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縄文文書(もんじょ)で世界を救え!! ― 01  作者: 幸田 蒼之助
七、

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34/36

7-3、

※なるべく縦書きでお読み下さい。

「ここはテーブルが狭か。ドキュメントの確認が出来ん。移動すっど」


 慌ててノートPCを広げようとして、倫輔と彰善が舌打ちする。


 チェーン店居酒屋なので、グラスと料理皿が幾つか並ぶと、テーブル上に隙間がない。


「どうする? ファミレスに移動する? ここから歩くと、ちょっとした距離よ」

「それなら……“上海”か」


 金作が、徒歩五分、行きつけのスナックを提案する。


「さっきメールが届いちょったんじゃが、今日は丁度イベントらしい」

「おう。そこでよか」


 早くも倫輔がノートPCを掴んで立ち上がり、隣にいた彰善もさっさと帰り支度を始める。


「ちゅうわけで、笙歌はどうする? タクシー……は呼ばんでも、家は近いのぉ」

「なんでよ!! あたしも行く! いっつも除け者にしようとするんだから~!」


 ピシャっ、と笙歌は金作のアタマを(はた)き、不満を漏らす。


 ……といったひと悶着がありつつも、四人はさっさと会計を済ませ、徒歩にて近場のスナックへ移動した。


 ちなみに小さな町なので、繁華街と言っても飲み屋の数は少ない。


 ラウンジやキャバクラは皆無で、金作らの行きつけといってもスナックが数軒である。残りは婆ちゃんスナックばかりで、三人には敷居が高い……というよりお店スタッフの平均年齢が高い。


(都会暮らしを捨てると、そこだけが不満じゃのぉ)


 ボヤキつつ、目当てのスナック“上海”に入った。


 倫輔は挨拶もそこそこに、ボックス席にどっかと腰を下ろし、


「オイは芋焼酎のお湯割り」


 とお店の女のコ扮するバニーガールにひと声かけ、さっさとノートPCを起動する。


「こっちは〇一~一〇を調べるから(ぶっじ)、ガトリングは一一以降を調べっくり。各ドキュメントの末尾がどげんなっちょるか」

「OK。……あ、オレはバーボンをロックで」


 ガトリングも、さっさとドキュメントの確認作業に取り掛かった。


「ウノちゃーん。オレ、ビール」

「あ、私も。大ジョッキで持って来てね」


 笙歌も飲み物をオーダーすると、


「ウドさあ、まずは01-04のラスト数行を見てよ」


 と、当該箇所を指摘する。


「はあ、ちょっ待て」

「『その他に関しては、主たる文書を見よ』……って感じで書かれてるでしょ?」

「ほう……。本当だ(まこっじゃ)

「それから次は、01-09だったかな。やっぱり、『主たる文書を見よ』……って感じだったと思うんだけど」

「ほう……。本当だ(まこっじゃ)

