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縄文文書(もんじょ)で世界を救え!! ― 01  作者: 幸田 蒼之助
三、

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13/36

3-4、

※なるべく縦書きでお読み下さい。

「そげなわけで、戦前は神代文字がフェイク扱いされちょった。じゃっどん戦後も、同じくフェイク扱いされちょる」

「学者連中は、何と言って否定している?」

「大陸から漢字が入ってきたお陰で、古代の日本語は、母音が八つじゃと判明しちょる。じゃっどん神代文字は全て表音文字で、現代日本語と同じく五母音じゃ。あいうえお、の五母音」

「はあ。古代は八母音が正しい筈だから、五母音の神代文字は、全部フェイク……と」

「じゃっど。そげな論法じゃ」


 首を捻る、彰善。それを見て、倫輔は頷く。


「うん。漢字伝来以前も、ホントに(まこち)八母音やったかどうかは判らん。単に学者どんが、そげん主張しちょるだけやろな」

「実際は五母音だったけど、それを大陸の連中が勘違いして、八母音で区別した……か。あり得るな」

「おう。昔は当然、語学テキストはおろか、辞書すら()か。日本人も大陸人も、互いに手探りでコミュニケーションをとっちょった時代じゃ。大陸の連中が日本語を勘違いしっせ、八母音やと区分した可能性は、大いにあり得る」

だよな(じゃな)……」

「さすがに最近は、日本は昔から五母音じゃったち主張する学者も、ちらほら見かける」

「つまり、五母音だから神代文字はフェイク、と見做すのは無理があるわけね……」


 笙歌が言うと、倫輔は首肯した。漢文にも和文古典にも明るい笙歌だからこそ、素直になるほどと頷ける理屈である。


「まぢで学者っちゅうのは、何から何までズズズイーっとインチキばっかじゃのお。信用ならんちゃ」


 金作がソファの背もたれにドンと背を投げ出し、天井を見上げて嘆息する。


「そもそも、文字無しで、技術や文化が発展するわけがねえ……」

お前(おはん)、鋭いとこ突くなあ……」


 彰善が一瞬にして反応し、金作の顔を眺め、それに続くように倫輔が感嘆の声を上げた。


「キンの字の言う通りじゃっどー。実は縄文前期頃――丁度今回の発見より後の、六〇〇〇年前頃やな――縄文人は太平洋を横断しっせ、中南米に行っちょる」

「はあ!?」


 笙歌は思わず、間抜けな声を発した。


「ああ、本当だぞ(まこっちゃっど)。南米エクアドルの遺跡かイ、縄文人らしき人骨やら縄文土器が出土しちょる。オイも大学時代、現地に行っせ現物を見てきた」

「縄文人らしき人骨……って、それDNA鑑定やってるんか?」

「ああ。日本人特有の遺伝病を引き起こす因子が、見つかっちょっごたる」

「なるほど。おまけに縄文土器が出土してるなら、まあ、縄文人で間違いないっちゃろうな」

「じゃっど。土器の模様も、縄文前期頃の熊本やら宮崎やらの出土品と一致しちょる。そイを日本の学者共は、何だかんだと屁理屈つけっせ無視しちょるが、欧米じゃ縄文人じゃち完全に受け入れられて、定説化しちょる」

「はあ!? ちょっと待て!」


 と、彰善。目の色が変わっている。


「太平洋横断って、簡単な話じゃねえぞ。ちょろっと漁に出たら、嵐に遭って流されて、太平洋の反対側に漂着しました……では済まんだらー?」

「おう。幕末に咸臨丸が、太平洋を横断しっせサンフランシスコに行った時も、片道一ヶ月半ばかしかかっちょるからな。漂着はあり得ん。向こうに辿り着く前に、海の真ん中で餓死すっじゃろな」

「幕末の咸臨丸で一ヶ月半ってこたぁ、縄文人なら数ヶ月か。……ハナっから計画的に、食糧やら水やら大量に(ようけ)用意して行かにゃあ、絶対に無理じゃ」

そうだろ(そうら)!? それにはデカい船が要る。……木材加工技術に造船技術、夜間の海上で方角を知るための天文学、気象学に海洋学……」


 指折り数える、彰善。黙って頷く、倫輔。


「当時は丸木舟しか()かった、っちゅうのが学者どんの通説じゃっどん、丸木舟なんちゅーもンは、丸太よりデカいサイズの舟は創れん。縄文時代には既に、デカい構造船を創る技術があったっじゃろな」

