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【告知あり】クズだらけのプロット  作者: 蒼風
Ⅴ.気が付いたこと、気が付けなかったこと
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29.要するに同族嫌悪ってやつなんだよ。

 加奈子(かなこ)は、呆れる春菜(はるな)に「ごめんごめん」と余り気持ちの入っていない謝罪を入れたのち、


「話を戻すよ。私ね、春菜ってちょっと犬っぽいところあると思うんだよね~」


「は、はぁ」


 だよね~と言われても困る。正直、全くぴんと来ない。俺は隣にいる彼女(笑)と犬の共通点を絞り出し、


「ああ、よく吠えるところとか?」 


「ちょっと表出ろお前」


 隣から何か聞こえたが俺は軽く無視をした。そういうとこだ、そういうところ。実際に行動に移さないところまで含めてリードで繋がれた犬そっくりだろう。


 そんな俺の答えに加奈子は両手の人差し指で小さくバツを作り、


「うーん、不正解!」


「まじか。それ以外思いつかないぞ」


 隣から「この童貞クソ陰キャ……後で覚えてろよ……」と聞こえたがこれも華麗に聞き流した。後、いくら無視してても聞こえて無いわけじゃないから、言葉の暴力はやめようね・お兄さん、ちょっと傷ついちゃうよ?


 そんなやりとりを見て「あはは……」と笑った加奈子は、わざとらしい咳払いとともに、


「おほん……正解はね。人に言われたことをきちんと守る、忠実なところ、でした」


 人差し指をぴんと立ててドヤ顔。俺はその人差し指をじっと見つめながら、


「ちゅう……じ……つ?」


 信じられない。


 あの春菜が人の言葉をきちんと守る忠実な人間だと?そんな誠実さがあるなら、俺だってこんなには嫌ってないぞ。そんなわけなかろう。


 加奈子は説明を続ける。


「いや、実際忠実なんだよ。忠犬って感じで。だって、春菜、陽山(ひやま)くんに言われた言葉を未だに忠実に、」


 そこで春菜が、


「わー!ちょっと何言ってるの!それは駄目だって!」


 止めにかかる。だけど、ワンテンポ遅かった。犬だけに。なんちゃって。


「俺の言葉って……もしかして、中学の時のアレか?」


「そうみたいよ~」


「うう……」


 加奈子が満足げに肯定し、春菜は呻いている。その視線は実に恨めしそうだ。


 だけど、


「その話だったらさっき聞いたぞ?実に律儀だとは思うが、それが忠実だからかと言われると、疑問があると思うが」


 そう。


 確かに春菜は、俺との言い争いで言われた言葉をよく覚えていたし、実行していた。それは間違いない。 


 が、それだけだ。実際、そこに忠実という説明をつけようと思えば付けられるだろう。情報だけを羅列すれば、そう取ることもできるし、実際に加奈子はそう受け取ったのかもしれない。


 では、俺から見たらどうか。


 もちろん、ミョーに素直というのもあるだろう。だけど一番は、


「頑固って言った方がいいんじゃないのか?」


「頑固、かぁ」


 加奈子は半分くらい納得したような反応をする。


 俺は続けて、


「そりゃ、俺の言ったことを綺麗に覚えていた上に、自分で宣言したことも忠実に守って、実際にプロとしてデビューして見せたんだ。それ自体は純粋に凄いと思う。思うけど、それは単純に俺に負けるのが嫌だっただけだろ。俺の言ったことの通りになりたくない。だから、実際にプロになって、言い負かしたい。そんなとこだろ」


 言い切る。


 それをずっと横で聞いていた春菜はぽつりと、


「なんでこんな奴に……」


 と呟く。


「あん?なんか言ったか?」


「なんでもない!」


 ふむ。


 なんでこんな奴に……なんだろう。負けてる……いや、違うな。春菜は俺に勝っている。


 だって、俺の「だったらお前も書けよ」という言葉を忠実になぞり、実際に結果まで出したのだ。対する俺はどうだ。未だにプロットすら出来上がらない、サグラダ・ファミリアを作り上げるような進捗の遅さだ。ちなみに日本のサグラダ・ファミリアこと横浜駅はネタ元よりも先に工事が完成するかもしれないなんて話もあるそうだ。だからなんだって話。


 一連のやりとりを見ていた加奈子がため息と共に、


「はぁ……似た者同士ってのも考え物だなぁ」


 俺らは二人揃って、


「似た者同士ってどういうことだよ」


「似た者同士ってどういうことよ」


 ツッコミを入れる。その反応を見た加奈子は苦笑して、


「例えばそういうところとかね~」


 俺は思わず春菜の方を見る。すると、


「あ、」


「あ」


 視線が合う。そして、


「ふんっ」


 春菜の方から逸らしてくる。なんなんだ、全く。


 加奈子が何かをまとめるように、


「ま、時間がかかるのは仕方ないにしても……あんまりもたもたはしない方がいいと思うよー」


「う」


 春菜が、反応する。その声は実に気まずそうだ。


 もたもたする、というのはどういうことか。分からない。きっと、詮索しても答えてくれないだろう。春菜はもちろん、加奈子に聞いても正解は分からない。そんな気がする。


 沈黙。なんとも言えない間の悪さに耐えかねて、俺は手元のコップに口をつける。喉を潤してくれたのは頼んだはずのメロンソーダではなく、すっかり溶け切った氷が液体となった、冷たい水、だった。

次回更新は明日(1/27)の0時です。

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