27.オタクに優しいギャルは幻想なのか。
作家としてのコハル先生のキャリアはまだそんなに長くはない。だけど、それなりの知名度もあるし、昨今のライトノベルとしては順調すぎる滑り出しだったと聞いている。
俺からすればもっと知られていいし、もっと順風満帆であるべきだと思うけど、そのあたり、無名作家の難しいところだろう。
レーベルもそんなに大きくないしなぁ……ああいうのは親会社の力が結構大きいから。その割には良い絵師を連れてきたなって気がするけど。
思考が脱線した。元に戻さねば。
「悪くはない。悪くはないが、それだとPVは稼ぎにくいだろうな」
「なんでよ」
「なんでって……いいか?作家の名前ってのは重要だぞ?一度売れた作品を書いてしまえば、後は「○○先生の新作!」とか言って大々的に宣伝してもらえるし、次の仕事も貰えるんだ。それはネット上だってそうだ。コハル名義でやってればまだファンが見てくれる可能性はある。だけど、そうじゃないと本当にゼロからのスタートだ。そうなってくるとまず目に触れるところから始めないといけない」
「で、でも、私は一応プロで」
「(笑)」
「無言で笑うのやめてくれる!?」
いや、だって笑うでしょ。いくらプロだったとしても、相手からしてみればその辺の素人と一緒だ。全ては同じスタートラインだ。その状態で、読んでもらうためには、ある程度の人気ジャンルを書くか、よほど目を引く作品にするか、あらかじめファンを集めておくかの三択だろう。
一番手っ取り早いのは三つ目だろうな。こいつならそういうのは得意だろう。スクールカーストで上位に来るなら、ナチュラルボーン人気者だから、そんなに難しくはないはずだ。だけど、恐らくは、
「だってお前、そのアカウント、誰が知ってるんだ?」
「えっと……か、加賀さん」
「後は」
「…………」
「(失笑)」
「だから無言で笑うのやめてって!」
心なしかさっきよりも叫びが悲痛な気がする。きっと自分でも自覚してるんだろう。スタートラインが間違っているって。
最初からついているファンもいない。リア友にもその存在を知らしめていない。そのアカウントでいくら投稿したって、返ってくる反応は存外リアルなものだって。
それではなぜ、春菜はそんな無謀な戦いを挑んだのか。
それは簡単だ。己は数字を稼いだ人間だという自負があるのだ。
だからこそ、無名の状態からでも成功できる。数が稼げる。そう思い込んでいたのだ。
だけど、実際は違う。実力が優れていようと、磨けば輝くダイヤの原石だろうと、発見されなければその辺に転がっている石ころと同じだ。無価値だ。
ダイヤモンドはあのカッティングされ、宝石になった状態で初めて価値が出るのだという話を聞いたことがある。原石のままでは可能性のままなのだ。可能性は可能性だ。事実ではありえない。
「……しかし、意外だな」
「なにがよ」
「加賀さんには教えてるんだな?てっきり身近な人間は誰も知らないと思ってたぞ」
「ああ、それは……」
春菜が語り出そうとしたその瞬間。
「あれ?春菜?」
声がする。俺と春菜。振り向いたのはほぼ同時で、
「か、加奈子……」
先に反応を見せたのは春菜だった。だけど、俺はいまいちピンとこない。どっかで見たような気がするんだけどな……
加奈子と呼ばれた女子はすぐに俺たちの方に歩み寄ってきて、
「どしたの?こんなとこで。っていうか、わ、陽山くんじゃん。どもども」
と言って俺に手を差し出してきた。挨拶しようってことだろうか。俺がその手を取ると、
「む」
「久しぶりだね~。高校一年の時以来?」
よく分からない挨拶をされる。その前に春菜が何か反応した気がするけど、無視して、
「えっと……すまん。誰だっけ?」
加奈子は「えぇー!!」と驚き、
「もしかして、陽山くん……私のこと忘れちゃったの……?」
よよよ……と泣きまねをする。なんともわざとらしい。
それでも誰だか思い出せない俺に対して春菜が、
「あんた、同じ部活動のメンバーの顔も覚えてないの?」
「ああ」
そうか。
漸く思い出した。加賀だ。加賀加奈子だ。
何を隠そう、彼女は我らが現代文化研究部の部員なのだ。もっとも、実際の活動には参加しておらず、部室に顔を見せたのも部活動設立直後の一回だけなので、俺からしてみれば部員感は全くない。幽霊部員という言葉があるが、正直幽霊の方がもうちょっと存在感があると思う。
彼女は春菜と同じトップカーストの一人。だけど彼女とは違って性格は基本的におっとりしている。
どんな相手でも分け隔てなく接し、いかにも時間のかかってそうな編み込みや、ピアスなどの見た目のギャップから、一部では「オタクに優しいギャル」と言われているらしい。基本的にオタクは自分に優しいギャルを求めがちである。
それはさておき、加賀さんの話。彼女はいつも春菜と行動している「連れ」の一人で、遠目に見ている取り巻きに見えなくもない。実際、俺は先ほどまでずっと加賀さんのことを、春菜の取り巻きとして認識していたのだが、どうやら違うみたいだ。
ただ、そうなると、
「あの、加賀さん?」
「加奈子でいいよ~」
「……じゃあ、加奈子」
「むっ」
何かうめき声が聞こえた気がするけど無視だ、無視。
「……もしかして、なんだけど」
「うん」
「アニメとか見たり、する?」
「ちょっ……!」
春菜が唖然とする。だけど、当の加奈子はそんな反応など意に介さず、自らの指でちいさいわっかをつくって、
「ぴんぽーん。よく分かったね」
「いや、そりゃ、まあ……」
ここまでくると考えるまでもない。
春菜と加奈子。二人はオタ友達なのだ。オタク諸君。喜んでいいぞ。オタクに優しいどころか、オタクそのものだったんだから。
次回更新は明日(1/25)の0時です。




