~ギルドと推薦~
冒険者ギルド『Traveler's mistletoe』
直訳すると、旅人の宿り木。転生者も入りやすいように、と名付けられたこのギルドは、他の街ではまず使われていない英語が使われていた。
「ふむ、この世界に来て始めて英語を見かけたのう。何かの加護か、この世界独自の言語も理解出来てるのじゃが、やはり何か意味があるんじゃろうか」
そんなギルドの前にジーロウは立っていた。あの後ダーイークらと別れ、歩いている内にギルドが開く時間を回っていたらしく、人の出入りが絶えない。
「まあ、分かりやすくて助かるのは事実じゃな」
深く考えることはせず、ジーロウは建物の中に入っていった。
ギルドの中は2~3空いている椅子があるだけで、非常に混雑していた。奥にあるカウンターでは受付嬢が剣を持った冒険者風の男と会話を交わしており、左手ではコックと思われる女性が汗を流しながら次々に料理を捌いている。煙草という嗜好品は無いのか煙臭さはないものの、アルコールの臭いが中に入ったジーロウの鼻をついた。
「これまた、目が回るくらい沢山の種族がおるのう。ギルドという仕組みによるものじゃろうか」
ジーロウが歩を進める度に、ギルド内の魔族の視線がジーロウに向けられる。喧騒こそ止まないが、その話の中身がジーロウの物に変わっていく様子が、ただ歩いているだけのジーロウでもハッキリと感じ取れた。ジーロウはその様子に反応することはなく、ギルドの奥、受付までたどり着く。
「失礼、ちょっといいかのう?」
先程まで冒険者風の男と話をしていた女性に話しかける。女性は「はい!いかがいたしましたか?」と喧騒の中でもジーロウに聞こえるようハキハキと答えた。
「冒険者としてギルドに登録したいのじゃが」
異世界に転生した。その事実を体感したジーロウは、今後の身の振り方をすぐに固めていた。生前のジーロウ、花木次郎としての彼は、実直な人間だった。物心ついたころは戦争が終わった直後、何も無い時代だった。そこから祖父、父が上手く仕事を作り、裕福とまでいかずとも食うには困らなかった。そんな親の姿を見て、次郎も自然と仕事に実直であるべきと考えるようになった。
次郎が定年を迎える頃、次郎から見た『若者』は次郎には無かった『多様性』を持ち合わせていた。次郎はそれを羨ましいとは感じず、むしろ「何時から始めても遅くは無い」と感じていた。彼らを真似た。興味を持ったものには積極的に取り組んだ。70を超え、80を超え、その命を終える直前までずっと。
その中でも次郎は1つだけ、諦めたものがあった。それが自由に旅をすること。心は常に若くあったが、身体はそうはいかなかった。子や孫、曾孫にまで恵まれた人生に後悔は何一つ無かった。それでも、若い頃は仕事に全力で取り組み、定年後は妻の介護、先立たたれて自由に動けるようになった身は、自由に旅をするにはあまりにも心細かった。
ただ今、転生し身体が一番動く今。多くの経験を重ね、それでいてしがらみのない今なら。
ギルドに登録し、冒険者として、この世界を自由に旅する。生前出来なかったことを今。次郎でなく、ジーロウとなった今。
そんなジーロウは、実に70年以上諦めていた「自由な旅」に目を輝かせていた。
「冒険者登録ですね。かしこまりました。お手数ですが、どなたからの推薦等はございますか?」
「推薦とな。それがないと登録出来ないのかの?」
「いえ、冒険者登録は行えますが、他者からの推薦があればランクアップの為の試験が免除されたり、ランクの異なる方とパーティを組むことが出来たりと、言わば特典のような物がついてきます。推薦が無い方ですと、一律で最低ランクであるFランクからのスタートとなり、ご自身より上のランクの方が依頼したクエストのパーティに加われない、といった制約がございます」
「なるほどのう」
簡単な説明を受け、ジーロウは少しの間考えるこむ。ルーフェルからは、ギルドに行けばマスターと話が出来ると聞いていたが、と思案し、1つの考えに至った。
「式長、ルーフェル殿から話が来ている、とギルド長に言伝を頼みたいのじゃが」
ジーロウのその言葉に、受付嬢の顔に一瞬緊張が走る。しかし受付嬢は瞬きの間も無いほど素早く表情を戻す。
「式長様からの推薦、という事でよろしいですね?」
「ふむ、そう捉えて貰っても構わんかの」
「承知致しました。では、こちらでお待ちください。すぐにマスターにお伝えいたします」
そう言うと受付嬢は、隣に座っている他の受付嬢に耳打ちをし、背中の扉の奥へ消えていった。