バクラヴァの味
はー…空が青い。いい天気だなー。
ドサッ
来たか。顔を見なくてもあの人だって分かる。
「なにそれ、なに食べてるニャ?」
「なんでしたっけ…バクラヴァってやつです」
「へー、おいしいかニャ?」
「味わかんないっす」
「あっそ。
全然食べてないニャ。食べ物を粗末にするのは良くないニャ、食べ物に失礼だニャ」
「一口食べましたけど、なんかもういいです…。ナマエさん食べます?あげますよ」
「いやーいらないニャそんなもん」
「…食べ物に失礼ですよ」
「ニャハハハハハww あ、へーいウェイター、バクラヴァひとつちょーだいニャ」
注文すんのかいっ!
「ボクが落ち込んでると思います?」
「んあー?さー落ち込んでないんじゃない?落ち込んでんのかニャ?」
「いや全然、元気ですよ。ただ、逃げてきちゃったのはよくなかったなーって思います。ヴァーミリオンさん怒ってたなー…はぁ〜あ」
「そんなのムシしたらいいニャ」
「ボクが逃げ出してからどうなりました?」
「んー?どうなりましたって、どうもなってないニャ。オマエサンが逃げ出す前、サウルスの代表選手だったやつが、オマエサンが逃げ出した後、代表選手になっただけニャ。つまり世界はなーーんも変わってないニャ」
「壮大ですねぇ、世界って…」
「あそうニャ、あのエクスカリバー?見たけどよく分からんかったニャ、攻撃範囲が伸びて威力を上げた武器攻撃スキルってことかニャ?」
「あーあれはですねぇ、ウィザードのスキルなんですよ。武器攻撃力に魔法攻撃力を上乗せして、ダメージが入る直前に相手に〈メンタルブレイク〉、魔法防御ダウンのデバフがかかる仕掛けです。消費MPもけっこう高くて、ここらへんの魔物なら一撃で倒せます。魔物だったら、ですけど…
必殺技といえば、ナマエさんが教えてくれた"技名を大声で言う"作戦、効果ありましたよ。エクスカリバー!って叫んだら相手の動きがあからさまに悪くなりましたからね。ナマエさんの言う通り、オタクの人はつい反応しちゃうんでしょうね。あのときは必死でしたけど、いま思い出すとかなり笑えます、あははは…」
「あーあれね、そりゃよかったニャ」
必殺技か、あーあ、思い出すと胸が痛い…
「すいません、負けちゃいました…。
ナマエにいろいろ教えてもらって、靱負さんにすごい剣も作ってもらって、必殺技も考えて、いっぱい いっぱいがんばって、がんばったのに…」
声が震える…なにこれ…おかしいな…
「しし…しかも、潔くやられるんじゃなくて、降参するなんて…」
情けない、恥ずかしい…
「…驚きだニャ。ってか怖っ。言っとっけど、そういうことあんまり言わない方がいいと思うニャマジで」
「え…?」
「ああー、どうしよっかニャ。教えてやろうかと思ったけど、オマエサンのそのブサイクな泣き顔見てたらおもろくて、言うのやめようかニャw」
涙が込み上げてきてたけど引っ込んだわ。
「こんなときでもあいかわらず最低ですね!なんなんですか、言いたいことがあるんならはっきり言ってください!」
「まーしょうがない、教えてやるニャ。
オマエサンはさっき、負けちゃいましたって言ったニャ、ブサイクなツラでw
でもそんなこと思ってるのはオマエサンただひとりだニャ。あの場にいたヤツらはみんながみんな、勝ったのはオマエサンの方だって思ってるニャ」
え?どういうこと?だってあの時エクスカリバー放ったらMPがなくなって、あのまま続けてても絶対負けてたよ?だから降参したんだけど…
「まだわかんないのかニャ、バカだニャー。オマエサンの飛行攻撃に相手は手も足も出なかったニャ。苦し紛れに奥の手を出してもオマエサンのエクスカリバーには敵わなかったニャ。LPが残ってるとかそういうことじゃなくて、あの勝負はアイツの完敗だったニャ。もっと胸張ったほうがいいニャ」
あー…
はああああ〜、は、恥ずかしい!さっきとは違う恥ずかしさだ!ひいいいい〜!
「それなのに勝ち逃げするなんて、あの桃太郎の面目はまるつぶれだニャ。そっちが勝ったのにボク負けちゃいました〜とか言いふらしてるとすっごいヤなかんじニャ、なかなかエグいことしてるニャ。無自覚だからさらにタチが悪いニャw」
「いやあああ!ちょっ、どうしましょう!うわあああ〜ボクはなんてことを!いやいやぜんぜんそんなつもりはなくてっ!」
「アハハハハハw きょどりすぎニャww
別にどーもしなくていいニャ、もしアイツがつっかかってきたら、この負け犬が!って言ってやったらいいニャ」
「なんちゅうひどい…そんなこと言うわけないでしょ、そんなんだからみんなから嫌われるんすよ…」
「でもそんなこといって、ほんとはオマエサンもそんなんが好きなんでしょ〜?」
「好きっ!?いや好きとか……ま、まあ、嫌いってほどじゃないですけど…」
「ほらみろやっぱり、ついに認めたニャ。オマエサンも毒づくのが好きなんだニャ。心の底では負け犬って思ってるニャ。ひどーいさいてーww」
「えそっち?そういうことじゃなくて、いやそういうことじゃないってのはそういうことじゃなくて…ああーもういいです!」
「お待たせしました、バクラヴァです」
つづく
「どうですか?おいしいですか?」
「ん、味しねー」
「あははははっ」