「ね。なんかこの文書、いわゆるダイジェスト版みたいな位置付けなんじゃない? それで、他に本編がある……と」

「う~ん……」


 腕組みし唸る倫輔と、まさにガトリングの異名に違わぬ、怒涛のマウス無し操作に(いそ)しむ彰善。


 金作が呆れ顔で、


「おいおい。お前ら、ちょっとは周りに目を向けりん。一応、みんな頑張ってバニーガール・コスなんじゃけえ」


 ビールを抱えてきた、下腹ポッコン幼児体型バニーのウノちゃんと顔を見合わせ、苦笑いする。


 ウノちゃんは彰善の隣に座ると、グラスにロックアイスを入れ、バーボンを注いで軽くステアすると彰善の傍らに置く。さらに焼酎のお湯割りを作ると、倫輔の傍らに置いた。


「何、やってんの?」

「「……」」


 ウノちゃんが、二人に話しかけるも、何ら応答がない。


「今、ちいと作業中じゃ。こいつらが集中しちょる時は、脳味噌が高回転で稼働しちょるけぇ、あまり話しかけん方がええ」


 と注意を促しつつ、金作は早くもカラオケの端末を手に取り、曲を選び始めた。


「ちょっとぉ。また黒田節(くろだぶし)唄うのぉ!? やめてよ。どうせウケないんだから」

「そうか。それなら……」

都々逸(どどいつ)もやめてよ。迷惑だから」

「どうせ他に、客はおらんじゃないか」

「あたし達だって迷惑だっつ~の!」


 二人が揉めていると、倫輔がふと顔を上げた。


 傍らの焼酎グラスを手に取ると、一気にグイと飲み干す。


本当だ(まこっちゃ)。笙歌の言う通りンごたる。……そっちはどげんじゃ?」


 隣の彰善に声をかける。


 程なく彰善も顔を上げ、


「そのようだ。海洋学、気象学、天文学……全部、本編が他にあるような記述だ」

「まぢかよ。……で、そいつはどこにあるんだ? 件の石蔵にゃあ、他に何もなかったそじゃろ? 他に、地図でもあったっけ?」

「わからん。地図は()かった」


 こりゃ参ったのう、と倫輔が腕組みする。


 他人事のように、ビールジョッキのお替りを頼む、笙歌。


「土器の表面に、地図は描かれちょらだったよな」

「ああ。一通り見た感じじゃ、()かった」

「それなら、土器の底か、内側か」

「そイは見ちょらん。石蔵も、もういっぺん掘り起こしっせ、再確認するか……」

「まあ、どっちにしても、明日からにしよう。今日は飲むでー!」


 金作はビールを飲み干すと、再びカラオケ端末に手を伸ばす。


「そうは言ってもなあ。……今回は土器が二〇個で、それでダイジェストだら? 本編って、土器何個分になるだ?」

「じゃ、じゃ。二〇個どころじゃ済まん筈じゃ」


 仮に本編が見つかったとしても、今度は土器何個分になることか。探索に、運搬移動。想像するだに恐ろしい。そもそも大量の土器を、どこに保管するのか。


「……よし、キンの字! 金は出して(だいて)やるで、家を建て替えろ。地下にセキュリティ完備の大倉庫、1Fガレージ、2F会議室兼作業場、3Fがお前の住まい。……エレベーターも要るな」

「わかった」


 そこへ笙歌が口を挟む。


「家を設計するにせよ、建てるにせよ、どのみち時間がかかるんでしょ? その間に並行して、文書の解析作業を進める、と」

「ああ」

「あたし、ひとつ問題を抱えてるのよ。だから……家の設計をさっさと済ませて建設の段取りが済んだら、四人でどっか移動して、(しばら)く合宿しない? どうせ今の文書だけでも相当な作業量になるでしょ」


 あたしの家、来客が多過ぎるのよ、と笙歌が愚痴をこぼす。


 仕事にかこつけて、様々な客が笙歌のもとへ顔を出すのだ。打ち合わせと称して食事や飲みに誘われたり、その応対が相当に煩わしい。


「仕事をダシに、あたしに会いに来てるだけっぽいのよ。もう、ウザくてたまんないの」

「なるほどなあ」

「大概、電話なりメールなりで済むのにね……。作業に専念しづらいのよ。だからどこか、静かな場所に避難したいわけ」


 美女あるある、の悩みなのだろう。笙歌は変女だが、黙っていれば誰もが認めるセクシービューティなのだ。


「よし、わかった。バカンスを兼ねて、一ヶ月ばかし海外にでも行くか」

「わ~い。やった~っ!」


 飛び上がって喜ぶ、笙歌。その勢いで、景気づけとばかりシャンパンをオーダーする。


 店にストックがなく、慌ててバニーガールコスのまま外へ買いに走る、ウノちゃん。


「で、どこに行く? あたし、地中海辺りがいい! スペインとか」

「スペイン、いいな(いいやぁ)

「オイはタヒチか、モルディブ辺りが良か」

「ええなあ。じゃけど、一ヶ月もおったら退屈っちゃ」


 しばらくああでもない、こうでもないと揉めた後、両極端の希望の真ん中を採って、フィリピン・セブに決定した。


「ホテル代が安い。移動も五時間。まんぷく丸や吉兵衛の事を考えると、長距離移動は避けるべきじゃん」

「そうじゃのお……。フィリピンは、現地メシはマズいが可愛い女のコが多いっちゃ」

「あのねえ……。一応、合宿なんですけど」

「よかったなあ笙歌。セブはスペイン系のイケメン(よかにせ)も多かど」

「ど~でもえ~わ!!」


 笙歌のツッコミが、スナックの店内に響き渡った。




 その後、大いに酔っ払った三人が暴走に暴走を重ね、それを止めるべく倫輔が、


「オイの芸を見ろ!」


 とパンツを下ろして、チ◯毛をアロマキャンドルで燃やし始めるまでバカ騒ぎが続いた。それで一瞬にして騒ぎは収まったものの、四人はめでたく、お店から出禁を食らった。

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