34.世界は意外と狭いのかもしれない。
休日があれば平日がある。あまりにも当たり前の事実だ。
だけど、今日に限ってはその法則が恨めしい。休日の後に休日があってもいいじゃないか。そんなトンデモ自分勝手な殿様理論を掲げたくなるくらい、今日の俺は学校に行きたくなかった。
無論、普段からスキップしながら学校に行くような学校大好き人間じゃないし、登校から下校までで一番好きな時間は放課後だと断言できるくらいなわけだが、それにしたって、今日ほど足が重い日もそうないだろう。
理由なんて分かり切っている。
昨日一日の出来事だ。
より具体的に言うならば、春菜の行動だ。
「なんであんなことを……」
結局、その理由は分からずじまいだった。当たり前だ。いくら一日限定で、しかも場所が頬とはいえ、キスをするなんて、今までの春菜からすると考えにくいことだ。
一応、本人にも理由を聞いてみたのだが、「だからお礼だって」の一点張りで全く収穫が無かった。そのお礼になんであんな行動をチョイスしたかを聞きたかったんだけどな……
まあいい。あれが礼だというのであれば、話はそれで終わりだ。打ち切りだ。ここから始まるラブストーリーなんてものは存在しないはずだ。
だったら、俺のするべき行動は一つ。いつも通りに登校し、いつもどおりに生活し、いつもどおりに部室に赴けばいい。
『だけ僕』の続きに関しては、春菜が話を思い浮かばないとどうしようもないので、「思いついたら連絡する」ということになったし、暫くはまた今まで通りの日常なのだ。平常心。平常心。
そう心に言い聞かせ、クラスの扉を開け、
「あ、いたいた。お~い」
ようとしたところで呼び止められる。誰だろう。俺は声のする方を向き、
「……加賀、さん?」
加奈子だった。かなり遠くからぶんぶんと手を振りながら近づいてきて、
「やっほ。陽山くん、学校来るの遅いね」
「や、まあ、普通じゃないか?」
「そうなの?うーん……男子って言うのはそういう感じなのかなぁ……」
考えこむ加奈子。そんな彼女と俺のやり取りに気が付いた同級生たちが、立ち止まってこちらを見ている。これはまずい。
「あの、何か用でも……?」
加奈子はその一言で再起動し、
「あ、そう!そうなの。あのね、陽山くんにお願いがあるんだけど、ちょっと手伝って貰えないかな?」
そう切り出した。
◇
「ごめんね、陽山くん。わざわざ時間を取って貰っちゃって」
「いや、それは別にいいけど」
時間はお昼休み。
場所は、中庭の一角。
俺たち……というか俺と加奈子は二人、昼食を取っていた。目的はもちろん、加奈子からのお願いについて詳しく聞くためだ。
なんだけど、
「わ、陽山くん、お弁当綺麗……これ、お母さんが作ったの?」
「いや、妹。うち、妹が家事やってるから」
「はぇ~……妹さんすっごいね……写真撮っていい?」
「いいけど……そんなに珍しいもんか?」
加奈子は語気を強めて、
「珍しいよ!陽山くんの妹でしょ?ってことは高校二年生以下だよね?」
「中学三年生だな」
加奈子はさらに驚き、
「中学!その年齢で、こんなお弁当を作って持たせるなんて(パシャリ)凄いことだよ(パシャリ)」
喋るか、撮るか、どっちかにしなよ、と思わなくもない。だけど、まあ、優愛を褒められるのは悪い気がしないので、放っておいた。優愛、良かったな。お前の凄さを理解してくれる人がここにいるぞ。
俺は、加奈子が十分に写真を撮っただろうと思われるタイミングを見計らって、
「んで、お願いってのはなんだ?」
「ああ、そっか。それがあったね」
それがあったね、っていうかそれしかなかったはずなんだけどね?お弁当はサブコンテンツだよ?
加奈子はこほんとわざとらしい咳をする。前もしてた気がする。癖なんだろうか。
「どこから話すのがいいのか分からないけど……単刀直入に行くよ」
「ああ」
「『だけ僕』ってあるじゃない。あれの絵師って知ってる?」
「春乃日向だろ?無名だけど良い絵師を連れてきたよな」
それを聞いた加奈子が小さな声で、
「……誰にでもこうなのかこの男……」
と呻いて、
「それ、私だって言ったら、どうする?」
「はい?」
「や、だから、春乃日向が私、加賀加奈子だったら、どうするって話」
「え、どうするって……」
唐突だった。
あまりにも唐突過ぎた。
だけど、落ち着いて考えれば答えは出ていると言っていい。だって、今の聞き方で「まあそんなことないんだけどね~」なんて答えが返ってくるとは思い難い。その聞き方をするっていうことはつまり、
「……マジ?」
「うん。大マジ」
ワンテンポおいて、
「嘘ぉーーーーーーーー!!!!????」
絶叫した。
次回更新は明日(2/1)の0時です。




