎島はどう?楽しい?それにしても大きくなったわね最初分かんなかったよ。さっそくだけど新郎さん紹介してもらいましょうよ。」
「母上。大丈夫よ岳郎さんは何かあった時のために護衛を連れてきているから。でも、心配してくれてありがとう。うちも久しぶりに会えて嬉しいよ。」
「幸江、お前そう言う事じゃなく....」
「幸江入ってもいいか?」
「岳郎さん。待ってまだ弟の太郎が」
岳郎が玄関に入ると幸江の両親はその勇ましい姿に驚いた。
「お初にお目にかかります。拙者、幸江さんとお付き合いさせていただいています岳郎と申す。木恩の国にあります千仲の地で恩士をさせていただいております。以後、お見知りおきを」
「岳郎さん娘の幸江を選んでくんでどうもありがとな。あんた立派な人だねぇ幸江との結婚を認めるべ。そんで岳郎さん。申し訳ないけど今日挨拶終わったら千仲へ帰ってくんねぇか。ちょっと幸江は恩栂に居ちゃいけないんからね許してくんねぇか?かぁちゃん祝いの準備しておくれ。酒と料理をたのんだぞ。」
「いえ、そんな急に来たので食事を貰うのは申し訳ないのでいいですよ。」
「いや、せっかく来たんだから食べてけ。あと母さん寝床も準備してやって。」
「はい、はい父さん分かっているよ」
「すみません。それではお言葉に甘えさせていただきます。」
幸江の母親をはじめ、幸江、幸江の父に呼び出された恩栂村の村民達で夕食の準備に取り掛かっていた。一方の岳郎は村のはずれに行き、供回り衆と一緒に、かまくらを作り寝床の確保をしていた。支度が整い岳郎は呼び出されるとかまくらづくりを中断して幸江の実家に向かった。
幸江の実家に戻ると宴会が始まった。幸江の家族と恩栂村の村民達や岳郎が連れてきた供回り衆も参加した。宴会は大きく盛り上がったが幸江の父だけ不安そうにしていた。岳郎が酔った勢いで「お父さん元気出してくださいよ。」と軽い気持ちで発言すると「うるさい。おめぇ、自分が何をしたか分からないのか?」と怒鳴って「自分が何をしたか分からないようならここから出ていけ」叱られてしまった。その瞬間場がしらけてしまった。幸江の母が「岳郎さんごめんなさいね。うちの旦那今日は機嫌悪いみたいなの。気が乗らないかもしれないけど、お部屋準備したからそこで寝てもらってもいいかしら。」と言うと「すみません。お母さん。私も少し飲み過ぎたようですので今日はここで失礼します。おやすみなさい。」
岳郎は寝床に向かい。酔いもかなり回っていたので寝てしまった。飲み会は終わり村民達は皆ブツブツ言いながら去って言った。幸江が「そういえば、太郎を見かけないけど。どこかに出かけているの?」と言うと母が「幸江。太郎はね。一昨年オトガ様の元へ向かったの。」
「えっ、木人になったの?」
「いや、あなたの身代わりになったのよ。一昨年本当はあなたが、オトガ様によるお告げではあなたが行く予定だったの。だけどあなたは千仲にいる。それで太郎自ら身を捧げてオトガ様の元へ向かったの。本当は無理にでも呼び出さないといけなかっただろうけど、呼び出すと幸江気を遣うじゃん。だから太郎が直接木父さんに説得して身代わりになったの。」
「そんな,,,なんで言ってくれなかったの?」
「だってそんな事言ったら幸江、太郎を止めてオトガ様の元へ向かうでしょ。太郎は幸江の生活を守ろうとしたのよ。」
「....なんで」
「ずっと黙り込んでいた幸江の父が口を開いた。」
「幸江、一昨年でオトガ様のもとへ向かっている存在だ。お前がこの村にいることがオトガ様に知られると、お前も行く羽目になるやもしれん。だから、お前の結婚の挨拶と言う重要な時でも帰ってほしくなかった。岳郎さんは凄く言い漢だきっとお前を幸せにするはずだ。だから、明日千仲に戻ってくんねえか?お前が大きくなった姿を見ることが出来て本当に良かった。ありがとうな」
「父上、ありがとう。今日はもう遅いから寝るね。」
「あぁ、おやすみ」
幸江は両親が眠りについた事を確認するとそっと扉を開けてトガ教の神務本山に向かった。神務本山に向かい敷地内のお堂のとびらをたたき神父を呼び出した。
「こんな夜更けにどうしましたか?ってそなたは幸江殿。」
「木父様、私もオトガ様の元へ連れて行ってはくれませんか?」
「幸江殿、それはなりませんね。ご存じであるかもしれませんが、一昨年あなたの代わりに弟の太郎殿が身代わりになりました。太郎殿のやさしさを受け取って幸江殿は太郎殿分まで生きるべきです。」
「それでも罪悪感は拭えません。私はオトガ様から逃げ続けた結果、太郎が犠牲になってしまった。」
「私はもう、帰れないこの村の役に立ちたいのです。どうか、お願いします。オトガ様の元へ連れて行ってください。」
