61話
よろしくおねがいします。
61話
「ここであってるかのう。こんにちはじゃー、誰ぞおらぬかー」
メンバー限定配信の翌日、予定が無かったのでさっそく件のリスナーの家に来た。思っていたより大きな家だ。一人暮らしの女性らしいが、社長とかだろうか。
庭先まで入り、ドアベルを鳴らした。
「はいー!…………ヤミチャンダ」
「やみちゃんじゃよー」
「いまむかいます!」
「ゆっくりでよいぞー」
裏返って首を絞められたハムスターみたいな声でびっくりされたが、しばらくしてドアがあけられる。
目の前には茶髪セミロング、仕事が出来そうなスーツの女性。
その後ろに、大きめのTシャツとジーンズ、赤くて長い髪を後ろでひとつに纏めた、背が高くて強そうな女性が立っている。
彼女が、例の、庭に落ちていた人間だろう。
「あっあっ、ヤミチャン」
「あー、その、なんじゃ、落ち着くのじゃ、ゆっくりの」
「アッアッ」
「……上がってよいか?」
「アッハイ!!」
……まぁ、推しが自分の家に来たらこんなもんである。多分。
リビングのソファに案内され、座る。ふかふかだ。
目の前にはガラス製の高そうなテーブル、向かいにもソファ、そこに2人が座る。……大魔王様の横には何故か犬が2匹座っている。かわいい。でかい。
「さて、まずはお邪魔させてもらってすまんの。これ、手土産じゃ。あとで食うといい」
「アッアッ」
「……もう俺が話そうか?」
「そうじゃなぁ……アギト、久しぶりじゃな?」
彼女の名はアギト。
赤鬼族の末裔、鬼人族の将軍。
亜人族の中でも、力と統率に長けた種族の、その中でもトップ中のトップ、最強の女だ。
「大魔王様も、ご健勝でなにより。アンタが居なくなってから、アンタの庭番がウチに来たよ?ヤンチャされて大変だったんだぜ?」
「ユイかのう……すまんのう、彼奴はちょっと、まあ、なんじゃ……」
「ああいいよいいよ、ウチの半端モンらにもいい刺激になったさ。……俺が居なくても、まあ大丈夫だろうよ」
「アギト、貴様は何故こっちに来たのか、わかるかのう?」
3匹目のでかい犬が、赤髪赤目の、アギトと呼ばれた女の元に向かう。
それを大きな手で撫でながら、アギトは語る。
「勇者だよ」
遠い目をして、思い出すように。
「アンタの庭番よりイカれたやつが、ウチをめちゃくちゃにしやがったのさ。俺がなんとか押しとどめて、全員上手く逃がせた……はずだが。俺は逃げることもできなかったさ。たしかにアイツに、切られた。……気がついたら、ここさ」
「ふーむ……アギトは魔力持ちではないじゃろ?世界を飛び越えるほどの理由がわからん」
「俺としちゃ、アンタが居るのもビックリだがな」
「レインもおるぞ」
ガタッと、アギトがソファの上で跳ねる。犬は面白がって擦り寄っている。
「はァ?レインってあのレインだろ?閃脚万雷の……ハイエルフの名誉将軍が、なんでそんな」
「彼奴は魔法の暴発と言っておった。ワシも似たようなもんじゃ。……最近になって、コッチに来るアッチのモノが増えててのう。厄介事になりそうでな、こうやって情報収集をしておるのじゃ」
「それはなんというか……もともとあっちの勇者っつーのが、こっちの世界の人間なんだろ?もしかしたら、今までの分を返す、みたいな感じか?」
「もちろんその線も考えておる。あとはまあ、その例の勇者と邪神関連かのう……ま、考えてもわからんもんはわからんし、アギトもなんかあったら協力しておくれ。……すまほはあるかの?」
「スマホは……まだないな。おい、アヤ、アンタのスマホでひとまず連絡先交換しておいてくれないか?大魔王様もいいだろ?」
「よいぞー。アギトがスマホを買うまでは、そっちで連絡しよう」
「アッアッハイ!ダイジョブデス」
「……大丈夫かのう」
ひとまず、アヤと呼ばれた女性と連絡先交換をして、アギトには認識阻害の指輪と魔力探知の指輪を預けた。魔力探知は、魔力のある物質が近くにあると色が変わるというものだ。生物には反応しないので、物品を探すのに役に立つ。認識阻害の指輪も魔力があるので、1m以内の魔力には反応しないようにつくってある。異常調査のための品だ。積極的に探す必要はあんまりないが、何かあったら連絡してもらう。
「じゃ、まあ、大丈夫そうな人物じゃったから一安心じゃ。帰るかのう」
「おう、なんかあったら連絡するわ。ご苦労さん。……ああ、ちょっといいか?」
アギトが、帰ろうとした大魔王様を引き止めた。
チラッとアヤの方を見て、また大魔王様をみる。
「写真、撮ってやってくれないか?なんだっけか……チェキ?みたいな感じの」
「あー、なるほどのう、いいぞよ」
「俺が撮るよ、アヤ、スマホ貸せ」
「アッアッエッナニッ」
「仕事中の顔してじっとしてたらいいからな、ほら」
アギトに言われて、キリッとデキル人間の顔で固まったアヤ。
その横に、大魔王様が座り、顔を近づける。
「こんなもんかの?」
「お、いい感じだ。撮るぞー……よし、別のポーズも頼む……よし撮った。ありがとな」
「これくらい良いのじゃ。じゃ、お暇するのじゃよ。……このまま置いていってもよいかの?」
固まったまま微動だにしないアヤをみる。
……ほんとうに動かない。石化したかのようだ。
「あとは俺がなんとかするわ。遠くからわざわざありがとな」
「んむ、達者での。じゃあのー」
その後、アヤのスマホで撮られたツーショットは、クラウドサーバーとPCに厳重に保存された上で、スマホの待ち受けにされた。
会社での仕事中にもたまに見てはニマニマしているのは、秘書だけが知っている。
彼女は大きな企業の社長。鉄壁の女社長。ニマニマ顔は、他の部下には見せられないのだ。
★5評価やブックマークなど、どうぞよろしくおねがいします!
カクヨム様のほうでも投稿しています。フォローなどよろしくおねがいします。
https://kakuyomu.jp/users/kagamikuron




