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縄文文書(もんじょ)で世界を救え!! ― 01  作者: 幸田 蒼之助
三、

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14/36

3-5、

※なるべく縦書きでお読み下さい。

 ガトリングこと彰善は、ちょっと古風ではあるが、素直にイケメンと呼んで良い顔立ちである。


 ただし、頭の鉢――特に前額部――が広い。まさに理系脳が、パンパンに詰まっているのだろう。


 ちょっとアンバランスだが、細身の長身なので違和感をおぼえることはない。


 とはいえひょろガリでもなく、外見にそぐわない、妙な貫禄がある。小さい時から海外の大学に行くつもりで、


「外人なんぞに舐められてたまるか」


 と、長らく剣道に打ち込んでいたらしい。なるほどという感じがする。


 ちなみに貫禄といえば、ウドさあこと倫輔だろう。縦だけでなく、横にも随分と広い。いつも、


「服を買いに行っても、サイズが無か」


 とボヤいている。


「米国時代は、服なんぞに困らんかったっちゃけんど」


 最近は(もっぱ)ら、海外通販で調達しているらしい。


 南国出身に多い、いわゆる縄文顔である。とにかく濃い。顔のパーツパーツが全てデカいのだ。眉も太ければ、ハナも唇も太い。


 特に、その目玉が特徴的である。ギョロっとデカく、目ヂカラが半端(ハンパ)ない。


「オイの目ン玉ンお陰で、村人連中もオイにケチ付けられんかったっじゃろなあ」


 ゲラゲラ笑っている。


 ――大型バスは、作られた時から大型バス。


 かつて、とある大型(ゝゝ)芸人がそんな名言を生んだが、倫輔がまさにそれである。米国時代も大柄な外人さん相手に、貫禄負けすることは無かったらしい。


 そんな二人と対照的なのが、タマキンこと金作だろう。


 アンバランスにアンバランスを重ねたら、なぜか上手いことバランスがとれた……とでも言うべき、珍妙な外見をしている。


 背は小柄。だがその身長に反比例するかのごとき、面長な顔をしている。


 その面長な顔に乗るパーツ類も、どこか妙だ。一つひとつを見ればおかしな物はないのに、全体的に見ればアンバランスである。なのになぜか、不条理な調和を感じる。


「妙ちきりん」


 と、かつて倫輔が金作を眺めつつ言った。表現としてドンピシャかもしれない。


 小兵なのにどういうわけか貫禄十分で、倫輔と彰善に貫禄負けしていないところも、不思議と言えば不思議である。戦後教育で育ったフツーのひょろガリ男子、というセオリーから完全に逸脱している。


(これが、異端児ってヤツかなあ)


 日本や大陸の歴史に登場する英雄豪傑に明るい笙歌は、なんとなくそう感じるのである。


 その異端児が、おもむろに口を開いた。


「よし。雑談はさておき、作業の方を次のフェーズへと移行すっちゃ」

「文書の解読だら~?」

「そうそう」

「あ、オイは平行しっせ、石蔵の石組みも調査研究すっど」

「おう。頼む」

「あれは何か妙じゃ。縄文由来の石組みとは、何か()ごちょる」


 発見した石室を倫輔が見るに、我が国古来の伝統的石組みとはまるで異なるらしい。それよりむしろ、南米ペルーあたりの古代遺跡に見られる石組みに、似ているという。


「まあ、石組みについては倫輔に一任として……文書の解読はどうするか? すっげー(ぶち)手間暇がかかりそうだな」

「あ、それは多少だが、考えとる。オレが補助ツールを作った。少しは作業が捗る筈だ」

「まぢかよ。さすがガトリングじゃな」


 彰善はノートPCを開き、テーブルに置いた。


 それをちょちょっと操作し、自作ツールのフォームを開く。


「IMEってのがあるだ()? OS付属の、日本語変換機能のことだ。あれのエンジン部分が、フリーでネットに転がっとったで、拾ってきて改造した。日本語ローカライズのロジックが甘かったで、そいつを強化してある。文法の解析力が相当向上しとる筈だ」

