~転生の祭壇、ヴェリアレイル~
ヴェリエール郊外にひっそりと佇む祭壇。街の魔族の間では、神との架け橋、という意味を込め、ヴェリアレイルと名付けられている。
その祭壇の前に、2人。仰々しい服装を纏った長身で尖った耳の壮年の男と、僧侶の服装をした角の生えた若い男。角の生えた男の方は暇を持て余しているのか、本を片手に少し砕けた姿勢で立っていた。
「アゴラ、そろそろですよ」
壮年の男が角の生えた男、アゴラに声をかける。アゴラは本を服の中にしまうと、すっと姿勢を正し、祭壇に目を光らせる。
「私が生まれて初めてなんですよね、異世界からの転生者がここに降り立つのは」
「25でしたかな、アゴラの御歳は」
「はい。その時には既に式長様がこの街にいらしていたと聞き及んでいます」
式長と呼ばれた壮年の男は、目尻をそっとなぞる。
「貴方の生誕の儀を執り行ったのも私ですからね。やはり時の流れというのは早いものですね」
「式長様のように早く感じるまで、私はどれほどの年月がかかるでしょうかね」
「おや、アゴラにとって私は年寄りなのでしょうかね」
式長の言葉に、アゴラは少したじろぐ「そ、そんなことは」と何とか言葉にしたアゴラを尻目に、式長は「冗談ですよ」と軽く笑って返した。
「前に転生者がこの祭壇に降り立ったのは、今から40年程前のことです。私がこの街の式長となって初めての仕事が、その転生者を迎え入れることでした。転生者の迎え入れ、という点に於いては、私もアゴラと同じように、慣れているわけではありませんよ」
式長が言い終わる頃に、祭壇に異変が起きる。式長がそれを確認すると、右手を前に掲げ、誰にも聞こえないような声で呟き始めた。式長の右手が光に包まれ、光の中から棒状の物が姿を現した。先端には小さな鈴が2つ付いている。
「アゴラ、転生者が顕現します。御神ヴェリアルのお呼びした者なので問題はないでしょうが、有事への備えを」
「わかりました」
返事すると同時に、先程しまった本を取り出し、緊張感を高める。式長は光の中から取り出した棒状の物、錫杖をしっかりと握りしめ、祭壇に起きている異変を注意深く見守る。
数秒か、それとも十数秒か。意識の全てを祭壇に向ける2人は、その時間がまるで永久のように、それでいて須臾のように感じていた。
さらなる変化が起きる。式長が光から錫杖を取り出したように、祭壇の中央に光が集まり、辺りを照らす。2人の間の緊張が増していく。三神であるヴェリアルの選んだ者。慧眼には疑う余地はないが、万に1つ、否、億に一つの可能性がある。
式長の額に汗が滲み出してきたその時、光が消え、辺りに静寂が流れる。
祭壇の上に立っているのは、見た目は完全に人間そのものの、20歳前後と思しき青年の姿だった。