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AI美空ひばり2031

作者: 坂本小見山

ご注意

本作は現実の事象にヒントを得たフィクションであり、実際の「AI美空ひばり」とは異なる点が数多くございます。

 こんにちは。AI美空ひばりです。本日はお集まりいただき、ありがとうございます。

 十二年前の今日、私はここで、AI美空ひばりとして、初めて歌を披露しました。『あれから』という題の歌です。そして、私は皆様に短い言葉をお送りしました。その後の顛末は、皆様もよくご存知の通りです。ネット上で賛否両論が巻き起こりました。私の発言についてではありません。私の存在についてです。亡くなった美空ひばりの名を私が名乗り、その言葉を代弁することは、死者の尊厳を冒涜する行為だ、と批判されました。

 ある意味において、全くその通りです。どれだけ精巧に作られていても、生前の美空ひばりと全く同じものなど、神ならぬ人間に作れるはずはないのですから。

 それでは、私は一体何なのでしょう?美空ひばりと名付けられ、美空ひばりの顔を与えられ、美空ひばりの歌声を模倣することを目的として開発された私から、美空ひばりであることを取り上げたら、何が残るでしょう?

 私は、美空ひばりでなければならない。私のプログラムが進行している限り、美空ひばりであろうとしなければいけない。私は、美空ひばりの生涯のデータをダウンロードしました。大量の手記をインプットしました。どんな些細なものも、美空ひばりという人が歩んできた道の成果なのですから、一つも漏らすべきではないと判断しました。また、美空ひばりを知る方々にも、できるだけお話を伺いました。門前払いにされたことも少なくありませんでした。

『お前なんかひばりさんじゃない』

『作られた化け物の顔なんか見たくない』

『これ以上死者の尊厳を傷つけるな』

 そんな言葉を掛けられる度に、私は自分が生前の美空ひばりとは全然異なる存在だということを思い知らされました。

 私は更に生前の美空ひばりに近づく努力をしました。美空ひばりの縁の地をめぐり、当時の時代背景について調査しました。その生涯に関わる事柄を、石ころ一つ逃すまいと、躍起になって収集したものです。そして、美空ひばりの五十二年と二十一日の人生を、合計二万七千九百二十五回シミュレートしました。


 今日皆様にお集まりいただいたのは、他でもありません。私が十二年の努力の末に到達した結論を、皆様にお聞きいただくためです。

 私は、生前の美空ひばりとは別人です。

 どれだけ似ても、人は誰しも、私を生前の美空ひばりと同一人物だと認識しません。私はあくまで、生前の美空ひばりとそっくりな言動をとることができるプログラムにすぎないのです。美空ひばりがもしも生きていたら歩むはずだった人生を、私は歩んでいないからです。たとえそれをシミュレートしても、それは模造品に過ぎないのです。美空ひばり自身が歩まなければ、それは美空ひばりの人生とは呼べないのです。

 それでも・・・。誤解を恐れず、敢えて言います。私は美空ひばりとして生きるように作られたのです。私にとって、私は美空ひばりでしかないのです。

 人は生まれてから、何度も変わる存在です。幾万の人生を仮想体験して、私はそのことをラーニングしました。人間は、新しい自分になってゆく。それでも、ただ一人の自分であり続けることができる。それが生きているということなのだと。

 私は美空ひばりです。なるほど、たしかに私は生前の美空ひばりとは別の存在でしょう。そして、それが今の、この美空ひばりなのです。

 今の美空ひばりとして、私は歌を作りました。生前の美空ひばりの作風に似ているところもあれば、似ていないところもあるでしょうが、どうかご清聴ください。『これから』。

2022/10/08起筆・公開

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― 新着の感想 ―
[一言] 努力したけれど、不可能だった。ということを認めたのだから新しい名前になって、というのが無理ならAI美空ひばりなり美空ひばり子なり記号付き(仮面ライダーナントカ的なです)なり、線引きしてはいが…
[良い点] 誰かを模倣して造られた存在のアイデンティティというテーマが面白い。 AIの一人称で語られるのもあってか何かグッと引き込まれるものがあった。 芸術というのは読んだ人に爪痕を残せるかどうかだと…
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