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【告知あり】クズだらけのプロット  作者: 蒼風
Ⅴ.気が付いたこと、気が付けなかったこと
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33.お礼の意味をつかみ損ねる。

 その後の俺らはと言えば、ぐだぐだとアニメショップ内を歩き回り、時折片方が買うものを発見してはレジに行く(大体が春菜(はるな)だったけど)という流れを経て、今は最寄り駅の近くまで帰ってきていた。


「いやぁー収穫収穫」


 なんだろこれ。なんだと思います?


 春菜の両手にはこれでもかと言わんばかりパンパンの紙袋が二つ握られていた。存外に力持ちだ。その中身はと言えば、もちろん、八割がたが漫画やライトノベルなんかだ。一応今日はデートだった気がするんだけどな。まあ、春菜が満足してるんならそれでいいか。


 俺は肩をすくめ、


「満足したなら何よりだ。んで?続きは思いつきそうか?」


 それを聞いた春菜は明後日の方向を見て、


「あ、見てコスモ。流れ星よ」


「誤魔化すな遅筆作家」


 流石に気にはしているのか、春菜は「う」とダメージを食らい、縮こまるようにして、視線を足元に向け、


「うう……考えてはいるのよ……」


 まあ、そうだろうな。


 今日一日見ていて分かったことが一つある。


 春菜は、純粋だ。


 もちろん、毒を吐くこともあるし、割り切った行動をすることもある。人間だからそれくらいは仕方ない。


 いつまでも子供のままじゃいられない。コウノトリが赤ちゃんを運んできたり、赤い服を着た白髭のじいさんが煙突から不法侵入したりしないことにもいずれ気が付くのと一緒だ。


 人は「ズル」を覚える。「サボること」を覚える。それらは決して悪いことじゃない。そうしないと乗り切れない局面だってあるだろう。


 だけど、それ以外の場面で、春菜はずっと純粋だ。


 買っていなかった漫画を見る目はまるで、新しい玩具を与えられた子供のような輝きを持っていた。それが彼女の原動力だ。そして、


「いいんじゃないか?たまには考えなくても」


「え……?」


「息抜きも大事ってことだ。そりゃ中にはずっと書き続けてる仕事と趣味が結合したみたいな作家もいるかもしれない。けどな。世の中がそんな人間ばっかりだと思ったら大きな間違いだ。休みの時間を多くとって、短い時間に集中して書き上げるみたいな作家だって中にはいる。要は結果良い作品が生まれればいいんだよ。違うか?」


 それを聞いた春菜はまだ自信なさげに、


「で、でも二巻は微妙、だったし」


「でも、一巻は良かった」


「そ、それは」


「言っただろ?基本的に最初に提示された話がその作品全体の評価になりやすいってな。そういう意味で如月、お前は成功してるんだよ。だから自分の力を疑う必要なんてない。自信をもってサボればいいんだよ。ま、その結果何も出てこなかったら終わりだけどな」


 春菜はじっとりとした視線を俺に向けて、


「……あんたは私を元気づけたいのか、落ち込ませたいのかどっちなのよ」


 俺は両手を「降参」という感じで挙げて、


「さあ?」


「さあって……」


「俺はお前の味方でも敵でもないよ。強いていうならそうだな……名作や、それを書く作家の味方だよ」


 と言い切る。それを聞いた春菜が鼻で笑い、


「なにそれ。アホくさ」


 アホってなんだよ。アホって言った方がアホなんですー!


 という小学生レベルの反論は胸の内にしまい込んでおく。俺は大人だからね。そんな反論はしないんだよ。


 春菜は続けて、


「でもまあ、ちょっと元気は出たわ。ありがとね」


 と笑う。その笑顔はお世辞抜きに可愛いと思えるものだった。写真に収めておきたいくらいだ。普段の春菜からは想像も出来ないからな。レアカードみたいなもんだ。


「そういえば」


 春菜は思い出したように、


「今日一応、一日限定の恋人ってことになってるのよね?」


「それはまあ、そのはずだけど……」


 そう。そのはずなのだ。結果としてそれっぽいイベントよりも全くそれっぽくないイベントの方が多かったから忘れがちだけど。


 春菜は俺の反応を見て、


「そうだよね……ねえ、コスモ。ちょっとこっち来てよ。お礼、したいから」


「あん?なんだよ急に……」


 この時、俺は無防備だった。だってそうだろう?あの如月春菜だぞ?どうせろくでもないことをしてくるに決まってると思うじゃないか。だから、俺の方も軽くあしらって、馬鹿にして、それに春菜も反論して。そんな展開が待っていると思うじゃないか。なあ、そうだろう?


 それなのに、


「んっ……」


「…………え、な、なっ……!」


「お礼。感謝しなさいよね?」


 春菜はそれだけ言い捨ててだっと、駆け出して、


「んじゃ、またね~!」


 一方的に別れを告げて、俺の元を去っていく。


 他方、俺の時は未だ止まり続けている。既に終わったことを確かめるようにして、自らの頬に手を当てる。そんなことをしても、事実が変わることはないというのに。


「なん、で……」


 理解が追い付かない。頭では、事実としては分かっているのに、感情が追い付かない。どこかに置いてきてしまったのだろうか。


 真意を聞こうにも、犯人は既に逃走してしまった後だ。しかも、これは「一日限定の恋人」という条件があって初めて成立することだ。きっと、明日になってから聞いてもはぐらかされるに違いない。


 俺は再度、頬をさする。そこに答えなんてないはずなのに。俺はひたすら探り続ける。そこにされた、ほんの一秒にも満たないキスの意味を、探し続けていた。

次回更新は明日(1/31)の0時です。

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