6.ヘタレはすぐに泣きつくって話。
時はその日の放課後。
ところは我らが現代文化研究部。
天気は晴れ。今日もつつがなく晴天だ。
どこぞの運動部が一列に並んで準備運動がわりのランニングをしているのが見える。あれもまた一つの青春の形なのかもしれない。
ちょっとうらやましいと思うけれど、もし二年前、俺があの列に参加していたとすれば、一か月と持たずに部活動をやめて、灰色の帰宅部生活を送ることになっていただろうから、これでよかったのだろう。今は灰色じゃないのかと問われると、なかなか答えに窮するところだけど、それはまた別の話だ。
お外はあんなに晴れやかなのに。
俺は視線を部室内に戻す。そこにはイツメンに加えて、この空間に一番似つかわしくない女・如月春菜がいた。俺が用意した椅子にどっかりと座って足を組み、顎に手を当てて、そっぽを向いて眉間にしわを寄せ、組んだ足は貧乏ゆすり。
不機嫌の擬人化みたいな状態の彼女も彼女だが、それを見ても全く意に介さずに、その辺の椅子に腰かけて文庫本を開き、時折ページをぱらりとめくる機械となってる月乃や、いっそ清々しいくらいにいつも通りにPCを眺めている芥も凄いと思う。
声をかけようと思わないんだろうか。
思わないんだろうな。
我関せず。ゴーイングマイウェイ。たとえ大地震が来たとしても「ここの校舎は耐震がしっかりしてるから平気だ」とか言いつつも文庫本をぺらりぺらりとめくったり、マウスを動かしてクリックしての繰り返し運動をし続けるのだろう。長い付き合いだから慣れたといえば慣れたけど、感想は最初と変わらない。マイペースなやつらだ。
そんな空間に耐えかねた……いや、違うな。ちょっと手すきだったから暇つぶしを探していたんだろう。芥が春菜に話しかける。
「如月さん、だよね」
「…………はい」
「今日はどうしてここに?」
「…………(無言で俺のことを指さす)」
「コスモに連れてこられた……と。用事は何だと思う?」
「知らない。あれに聞いて」
芥はそこまでで会話を打ち切り、
「だ、そうだけど?また、どうして連れてきたのさ?」
と俺に聞いてくる。
正直なところ、なんで連れてきたのか、と問われると難しい。
俺からすれば今目の前で不機嫌オーラを発しまくっている春菜は、この世で一番尊敬する作家・コハルなのだ。その事実が確認できてしまった以上、やっぱりコンタクトを取らないわけにはいかない。
最初はサインを貰おうかとも考えた。だけど、この状態の春菜にそれを求めても断られるのは間違いない。それ以外にも色々聞きたいことがあると言ったら、それならせめて他の人に聞かれない場所にしてほしいということだったので、この部室に連れてきてみたら、このありさまだ。
俺は春菜に、
「なあ、話したいことが」
「ない」
「いや、だから話」
「ない」
「お前、聞かれる心配のない場所ならって」
そこでようやく春菜がこちらに視線を向け、
「あのね。アンタの目は節穴?この部室内にはアンタと私以外にも二人もいる。その状況を「人に聞かれない場所」だなんて、」
そこで月乃が、
「私は別に構わないぞ。どうせ聞いたところで言いふらす相手もいないし、言いふらす気もない。背景だと思ってくれて構わない」
と、述べる。その視線は一切文庫本から動かない。
芥も続くようにして、
「俺も無視してくれて構わないよ。と、いうか、コスモが聞きたいのって、あれでしょ?コハル先生のことでしょ?仮にそれを俺が聞いて、言いふらしたとするよ?誰が信じるのさ。そんな話」
春菜は食い下がるように、
「で、でも、思わぬところから情報が流出することも、」
そこで俺はぽつりと、
「ハッ……個人情報丸出しのツイートをしておいて何をいまさら」
春菜がぐりんと俺に向き直り、
「は?あれはあんたがハメただけでしょ?」
「そうだな。俺がハメた。だけど、おかしいと思わないのか?もしお前の個人情報管理がしっかりしていたのであれば、そもそも俺がお前に行きつくはずがないだろう?」
春菜はひるみ、
「た、確かに。でも、それでもあれは」
「卑怯だ、と言いたいのか?」
「っ……そうよ!あんなの卑怯じゃない。引っ掛けるために罠はってたなんて?」
「じゃあなんだ?お前はストーカー相手にも同じことを言うのか?」
「そ、それは……」
「俺はあくまでお前の正体を暴くためにやった。だから、その後をつけたりする必要性は無い。だけど、ストーカーならどうだ。お前の情報を集めた上で、こそこそと嗅ぎまわり、最悪下着泥棒なんてことも、」
そこで春菜が激高し、
「は、はあ!?下着泥棒って……あんたそんなことしてたの!?」
「してねえよ、落ち着け。もしもの話だ」
「何それ、言い逃れ?」
ううーん……話が通じない。こうなっちゃうと人ってめんどくさいんだよなぁ。こういうのをなだめるのって俺よりも月乃の方が得意なんだよなぁ……ちらり。
「……………」
ちらり。ちらちら。
「……………………はぁ」
ぱたん。文庫本を閉じる小気味いい音と入れ替わるようにして月乃が、
「如月。別にそこの男は何もストーカー行為を働いているわけではないし、働く気もないと思うぞ」
不意をつかれた春菜はびくっとなり、
「な、なによ。あんたいきなり」
月乃はそんな反応を一切無視して淡々と、
「そもそもそこの男にそんな行動力は無いぞ。如月のツイッターアカウントだって、つい最近知ったくらいだ」
「え?ほ、ほんとに?」
次回更新は明日(1/4)の0時です。




