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【告知あり】クズだらけのプロット  作者: 蒼風
Ⅳ.恋人体験β
27/45

24.映画館とポップコーン、最強のコンビ。

 俺は仕切り直すようにして、


「ま、そんなわけだから、俺はまだ『だけ僕』を見捨ててないし、面白くなると思ってるぞ。二巻だって迷走はしているが、根本的に話が破綻したわけじゃない。三巻以降で十分挽回できる。それに、見返すという目標を掲げて、実際にあれを作ったんだ。凄いことじゃないか。恥じる必要なんて一つもない」


 と、言い切る。それを聞いた春菜(はるな)はスマートフォンを胸元に抱えるようにしてうつむき、


「あ、ありがと」


 うーん……しおらしい。普段からこうだと良いんだけど。


「……なんか言った?」


「言ってない」


 怖いよ。この人、人の考えてること読めるんじゃないの?


 俺は逃げるようにして話題を転換して、


「取り合えず現状の問題だ。映画館の名前は何ていうんだ?」


「えっと……」


 春菜は手元のスマートフォンを操作して、


「SEHOシネマズ新宿ってとこ」


「ああ」


 俺は調べようとして取り出したスマートフォンをポケットにしまう。それなら調べるまでもない。確か歌舞伎町の辺りだったはずだ。


 あの辺一体も一時期から比べると随分と様変わりしたような気がする。一つ裏路地に入ると“ぽい店”が並んでいるけれど、大通り沿いには普通にコンビニやら、チェーンのラーメン店なんかもある。


 海外なんかでは道路一つ挟んで向こうとこっちでは治安が雲泥の差だったりするんだけど、そういう雰囲気がちょっとある。大通りっていうだけでやっぱり安心感が強い。


 SEHOシネマズ新宿はその大通りの行き当たりにある。かなり巨大な建物で、4DXにも力を入れていたような気がする。もっとも、今日見ようとしている映画はそんなもの欠片も関係ないアニメ映画なんだけどね。


「それならあっちだな。行くぞ」


「え、あ、うん」


 俺はやや早足で歩く。


 春菜が道を間違えたこともあって、俺たちはいま、完全に逆側にいる。一応時間的には余裕をもって出発をしたから、まだ時間はあるもの、やっぱり気になりはする。


 映画館にギリギリ入るというのは個人的主義に反する。ああいうものはその場の空気を含めての値段なのだ。なら、限界まで楽しまないと損というものだ。


 歩きながら俺は春菜に、


「なあ」


「なに?」


「なんでSEHOなんだ?」


「なんでって、なんで?」


「いや、だって、あそこ4DXが売りだろ?なんでそこにしたのかなって思って」

「ああ」


 春菜は納得し、


「一回入ってみたかったから」


 と、何とも分かりやすい理由を述べた。



               ◇



 映画館にくればポップコーンと相場は決まっている。あとコーラ。それが鉄板だ。


 そんな持論を胸に秘めつつ、俺は売店に向かおうとして、


「ちょっと待って」


 春菜にとめられた。なんだよ、止めるなよ。ポップコーンが俺を待ってるんだよ。


「なんだよ」


「いや、何を買うつもりなのか聞いておこうと思って」


「なんだそんなことか……そりゃお前、ポップコーンさ」


「何味?」


「塩」


 それを聞いた春菜が死ぬほど大きなため息をつき、


「止めて良かった……」


「あん?もしかして、お前キャラメルポップコーン派?」


 ポップコーンと一口に言っても味には種類がある。こと映画館の売店で売られているんのは大抵塩味とキャラメル味の二つだ。他の、例えば野球場とかでもこの二つが幅を利かせている場合がほとんどなわけなのだが、その二つしかない味で、俺と春菜の好みは完全に食い違ったようだった。


 とはいえ、


「なら、お前はキャラメルを買えばいい。俺は塩を買う。それで解決だ」


 と結論付け、売店に、


「だから、待てっての」


 止められた。今度は服の裾を掴まれた。伸びるからやめて欲しい。


「なんだよ。話は決着ついただろ」


「そうじゃなくて!だから、えっと……」


 なんだ。随分と言い淀むじゃないか。二度まで止めておいて。これ以上抑え切れると思うなよ。俺は今ポップコーンモンスターだ。


「なんだよ。はっきり言えって」


「だから!」


 春菜は啖呵を切るように、


「私一人だと、多いから、その、一つを分けたくて、それで……」


 最初の勢いは良かったけど、結局最終的には何を言っているのか聞こえなくなっていた。


 でも言いたいことは分かった。要は「一つだと多いから半分こしたい。だけど、塩はやだ」と。


 なんともまあ傲慢なこと。流石カースト上位。自分の意見は通ると素で思っていらっしゃる。正直言って切り捨てたい。ニッコリ笑顔で「そう?じゃあ、余ったのは持って帰ったらいいな」と言って、塩味を買って、ボリボリむさぼり食いたい。これが「一日限定の恋人」じゃなければ、だが。


「……分かったよ。キャラメルにすればいいんだろ?」


「だから、私ひとりじゃ…………え?」


 いや、「え?」って……あなたが主張したんですよ?一歩も歩かないうちに忘れるとか鶏以下だぞ。


 俺はため息一つついて、


「だから、キャラメルで良いって言ってるんだよ。半分分ければいいんだろ?」


「え、でも、さっき塩派だって」


「そうだ。だけど、今日は一日限定の恋人なんだろ?それなら自分の主義くらいは折るさ。恋人相手だもんな」


「そ、そ、そ、そうよね。恋人相手だもんね」


 こいつ、もしかしなくても忘れてたな。君の創作のためなんですよ?忘れないでもらいたい。


「そ、恋人相手だからな。ほら、行くぞ」


「あ、ちょっと待ってよ!」


 三度目の正直だ。俺は春菜を伴って売店に行き、


「…………ハーフ&ハーフ……」


 実に合理的な解決方法を知った。早く言え。

次回更新は明日(1/22)の0時です。

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