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【告知あり】クズだらけのプロット  作者: 蒼風
Ⅳ.恋人体験β
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26.「正しさ」に寄りそう安心感。

「しかし、春菜(はるな)も漸く世の理に気が付いたか」


 俺はそう言いながら腕を組んで「うんうん」と頷く。ところが、


「べ、別に私はあんたみたいに片っ端から否定しているわけじゃないわよ」


「ほう?」


「今だってプロが作る作品は尊敬してるし、凄いと思ってる。それが一番だし、例えば私の作品がそういう人に酷評されたなら「そうなのかな」って思うし、でも」


「でも?」


「でも……」


 春菜はそこで言葉につまる。


 さて、何を言おうとしていたのだろうか。


 昔、春菜は言っていた。プロの人間が作ったものは尊敬に値する。それに対して斜に構えて批判なんてとんでもない、と。


 今なら分かる。春菜は別にプロを認め、それを評価し、尊敬していたのではない。

 春菜は基本「誰かの評価したもの」を好む。ツイッターの投稿内容を見ればそれは明らかだ。


 タピオカが流行ればタピオカ専門店に行列してまで買い求め、マリトッツォが流行れば、一体それがなんなのかも知らなくとも取り合えず専門店に走る。きっと彼女は「皆がすごいと言っているもの」が好きなのだ。


 まあ、人間は基本的に好きか。皆間違ったことはしたくないもんな。多数派に属していれば、取り合えず安心できる。


 そして、その最たる例が数字──つまりは売上だ。


 もちろん、それだけでは作品の質は決まらない。今は名作と謳われる作品も、不人気時代を潜り抜け、試行錯誤して、花開いたという場合は多い。


 それこそ内容は悪くないけれど地味だった作品が、一流のアニメーション会社のアニメで爆発的に人気が出るなんてこともある。いつだって、数字って言うのは適当で、そして気まぐれなものだ。


 その最右翼なのが、恐らくネット小説だろう。


 春菜はそれがどうしても面白いと思えないのだ。数字は出ているのに。その部分がすり合わせ出来ないに違いない。内容を見て、面白いと思えない。だけど、実際には数字が出ている。その矛盾が解消できなくなったのだ。


 だけどな、春菜。それは良いことだ。数字だとか、流行りだとか、そんなもののケツを追っかけたって、得られるのは時間が無駄に浪費されたという事実だけだ。それに気が付けたのはむしろ、喜ばしいことなんだぞ。


 っと……なんだっけ?春菜が言おうとしていたことか。ううむなんだろう……書籍化された「俺TUEEEもの」でも読んだか?でも、春菜はPVって言ってたしな……


「あ」


「な、なによ」


 思いついた。


 思いついてしまった。


 もしかして、


「春菜。もしかしてお前、ネット小説でも投稿しているんじゃないのか」


 当の春菜はこれでもかと言わんばかりに動揺し、


「な、な、な、な、そ、そんなわけないじゃない。そんな、私が。投稿とか、意味わかんない。きも。馬鹿じゃないの?まじキモイ」


 なるほど。春菜の「キモイ」と「馬鹿じゃないの?」は理論的に反論できないときに使われるわけだ。


 まあそうだろうな。「オタクキモイ」とかそういうフレーズは論理的な反論は出来ないんだけど、なんとなく認められないときに使常套句だからな。


 だけどな、春菜。それが通用するのは一緒に「きっもーい!」って言ってくれるお仲間がいる時なんだよ。一対一じゃ何の意味もない。せいぜい俺がちょっと傷つくくらいだ。きもいとか言わないの。


 と、そんな理屈はさておいて、


「違うのか?俺はてっきり、スランプに入っちゃったから、新作を作って、ネット上で公開して、認めてもらって、自己承認欲求を高めようと思って書き出したのに、思ってたよりも伸びなくて、涙目になってランキング上位の作品を読んでみたら、凄い長いタイトルで、内容も大して面白くないのに。滅茶苦茶PV数が伸びている上に、好意的な感想と、レビューが沢山ついていて、悔しくなってスマートフォンを思わず投げ捨て」


「ストップ!ストップ!お願いだからやめて」


 春菜から待ったがかかる。その顔は実に分かりやすく紅潮していた。


「なんで……私無意識のうちに喋ってた?え、そんなことないよね……嘘……」


 ぶつぶつと呟く春菜。まあ気持ちは分からんでもない。だけど、理屈は極めて単純だ。


 もし書籍化した作品の話を持ち出すのならPV数やファンの話をする必要性はない。


 もちろん、昨今は「ネットで○○PV」みたいな謳い文句を帯につけて、必死で宣伝しているのも見るので、そういうところからPV数を稼いだ作品だという事実を知っていてもおかしくはない。


 おかしくはないが、そうなるとファンを稼いでいるとか、書籍化も決定しているみたいな話が出てくるのはおかしい。


 となれば答えは一つだ。彼女はネット小説を、直接見たのだ。そして、感じたのだ。その内容が面白くないと。そこで自分の主義との対立が始まったのだろう。捨てればいいのにそんな主義、と思わなくもないけど、きっと難しいんだろうな。


 俺はため息一つに、


「春菜」


「……なによ」


「一応聞いておくが、お前、名義はコハル先生じゃないんだよな?」


「……そうよ、悪い?」


 図星だ。まあそうだろうなと思う。

次回更新は明日(1/24)の0時です。

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