「最低限の天文知識も必要だな。沿岸を見ながらの航行とは(ワケ)が違う。少なくとも、北極星の存在は知っとかにゃ無理だ」

「それよ、それ。オレたちは学校で、北極星ってのを教わるけぇ簡単に考えちょるけど、それってのも結構高度な技術の裏打ちがあっての話じゃないそ? オレ、前から不思議じゃったけど、縄文人ってどねーして星の動きを観測したんじゃ? 精密な観測機器なんて無いじゃろ? そもそも時計だって無いそじゃろ」


 金作の言葉に、彰善と倫輔がハッと表情を変える。


「そうじゃ! 昔は日時計ぐらいしか無え。夜間にどげんして、星の動きを観測したんか?」

「それだけじゃねえ。例えばこの星は、一時間でどう動きました……ってデータを、どうやって記録したじゃんね? 文字も無いのに」

「わはははは。そうじゃな、長年天体観測をやりゃあ、膨大なデータが残る筈じゃな。ウドさあ、そういったデータって、見つかっちょるんか?」

「いやいや、無え。日本はおろか、世界でも見つかっちょらん筈じゃ」

「なんだよそれ……」


(どういうこと?)


 笙歌は一人、思案する。


 星の動きなんて、ビミョーじゃん。ちゃんと定点に立ち、きちんとした観測機器を使わないと、観測なんて無理でしょ。どうやって視点を固定すんの?


 おまけにライト付き腕時計なんて、便利なモノもないわけで。あ、勿論カメラもないし。


 笙歌は大学の卒業直前に行った、ハワイの星空を思い出した。満天の星を。


 この農村から見る夜空とは、別モノである。だが日本の縄文時代の夜空とは、まさにハワイで見た満天の星空だった筈だ。


 タマキンが言うように、あの膨大な星の中から、


 ――あの星だけ、全然動かない。


 と、北極星の存在に気付くだけでも、相当に難しい筈だよね。


 ちょろっと数日、観測しただけで、


 ――あの星は動かんっぽいから、あれを目印にして方角を割り出せばイケるやろ。


 って、いい加減な感じで太平洋に乗り出すのは、自殺行為だよね。


 まあ、そういう連中もいたんだろうけどさ。絶対、何年も何十年も天体観測を続け、


 ――全然動かない北極星


 に気付いた筈だよ。


 ってことは長年、観測データを残さなきゃいけない。そりゃ当然、文字も必要だよね。漢字伝来以前の日本には、文字が無かった……ってのは、全然説得力がないじゃん。


 つまり、日本には昔から文字が在ったんだよ。縄文人が太平洋を横断したってのが、まさにその状況証拠でしょ。


 現に今回、七五〇〇年前の神代文字が見つかったわけだし。――


(あっ。そういえば……)


 ふと、気付いた。


「あたしさあ、随分前に魏志倭人伝を読んだんだけど」

「おう」

「アレに書いてあったよね。『女王国の東、海を渡って一年の距離に、国がある』って。うろ憶えだけど、何かそんな記述があったよね」

お前(おはん)()かとこに気付いたな」

「一年もかけて海を渡った先に、国があると知っているわけでしょ? ってことは、六〇〇〇年前~卑弥呼の時代までに、誰かが中南米へ“往って還って(ゝゝゝ)”きたんだよね」

「ああ。おはんの言う通りじゃろなあ」

「ほらみろ。気象学やら海洋学やらの理解も、相当高かった筈だに。それが無えと帰って来れん」


 力説する、彰善。


 暫く沈黙していた金作が、口を開く。


「縄文時代、おもしれえな。……学校ではちょろっ(ちょちい)としか教わらんかったし、教科書も灰色と茶色のイメージじゃったけど」

「ん?」

「写真、石器と土器だけじゃろ。灰色と茶色」

「わはははは。……実情は全然違うぞ(ちごど)。磨製石器の考案も、土器の発明も世界一早い。綿に似た織物で、衣服を作っちょった。漆塗りの技術も一万年前から在った。稲作農業も一万年以上前からやっちょった。弥生時代から……じゃねえぞ、縄文早期からじゃ」

「まぢかよ!」

「酒を作る技術も世界最古級。酒造り専用の土器まで作っちょった。世界の遺跡ンごつ、派手な石造建造物は無えごたるが、かなり高度な木材建築技術があった。太平洋を横断出来(でく)っだけの、高度な技術や文化があった。学者どんやら学校ン教師が教える貧素な縄文歴史観は、大概デタラメじゃ」

「ふ~ん。理由はつまり……」

「じゃっど。さっき言った通りじゃな」


 四人はしばし互いの顔を見合わせ、そして大きな溜め息をついた。

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