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 俺は同級生の親友、サトシと本屋にいた。


「うっわ、マジでねーわ。翔る少女の新刊まだ入荷してねぇのかよ。来て損したわ」


「まぁ田舎だしそこは仕方がないでしょ。分かりきったことだと思うし」


 サトシが嘆いていたので、俺は一応フォローを入れておく。


「いや、凛弥。お前は俺がどれだけ新刊を楽しみにしていたのかをまるで分かっていない。君はこの俺を全く理解していないよ。俺は小さな女の子を定期的に接種しないと生きていけない体にされているんだ」


「そうか、ごめんな」


 なぜ全てを悟ったような口調になっているのかまるで分からなかったが、それだけ楽しみにしていたということなのだろう。そういうことにしとこう。



 現在は高校からの下校際で、暇だから寄ろうということになり俺たちの趣味のラノベ漁りに赴いたという訳でここにいた。


「そういや凛弥もなにか買うって言ってなかったけ?」


「俺かぁ。別に目的とかは特にないけど……俺って表紙を眺めてるだけでそれなりに楽しめるしね」


「ふーん、変わってんなぁって、……あれ?」


 突如としてサトシが怪訝な声を上げる。


「どうしたんだ? また幼女がいっぱいの本見つけたのか」


「ちげぇよ、ほら、あれ見てみろよ!」


 サトシが指さした先には黒い何かが止まっていた。

 大きさは親指程度で、本棚の横にしがみつくようにしている。


「え……なに、虫?」


「おいお前知らねぇのかよ! あれカミキリムシだろ!? しかもカタジロゴマフカミキリだと思うぜ! この辺ではめったに見られないんだ!」


 サトシが興奮していた。

 別にそれ自体は珍しくもないが、興奮の対象が大分意外だと感じた。


「えぇ……そんなこと言われても困るっていうか」


「お前マジかよ! 全然分かってねぇな! 俺は幼女の次にカミキリムシが大好きなんだよ。人生を掛けてもいいくらいにはな」


「怖いって……」


 サトシの目が狂気に満ちていた。

 俺はとんでもないやつを親友にしてしまったのかもしれない。


「危なあああああああい!!」


 突如として声が上がった。

 何だと見てみれば、黒尽くめの格好をしたやつがナイフを片手にこちらに突っ込んできていた。



「…………ッ!」



 意味が分からなかった。

 でも紛れもなく現実で起きていることだ。

 そしてそれを理解した時には、その切っ先がより近くにいたサトシの胴体に突き刺さろうとしていた。



「やめろおおおおおおおお!!」



 俺はサトシを突き飛ばした。



「あ……」



 気付けばナイフが俺の胸に刺さっていた。

 夥しい量の血がナイフを伝い滴っている。



「こんな、最後って……」


 俺は釈然としないものを感じながら、ゆっくりと意識が遠のくのを理解した。











「うぅ…………あれ」


 気付けば俺は知らない場所にいた。

 白い壁に白い床、白く太いいくつもの石柱。

 神殿のようだと思った。


「おっす!」


 そして目の前には白いヒゲを蓄えたお爺さんがいた。

 片手を上げ元気に挨拶をしてくる。


「えっと……あなたは一体……」


「うーむ、どうもウケがいまいちじゃな。最近の若者の挨拶はこういう軽い感じでいいかと思ったんじゃが」


 目の前にいる男は頭を掻きながら本気で悩んでいるようだった。


「ここはどこなんでしょうか?」


「ま、いいじゃろう。なーに、心配せんでも全部教えてやる。まずここは天界じゃ。そして儂は神じゃ。お主は死亡し神である儂にここ天界へと呼び出されたのじゃよ。さーて、どこまで信じるかな」


 えぇ……なんだそれは。どんな冗談?

 しかし何で俺はこんな場所にいるんだろう。寝ている隙に誘拐されたか? いや、もしそうだとしても何故俺なんかが捕らわれるのか分からない。俺の家は別に裕福でもなければ俺に何か価値があるわけでもない。どこにでもいる普通の高校生だ。

 であるなら最後に何をしていたかを考えるか……


「……あ」


「ふーん、その様子じゃと思い出したようじゃの。どうじゃ、一度死んでみた感想としては。そう感慨深いもんでもないじゃろう?」


 ……そうだ、思い出した。

 確か俺は本屋にいて、そこで何気ない日常を過ごしていたところに急に怪しい奴が現れて……


「うぅ! 胸を刺されて死んだんだっ……! あれ? でも痛くない、胸も……なんともない」


「そりゃ今のお主は魂の情報を元に再現されてる仮の姿じゃからの。お主の肉体は地球にてとっくに埋葬されておる。こうでもせんと話しづらいじゃろうと思うての儂の配慮じゃ」


「えぇ! 嘘だろ、じゃあここは天界とやらであなたは本当に神様……」


「えっへん」


 お爺さんが可愛く胸をはる姿に嫌悪感を覚えてしまうがそんなことより……マジかよ。こんな状況って……


 普通ならあり得ないと口をつくより前に思うことだろう。

 しかし俺には記憶があった。

 記憶に嘘はつけなかった。


「うぅ、頭が痛い……神様、でいいんですよね? 僕はこれからどうしたらいいんでしょう」


「ふむ! まぁ色々不安に思うとは思うが安心しろ! 今回はお主を救うために呼び出させて貰ったのじゃからの!」


「え?」


「お主を……異世界に転生させてやる!」

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