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縄文文書(もんじょ)で世界を救え!! ― 01  作者: 幸田 蒼之助
四、

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19/36

4-2、

※なるべく縦書きでお読み下さい。

 というわけで、翌朝の九時。――


 ほぼ時間通り、倫輔(ウドさあ)、彰善、笙歌(しょうか)の三人が金作宅に揃った。


 金作は黒の長袖Tにジーンズ姿。倫輔は薄手の着流し。彰善は地味ながらもシャレたジャケットを羽織り、笙歌はロングのワンピにニット地のジャケットといった姿。


 秋も随分と深まり、限界を極めようかという頃合いである。そろそろ冬へと突破口を開くことだろう。彰善と笙歌はその、季節相応の格好だが、金作と倫輔は常に薄着だ。


(何かヘンなポリシーでもあるのかな)


 と、笙歌は常々疑っている。


「オイが外出しようちすっと、こいつが哀しそうに()っとよ」


 倫輔は久々に、愛犬のレトリーバー“吉兵衛”を連れてきていた。


 飼い主に似て賢いが、食い意地がはっている。金作宅に到着早々、まんぷく丸の朝飯の残りを勝手に平らげた。まんぷく丸はその横に佇み、悲しそうに吉兵衛を見つめている。


「吉兵衛、ダメでしょ。まんぷく丸が可哀想よ」


 笙歌はバッグから“ちゅるりん”チキン風味を一本取り出し、まんぷく丸に差し出した。まんぷく丸は、わふっ、と嬉しそうに吠えると、尻尾をブンブン振りながらちゅるりんに飛び付いた。


 今度はそれを、吉兵衛が羨ましそうに眺めている。


「いやいや。ちゃんと吉兵衛の分もあるから」


 笙歌は吉兵衛のアタマを撫でると、バッグからちゅるりんバーベキュー味を取り出し食べさせた。吉兵衛はそれに勢いよく飛びつき、まんぷく丸の七倍半の速度でぺろりと食べ終えた。


「吉兵衛、美味(うま)そうに食っちょるな……」

「いや、アンタ一応、人間でしょ。犬のエサを羨ましそうに眺めてどうする!」

「おいっ。一応たぁ、何事(なんごっ)か!」


 掛け合い漫才が始まりそうな気配を、金作が止める。


 それを契機に、笙歌はキッチンへと移動。コーヒーを用意し始めた。ヤロー三人はリビングのソファーに座り、まんぷく丸は自分用のソファー(お座敷犬用)で丸くなる。吉兵衛もその後を追い、その傍らに巨体を横たえる。


 程なく笙歌が、コーヒーメーカーとカップ類をリビングテーブルへ。電源コードをコンセントに差し込むと、ミーティング開始である。


「というわけで、とうとう来たぞ。教育委員会じゃ」

「はあ。まず教育委員会が基礎調査をやっせ、必要なら埋蔵文化財センターが動く……っちゅう流れじゃろか」

「なるほどな。二人組で来た。昨日、メールを送った直前じゃ。テキトーにあしろうて追い返した」

「ほう。すんなり帰ったか」

「金作はモンゴルに、砂金掘りに行って不在じゃっち追っ払うた」

「わはははは」


 美味そうなコーヒーの香りが、リビングに漂い始める。


「そんないい加減な事言って、大丈夫かなあ」

大丈夫(せわーない)大丈夫。……っちゅうわけで予定通り、プランAじゃ。三人ともよろしゅう頼む」


 金作が軽く頭を下げ、三人はわかったと頷く。


「タマキンの作戦としては、まずはのらりくらりと連中を躱すんだっけ?」

「そうそう」

「今回の応対も、それ?」

「そうそう」

「ウドさあもガトリングも、それでOK?」


 そう問う笙歌に彰善が頷き、倫輔……が頷く代わりに愛犬・吉兵衛が、ばうっ、と吠えた。


「わははは。ワイどんも賛成か。うん、よかよか。オイも賛成じゃっど。普段通り、戦略立案はキンの字に任せっせ、オイどん達はそイに加勢すりゃよか」


 倫輔がギョロ目を細めつつ、吉兵衛に笑みを向ける。


 ちなみに、まんぷく丸を備蓄食料呼ばわりする金作とは逆に、倫輔は吉兵衛をとことん可愛がっている。


「正面から来た奴らをまともに拒絶すると、あの手この手で次が来る。それより、ミエミエのウソでのらりくらりと躱し続けて、最後に現物を目の前から消す。奴らの追求の意欲をへし折る。大方(おおかた)、戦略的にそれが一番効果アリじゃろう」

「ドンとぶつかるより、暖簾に腕押し……的な?」

「そうそう。で、すっ転ばせて、起き上がって辺りを見渡しゃあアレアレ!?、と」

「なるほどね。一種の心理作戦かあ。……タマキンって、いつもテキトーに言ってるようで、一応理に適ってるなあ」

「当たり前じゃ」


 四人分のカップにコーヒーを注ぎつつ、笙歌がちょっとだけ感心したように言うと、金作がちょっとだけエラそうに応える。


「まあ、そういうわけで、こっちはこっちで準備(まわし)を進めるぞ」

「ん?」

「例のブツが手に入った」


 彰善は、傍らの大きな段ボール箱をポンポンと叩いた。


「何じゃそりゃ?」

「前に話した、特殊な梱包材だ。移動時、あの土器をエアーキャップなんぞでぐるぐる巻きにしても、効果ないじゃん。こいつは米国が開発した、ジェル状の緩衝材だ」

「あ。何か、聞いたことがある。戦車をヘリから落としても壊れん……とか言うヤツか?」

「そう」

「そげなモン、よう手に入ったもんじゃ」


 呆れ顔の、倫輔。


「ああ。ちょっと在日米軍司令部のサーバーに侵入して、ニセの発注書を潜り込ませた。送り先は、偽名で借りた貸倉庫。もう、発注データやら何やら全部消したから()、絶対に足はつかん」

「うわ……。リスキーな事するやあ。大丈夫か? バレたら問答無用で消されるぞ」

「大丈夫だ。在日米軍のセキュリティシステムは、前にオレが請け負って作ったじゃん(つら?)。その時、ついでに幾つかバックドアも作ってある。そいつを今回使った。動いた金も、全部誤魔化して辻褄を合わせた」


 なにそれ、と頭を抱え込む笙歌。ゲラゲラと腹を抱えて笑う、金作。


 おのれのソファーの上で大あくびし、再び丸くなって眠る、まんぷく丸。


「ほいだもんで、これからちょっと手伝ってくれ。貸倉庫から、残りをここに運び込むぞ。キンの字、軽トラを出せ。あとウドさあの車がありゃあ、全部乗る筈だ」

「了解」


 彰善の音頭で四人は立ち上がった。


「吉兵衛、まんぷく丸。お前達(おはんら)は留守番じゃ。大人しゅう、ここで待っちょれ」


 まんぷく丸は軽く尻尾を揺らして同意し、吉兵衛はうらめしそうに倫輔を見上げた。


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