「幸江殿分かった。そこまでおっしゃるのならオトガ様の元へ連れて行こう。その代わり来年は誰もオトガ様への元へ行かなくても良いようにする。」
こうして幸江はオトガ様の元へ向かい二度と戻ることは無かった。
翌朝、目を覚めると岳郎は幸江がいないことに気づいた。兜と鎧を着用し慌てて幸江の両親を起こし、心当たりが無いか聞くと、トガ教の神務本山にいるのではと言われた。幸江の両親は止めたが岳郎は怒りのあまりすぐ飛び出し、供回り衆を集めてトガ教の神務本山に向かった。門の扉をたたき割ると木人達が薙刀をもって立ちはだかった。供回り衆と木人達で乱闘になった。岳郎はそのすきにお堂のなかを探したが見つからない。どこにいるのかと考え込んでいると一人の木人が山に向かって走って行った。(こいつについて行くしかない。)そう考えた岳郎は木人について行いった。しばらくすると山の頂について木人が雪洞の中に入ろうとした時、尾行していることに気づかれた。岳郎は刀を取りだし切ろうとした時、木人が(氷 刀)と言って雪の中から氷でできた刀を取りだした。しかし、氷の刀は脆くすぐにおれていしまった。氷刀が使えなくなると木人は慌てて「これ以上聖域を荒らさないで....」岳郎は問答無用で木人を切り雪洞の中に入った。
雪洞の中を10分程歩くと喪服姿のギャルっぽい女がいた。女の下には横たわっている幸江がいた。女はトネリコの杖を持ち(抜魂)と言い胸から青白い玉を取りだしそれを口にした。そして何かを唱えてしばらくすると白く大きな狐が現れて幸江の体を持ち去った。あまりにも衝撃的な出来事で何が岳郎はしばらく無心でいた。我に戻った岳郎は「おい、」と言うと女は不思議そうに「どなた様?」と言うと岳郎は「お前、幸江に何をした返せ。」と言うと女はクスクスしながら「あぁ、今仕留めた方の恋人ですかぁ?んまぁ、これは幸江さん自身が望んだことでぇす。幸江さんのお陰で来年一人の女性が救われるのだから無駄死にでは...」「お前、いい加減にしろ」岳郎は咄嗟に肩を抜いたて切ろうとしたが女は(木 刀)といい岳郎の攻撃を防ぎながら「愛巫のいう事が聞けない悪い子は退治しなくちゃねぇ」と言った。岳郎は「お前みたいに世の中を舐めている奴がこの世界を混乱させるんだ。」と言うと暫くしのぎを削った。結果、刀修行を積んだ岳郎が勝利した。切られた愛巫は不思議と血を流さずに倒れながら「あんたさぁ、オトガっちょ様にケンカ売るなんて大した度胸ねぇ。でもその度胸がこの村を絶滅させることになるけどねぇ。」と言って愛巫は消えて行った。
幸江の無事を祈りながら雪洞の中を進むと白い狐が幸江を食べていた。すぐに白い狐は岳郎の存在に気づき、物凄いスピードで雪洞を去った。幸江は食べられて残った着物を拾って大泣きした。
その後、岳郎は静かに村へと戻って行った。トガ教の神務本山には供回り衆と木人が倒れていた。岳郎は静かに去った。供回り衆の一人が「幸江さん無事でしたか?」と岳郎に聞くと「あぁ」とだけ言った。すると最後の力を振り絞りながら「それなら良かったと微笑んでいた。」岳郎は恩栂村の村人に合わないように静かに千仲への帰路についた。
山の祈りから帰った木父はトガ教の神務本山の惨状を見て絶望し「もう、恩栂村も村じまいか」とボソッと言った。白い狐が木父の元へやって来て「オトガ様、あなた様が泣いているという事は私達はもうここまでという事ですね。私と運命を共にしてくださいますか?」と白い狐に語りかけると白い狐は頷き、木父を食べたのち消えていった。
その後、誰一人帰って来ないことを不思議に思った村の人たちはトガ教の神務本山に向かった。破壊されている姿を見て、多くの人がトガ教からの解放を喜んだ一方で幸江の両親は娘が戻ってこない事を知ると泣き崩れてしまった。
その年の春以降、恩栂村では不作が続き餓死者が出るまでになった。幸江が身を捧げてから4年後に村が丸ごと埋もれてしまうほどの雪崩が発生し恩栂村は消滅した。
恩栂村が消滅したことを聞いた。岳郎は千仲から恩栂村の跡地へと向かい「私のせいでこの村は消滅してしまった。オトガ様どうか、どうか私の命と引き換えに怒りを鎮めてください。」と言って自害した。
その後、暫く磴根郡には大きな災害が起こらなかったという。
完
今年一年間ありがとうございました。来年度もよろしくお願いします。
来年は私たちが残すべき記憶や三人の保護者をはじめ様々な短編小説を書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
来年の書き納もよろしくお願いします。




