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【告知あり】クズだらけのプロット  作者: 蒼風
Ⅴ.気が付いたこと、気が付けなかったこと
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31.絵が良いのは成功の条件だ。

「あ!これの新巻出てたんだ。へぇ~知らなかった。買ってこ。あ、これ、気になってたのよね~」


 良い子の諸君は心に刻み込んでおいてほしい。しおらしいツンデレヒロインなんてものは長続きしないってことを。彼女らは基本我が強い。それは同時に生命力に溢れているといことでもあって、つまるところ、少し傷ついたり迷ったりしても、すぐに立ち直る可能性が高いということだ。


 アニメショップに来てからの春菜(はるな)はまさに水を得た魚といった感じだった。


 あっちの棚を眺めていたかと思えばきょろきょろしだし、反対側の棚にあるお目当ての品を見つけて飛びつく。魚というよりはハイハイを覚えたての赤ん坊と言った方がいいかもしれない。なんでもかんでも興味を示すところとかがまさにそうだ。


 俺は思わず、


「なあ、春菜?」


「ん、なあに?」


 機嫌がいいからなのか、俺に対する返答も実にマイルドだった。そこだけは今後も継続して頂きたい。口を開けば「あ?」とか「なに」とか「きもい」とかそんなことしか言わないよりよっぽどいいと思う。なんならここに住まわせたらいいんじゃないか?一年後には綺麗な如月春菜(はるな)が完成してそうだ。


 と、そんなことよりも、


「お前、普段こういうところ来ないの?」


「ううん?この間も来たけど」


 来たのかよ。てっきり「そうなのよ。実はこういうところってなかなか来る機会がなくって。だからテンション上がっちゃうんだよねー」みたいな答えが返ってくるんじゃないかと思ってたのに。いや、まあ、その予想と、「普段から普通に来てる」っていう回答のオッズは大体同じくらいだったけどね。


 が、そうなると、


「それにしちゃテンション高いな……」


 指摘された春菜は「う」となってちょっと照れるようにして、


「い、いいでしょ?なんかテンション上がっちゃうのよ」


「なんかって……」


「コスモは?コスモは上がらない?新巻とか一杯重ねてレジに持って行って、会計するのとかワクワクしない?」


「あぁー……」


 分からなくはないな、と思った。


 昨今は物に対するこだわりが無い読者も多いと聞く。電子書籍や、定額制読み放題のサイトなんかの勃興によって、「紙の媒体で本を読む」という実感のない若者が増えているという。いや、俺も若者なんだけどね。


 だけど、俺は割と「紙の本」派だ。電子書籍の気軽さを否定するつもりはないし、俺だって利用はする。するけど、やっぱり現物を手に入れるほうが嬉しい。オタクというのはどうしてもコレクター気質なのかもしれない。いつだって本棚にずらりと並ぶ蔵書を眺めていたいものなのだ。


 俺の賛同を得られたと感じた春菜は自信たっぷりに、


「ね?だからしょうがないのよ。こういうところに来てテンションが上がっちゃうのは。この間もね、試し読みの漫画が面白かったからつい全巻買っちゃって。重かったけど、あれはあれでいい思い出よね」


 うん。


 やっぱり春菜は俺とは違う生き物だ。


 っていうか全巻って一体何冊なんですか……自分で持って帰ったってことだからせいぜい一桁だとは思うけど、それにしたってまあまあな買い物だ。金持ちか。まあ、金持ちだろうな。


 こいつ、大賞を受賞して書籍化したはずだから、その賞金だけでも百万円はあるはずだ。それがどのような経緯を経て懐に入ったとしても、たかだか十冊の漫画を大人買いすることくらいは訳ないはずだ。ううむ……ちょっとうらやましい。


「んで、何を買うんだ?」


「えっとね……」 


 春菜は、いつのまにか取ってきていた買い物かごの中身を漁って、俺に見せてくる。


「これと……これと……後、これの買ってなかった分全部と……」


「多いなぁ……」


 まあ随分な買い物だった。こいつ、もしかしなくてもブルジョアか?


「ん」


 ふと気が付く。


 そんな中にある一冊の本に、


「これって」


 指をさす。春菜は「ああ」と気が付き、


「分かった?これ、か……春野(はるの)日向(ひなた)先生が絵を描いてる漫画なの」


「あの人漫画も描くんだな」


 春乃日向というのは『だけ僕』の挿絵を描いている絵師だ。『だけ僕』成功の要因はいくつかあるだろうが、その一つに入ってくるのがこの挿絵ではないかと俺は思っている。


 何せ読み手というのはまず「表紙」で作品を判断する。漫画ならともかく、ライトノベルなんかじゃ実際目にするほとんどはその絵ではなく、作者の文章であるはずなのに、そんなことはすっかり忘れ切って「絵師買い」をする。


 だから、昨今では、良いイラストがつくことを「絵師ガチャに勝った」なんて表現をされるのだが、『だけ僕』はその視点からすると、間違いなく勝者といってよかった。


 春乃日向。初めてみる名前だった。だけど、その絵は昨今の流行に逆らわず、作品の色にもマッチし、それでいてどこか「魅力」を感じる絵だった。


 これだけの絵を描く人なら、さぞかし素晴らしい実績をお持ちなのだろうと思って調べてみたら、作者のツイッターだけが引っ掛かった。


 そのプロフィールを見る限り、どうやら『だけ僕』が初仕事で、それによってデビューし、ツイッターもそのタイミングで始めたようだった。


 更新は少なく、ほとんどが絵を上げるか、『だけ僕』の情報をリツイートするだけなので、精神衛生にもよく、俺がフォローしている数少ないクリエイターでもある。

次回更新は明日(1/29)の0時です。

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