53話
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53話
「カニ……蟹が食いたいのう」
「買ってくる?」
「んーーーーーむ…………買いに行こうかのう」
テレビを見ていると、蟹の店の紹介をしていた。
秋、といえば、食欲の秋。テレビのみならず、スーパーなどを歩いても、旬、旬、旬と、どこかしこから食材を勧められる。
大魔王様としても、やはりいちばん美味しい時期に食べたいので、旬の宣伝はありがたいものだ。
しかし。
「まぁ、高い……とはいえ、収入から考えればそうでもないのかのう?」
「私の稼ぎからしたらちょっとアレだけど、やみちゃんのならまぁ、ちょっとした贅沢くらいじゃないの?」
ちなみに、寧は夜間にバーテンのバイト、休みの日は大魔王様とレインの配信の切り抜き作成などで、親からの仕送りが必要ない程度には稼いでいる。しかしまあ、女性は出費が嵩むので。余裕があるわけではない。特に風呂上がりなどは、無加工ぷにぷに赤ちゃん肌の大魔王様がうらめしいと思うこともある。
「そういうものかのう。……ふたりで食いにいくのじゃ。たまには外食もいいじゃろ。当然ワシの奢りじゃ」
「わ、やった!いくいく!お酒も飲んでいい?」
「んむ、日頃の感謝のおかえしじゃからな、好き放題飲み食い放題じゃ!」
「やった!楽しみになってきた!夜だよね?」
「夜じゃな。昼は……おにぎりで済ませておこうかのう」
「私は抜きでいいや。プロテイン飲むし」
「気合い入っとるのう」
時は夜、蟹しゃぶの店にて。
大量の剥かれたカニ足、味噌入り甲羅、鯛などのしゃぶしゃぶ用海鮮、数種の酒、野菜、寿司や刺身、肉などが目の前に並んでいる。
ちなみに食べ放題ではない。庶民にはちょっと厳しいお値段だ。大魔王様は貯金があるので。
「うわあ、どれから食べよう……いやまあ最初は蟹かな!いただきます!」
「んむ、いただきますのじゃ!」
カニ足を鍋に潜らせ、ひとくち、ぱくり。
「うーん、美味しい!前食べたのより美味しいかも?やっぱり値段で違うのね……」
「美味いのう、蟹はいいのう。蟹味噌も美味い!こう、潜らせた足を蟹味噌につけて……」
「わ、それやりたい!やろう!……うっま、なにこれ、うっまい」
「んふー、贅沢じゃのう!他のも食いたいが、蟹ももっと食いたい……悩むのじゃ。ひとまず鯛をば……」
「わ、野菜も甘くて美味しい!全部良いやつじゃん……そういえば値段見てないな」
「見んでいいぞ。それより酒も飲むと良いぞ。その寧に一番近いのが有名な……卸先が限定されておる、珍しい日本酒らしいのう」
「え、これ飲みたかったの!これあるお店、さすがに大学生には厳しくて、ひとりでも入りづらかったから……んっ、やば、おいし……うわぁ、これだけでも来れてよかったなぁって思っちゃう!」
「んふ、よろこんでもらえてなによりじゃなぁ」
寧の心からの笑顔が見れて、大魔王様も御満悦である。
「なんでも好きなだけ食うのじゃ。よろこんでくれるなら、それが一番よい」
「ふふ、ありがとね、やみちゃん!」
「……ワシも飲もうかのう」
中々に度数の高い酒を、カッと呷る。
酔っていれば、顔が赤くてもおかしくないだろう、と。
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