「ほう」

「それから古語辞典のデータを引っこ抜いて、こいつに組み合わせた。もう既に、フツーの古文であれば(ありゃ)自動変換が出来る」

「はあ……。でも今回の豊国文字文書(もんじょ)って、平安以降の古典よりずっと古いんでしょ?」

「ああ。多分、な。ほいだでカスタマイズやらチューニングを進めりゃぁ、もっと変換の精度が向上するように設計してある」

「うわ。よう解らんけど、スゲぇっちゃ」

「変換辞書のデータやら、カスタマイズ情報やらチューニング設定ファイルは、ネット上の共有ドライブにアップした。ほいだで四人で同時に作業しつつ、どんどん変換精度が上がるように設計してある」


 だから……、と彰善は、笙歌に目を向けた。


「作業はまず、古典に一番精通しとるお前から、進めて欲しい」

「なるほどね」

「最初の作業は大変だらーが、段々ラクになってくる筈だ。ある程度チューニングが進んだ時点で、オレ達三人が着手する。そうせりゃぁ下らん誤訳が減って、作業効率も上がるだらーで」

「うん、わかった」


 笙歌は返事しつつ、三人の顔を順繰りに眺めた。


(うん、ウドさあは大丈夫だよね。専門が専門だから、古典なんて読み慣れているだろうし)


 じゃあ、彰善はどうだろう。なにしろゴリゴリの理系人間だ。


(いや、まあ大丈夫だよね。確かガトリングって高校時代、国語もほぼ満点だったから。古典の基礎ぐらいはちゃんと出来てるだろうし、なにしろ論理思考の塊みたいなアタマだもんね)


 そしてタマキンに視線をやる。


(こいつ……も、まあ大丈夫か)


 やはり高校時代の一風景を思い出す。


 四人が過ごした高校は、週に一コマ、読書の時間があった。


 ある時、クラスメイトみんなが静かに読書していると、突然タマキンが吹き出して大笑いしたのである。


 訝しげに眺める皆の視線の先、タマキンの手元にあったのは、“古典文学体系”と書かれた分厚いハードカバーの本。


 なぜそんな本を読んでいて吹き出すことがあるのか、と不審に思った一人がタマキンに尋ねると、


「いやぁ……。これ、実は“東海道中膝栗毛”なんじゃけど」


 タマキン曰く。――


 弥次さん喜多さんが歩いていると、若い女性が向こうから歩いて来た。


「おい、弥次さん。知ってるかい? 最近の若い娘さんは、白手拭いでほっかむりした男を『粋だねえ』ってんで好むらしいぜ」


 そう言いつつ、喜多さんは懐から白手拭いを取り出し、若い女性とすれ違いざま、さりげなさを装いつつ頬っかむりした。


「それがなあ。手拭いじゃと思うて取り出したソイツは、前の晩に風呂入った時に脱いだ、おのれの汚れフンドシじゃった……っちゅうオチだ」


 思わず吹き出してしまった、と頭を掻くタマキンに、クラス中、大笑いとなったことがあるのだ。当然、何事かと様子を見に来た教師に怒鳴られたものである。


(うん……。タマキンもまあ、多分大丈夫だよね)


 仮にも名門・晩稲田大学出身だしさ。あそこってそもそも、国語力が無ければ入れないし。……


 そんな事を考えつつ、彰善から独自ツールのレクチャーを受ける。


 文法解析のロジックに関わるカスタマイズ、単語辞書カスタマイズ……。シンプルながらも非常に巧く設計されているのは、カスタマイズ画面を見ただけで想像がつく。


「凄いな」


 横から覗き込む金作も、舌を巻いた。


「さて。どイから笙歌に翻訳して貰おうか……」


 傍らで自分のPCを操作する倫輔が、ぶっとい眉をひそめつつ、四〇〇あるテキストファイルに目を通す。


「うん。やっぱこイじゃろな。……ワイどんに下手な文書を見せると、あとが恐ろしか」


 そうボヤキつつ、ひとつのファイルを笙歌のメールアドレスに添付転送した。


「何言ってんの! このプロジェクトって、やっぱあたしが参加しないと成り立たないじゃん」

「わかっちょる」

「で、それってどんな内容?」

「わははは。読んでのお楽しみじゃ。オイもちょろっと読んだが、まあ猛烈にぶっ飛んじょる」


 倫輔は笙歌に、ギョロ目を細めて笑ってみせた。

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