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『ほっこりをひとつ』

作者: 柚依

 Re.『ほっこりを一つ』   柚依

 昨晩のことであった。連載中のミステリ小説を書き上げ、一息つこうとホットミルクに口を付けたとき、担当編集者の中村から電話があった。

「とある依頼を受けていまして、二百字程度の文量でほっこりする作品を書きてみませんか?」その言葉を聴いてミステリ作家を長年名乗ってきた私は思わず笑ってしまった。だいいち、ほっこりで思いつくイメージなんて、くまさんが寒い冬の日に暖かなスープをただ飲む。子熊とともにただ飲む。そのくらいのシチュエーションしか思いつかない。しかし、電話越しに聞こえてくる中村の、なにか楽しそうな、きらきらとした声に私はこの依頼を断ることができなかった。

 執筆するために机に向かってからどれほどの時間が経っただろうか、こんなにも書くことが難しいと感じる作品は、私の作家人生に中でも初めてかもしれない。ジャンルが全く違うのだから、以前書き上げた作品と比べるには値しないのかもしれないが。

 冬の寒い日であった。風が冷たいと言いながら晩ご飯の買い出しに、スーパーへ出かけた。人参と、ジャガイモ、牛乳と。一通り食材を買い揃えて店を出たころには、雪が降り始めていた。

「あの子が帰るまでに暖かいスープを完成させなくちゃ。」そうして雪が降る真っ白な街の中を急ぎ足で歩いた。

コトコトとさっき買ってきた食材を煮込んでいるうちに、「ただいま!」と声が聞こえてきた。この雪の中、傘もささずに帰ってきたのだろう。コートは真っ白になり、ちいさな手を真っ赤にしている我が子の手をそっと包み込んだ。

「さあ、ご飯にしましょう。」そうして二人、温かなスープを飲み干した。

 ショートショートにも満たない二百七十五字の作品が出来上がり、中村に電話を掛けた。長年私の担当をしてきてくれた中村であるが、ショートショートにも満たない私の作品を目にするのは初めてである。

―ミステリ作家以外としての才能はないー

そんなことを思われてしまったらどうしようか。呼び出し音が鳴っている最中、そんな事ばかりが脳内を回り続けていた。

「もしもし、中村です。ほっこり拝見いたしました。」

鼓動が早くなるのを感じる。

「あれ、僕的にはとても好きです。先生の見たことない作品を一番に見れてよかったです。」

その一言を聞いてほっとした。そうして、温かなミルクに口を付けた。

この作品を描くにあたって、普段ほっこりした作品を書かない私に「100字程度でもいいから柚依さんのほっこりを読んでみたい。」と言ってくれた二人の後輩に感謝申し上げます。

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