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【告知あり】クズだらけのプロット  作者: 蒼風
Ⅳ.恋人体験β
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20.恋人体験Version1.0

「なにも、本当に付き合えというわけじゃない」


 月乃(つきの)の提案はこうだった。


 恋人と付き合うという経験が無いのならば作ればいい。そして、その経験は恋人同士でなくてもいいし、好きあっている相手でなくともいいというのだ。要するに恋人ごっこだ。


 具体的な方法は簡単だ。今週末、日曜日。俺と春菜でデートをするのだ。その一日は恋人らしい行動をすることを厳守とする。そうすれば、少しは恋人の恋愛のなんたるかが分かるのではないかということだった。


 言い分は分からないでもない。


 だけど、


「その相手、俺である必要性あるか?」


 そう。


 月乃の理屈をそのまま引用するならば、相手が俺である必要性が皆無だ。芥でもいいし、それ以外の誰かでもいいはず。だけど、月乃がきっぱりと、


「いいや、コスモがいいはずだ。恋愛感情がなくてもいいとは言ったが、最低限の会話は出来ないとまずい。それも出来ない初対面の相手と恋人ごっこなんてのは流石に無理だ。春菜にそういう相手がいれば話は別だが、いないだろう?」


 春菜(はるな)は顔を覆って、


「…………はい」


 弱えぇ!もうちょっと否定するとか誤魔化すとかしなさいよ!この場を乗り切るためでもいいからさぁ!


 俺は抵抗を続ける。


「いや、でも、それで解決するのか?だって、池上(いけがみ)雪谷(ゆきがや)ってそうとうお互いのこと好きだぞ?その状況を書くためだったら、俺じゃ不適格」


「でも最初は犬猿の仲だぞ」


「う」


 そう。


 池上と雪谷は最初、相当仲が悪いのだ。


 それこそ、俺と春菜くらい。


 月乃は少し楽しそうに、


「だからこそ適任じゃないか。春菜も、雪谷の気持ちになったらいいんだ。そうすれば、話の出来も良くなるかもしれないぞ?」


「出来が……」


 春菜がぽつりとつぶやく。やがて、


「やる」


「…………は?」


「やるって言ってんの!聞こえなかった!?」


 やけくそだ。その視線は斜め下の床を見ているし、拳は固く握られているし、頬は完全に紅潮しきっている。だけど、その、出した答えは、


「恋人ごっこ!やればいいんでしょ!やってやろうじゃない!それでなにかが変わるなら上等よ!」


 と啖呵を切る。その言葉は実に勇ましい。だけど、


「春菜、せめて俺の方を向いていってくれ…………」


 結局、俺と春菜は、最後まで顔を合せることなく、日曜日の約束を取り付けたのだった。


 …………ほんとにうまくいくのか?こんなんで。



               ◇



 デート、と言っても、行くところなんて思いつくわけがなかった。


 連絡先を交換した俺たちは、家に帰ってからそのプランを練った。もしかしたらこういうものは、俺がエスコートしたりするものなのかもしれないけれど、残念なことに俺にもその経験はない。あるとすれば、小学生のころ、同級生の女の子と一緒に学校から帰ったとか、そのくらいだ。なんの役にも立ちはしない。


 行先は映画館に決まった。何とも安直だし、ベタだとはおもうけど、ベタなくらいがちょうどいい。張り切ってカップル御用達のスポットに足を踏み入れようものなら、最悪帰ってこられない。高校生同士。しかもお互い恋人なんていたことのないんだから、これくらいでいいはずだ。


 ちなみに見に行くタイトルは、俺と春菜が気になっていた、アニメ映画だ。このチョイスもどうかと思うんだけど、「そういえばあれってもう公開されてたよな?」「あ、確かに。あれにしない?」みたいに盛り上がったんだからそれでよしとしたい。思い返せば昨日連絡を取ってる間で一番盛り上がったのあのタイミングな気がするんだよな……


 と、まあ、ここまでが昨日の話。


 俺は今、最寄り駅の駅前広場に立ち尽くしている。


 当たり前といえば当たり前かもしれないが、二人の最寄り駅は一緒なので、その駅前で集合しようという話になった。


 本当は、どちらかがどちらかの家に迎えに行ってもよかったのかもしれないけど、仮に俺が春菜の家に行くなんて言ったら全力で拒否されそうだし、俺の家に春菜が来ようものなら、妹が大喜びして、離さなくなりそうだから、これで良かったんだと思う。


 あたりを見渡す。この駅前も最近再開発の末に随分と綺麗になった。駅前のゲームセンターはスーパーになり、なんどか撤退と再出店を繰り返してるファーストフード店は、昼前ということもあって、閑散としている。


 少し遠くにはこじゃれたカフェなんかが入っているプチ複合施設があるが、使ったことは無い。そもそも最寄り駅でカフェに入るくらいなら、スーパーで飲み物買って、家帰ってゆっくり飲むだろって話だ。


 そんななんとも他愛ないことを考えていると、


「ごめん。お待たせ」


 声が聞こえる。振り向くと、


「いや、全然……俺……も……」


 そこにはゆるふわコーデに身を包んだ、可愛い女の子の姿があった。その姿は、正体を知らなければ、ちょっとどきっとしてしまうくらいの美しさと、それでいて接しやすい可愛さを備えていた。だけど、その中身はといえば、


「……春菜、だよな?」


 それを聞いた春菜はむっと眉間にしわをよせ、


「は?当たり前でしょ?頭大丈夫?」


 うん。よかった。いつもの春菜だ。だけど、その服装で「頭大丈夫?」とか言わないでほしいな。夢が壊れちゃうから。世の可愛い女の子のこと信じられなくなっちゃうからやめてほしい。ホントに。

次回更新は明日(1/18)の0時です。

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