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【告知あり】クズだらけのプロット  作者: 蒼風
Ⅳ.恋人体験β
22/45

19.経験がないなら、すればいいんだよ。

 俺は軽いショックから漸く立ち直り、


「いいか?あの状態からハーレムラブコメに持っていくのは無理だ。もしそうしたいなら、一回別れるまでの過程をかけ」


 それを聞いた春菜(はるな)はなぜか渋るようにして、


「で、でも、そんな、分かれるとか。そういう話って受けが悪いからあんまりやりたくないなーって」


「…………ちっ」


「舌打ちやめてくれる!?」


 無理です。


 舌打ちの一つや二つくらいさせてくれないと無理です。


 俺はもうひとつため息をついた後に、


「はぁ…………あのな。そういうのはちゃんと受ける話にする選択肢を持ってるやつが言うことなんだよ。受ける話にしたいってのは分かるけど、結果として出てきたのがあの二巻じゃなんの意味もないんだよ。おとなしく付き合わせとけって」


 それでも春菜は抵抗を示し、


「で、でも、ほら、付き合ったら付き合ったで、単純にアフターストーリー感がでちゃうというか。そういうのより、こう、メインシナリオ的な方がいいかなぁって思って」


 何故だ。


 何故春菜はここまで恋人同士の描写を描こうとしない。


 確かに、恋愛を描いた作品で、主人公が一人のキャラクターを付き合うことを選択した時点で、物語の尺は残りわずかになりやすい。


 だけど、方法がないわけでもない。主人公が一度誰かと付き合ったからといって、分かれたり、もう一度よりを戻してはいけないなんて法はない。さっき俺が提示したように、その過程をきちんと描けば、話として成立するだろう。


 実際、最終的に付き合うヒロイン以外と彼女になる展開を持っている話も存在する。こと今回の場合はメインのヒロインである雪谷との恋愛になるが、それだって一筋縄に行く必要はない。


 とかくラブコメの主人公は初恋の相手と付き合って、そのまま結婚まで行きがちだが、現実そうとは限らない。初恋なんて案外実らないもんだ。その現実を、ちょっと引っ張ってくるだけで、いくらでも話は作れるはずだ。


 俺がそんな提案をしようとしたその瞬間、


「もしかしてなんだが、春菜は彼氏がいたことが無いんじゃないか?」


 月乃(つきの)だった。他全員(当然約一名は除く)の視線が、月乃の方に向く。


 最初に反応をしたのは春菜だった、


「な、なにを言ってるの?そ、そ、そんなことあるわけないじゃない。はは、はははは」


 嘘が、下手くそだった。


 俺はそんな春菜ではなく、月乃に、


「どうしてそう思ったんだ?」


「んー…………正直最初は勘だな」


 春菜が「勘ですか……」と呟くがそれはあっさりと無視され、


「だがまあ、そんな感じはしていたぞ?そもそも、あれだけ綺麗に告白までいっておいて、見事に関係性がそのままになっているくらいだ。それくらいの理由はあってしかるべきだろう」


 まった。


 今なんていった?


 あれだけ綺麗に告白までいっておいて?


 俺は確認するように、


「なあ、月乃?」


「なんだ?」


「もしかして、なんだけど」


「ああ」


「…………『だけ僕』読んだ?」


「二巻までだがな」


「それもう全部だよね!?」


 なんということだ。理由は分からないけど、どうやら月乃は『だけ僕』を読了済らしい。一体いつのまに。


「っていうかそれならなんで二巻で打ち切りでいいんじゃないかって言ったんだよ……」


 月乃はさらりと、


「だって、一巻で綺麗に終わっていたからな。二巻はアフターストーリーということにしてしまえばなんとかなるだろうと思ったんだ。


 なるほど。


 どうやら月乃は月乃で考えての発言だったらしい。でも、それならもうちょっと早めに意図を説明してほしかったかな。


 月乃は続ける。


「しかしまあ、おかげでコスモの言いたいことは分かった。確かに二巻は迷走しているな。迷走しているというか、自殺というべきか。一巻の良かった部分を全否定しているからな。あれはもう作品の自殺に他ならない。それから」


「ストップ!タンマ!」


「なんだ?私が折角感想を述べているのに……」


「いや、それはありがたい。ありがたいよ。だけど、ほら、ダメージが……」


 俺はそう言って春菜に視線を向ける。そこには燃え尽きて真っ白になってしまった(ように見える)春菜がいた。ぽっかりと空いた口から魂が抜け出ている気がする。戻してやったほうがいいかもしれない。


 それを見た月乃は実に不思議そうにして、


「おかしいな。コスモよりは大分手心を加えたつもりなんだが……」


「どこがだ」


「?」


 どうやら、本気で分かっていない様子だ。この人ナチュラルに毒を吐くからなぁ……


 そんな毒舌製造機さんは、俺らを交互に見て、


「そうだ。いいことを思いついた」


 と言い出す。なんだろう。月乃の「いいこと」が俺にとっての「いいこと」だった記憶が無いんだけど。凄く不安だ。でも一応聞いておこう。


「……良いことって?」


 月乃は縦に頷き、


「ああ。付き合った経験がないのなら、試しに付き合ってみればいいじゃないか。コスモと、春菜で」


 それを聞いた俺と春菜はほぼ同時に、


「「はぁーーーーーーーー!!!!!!!!????????」」


「おお、行きピッタリじゃないか。相性抜群だ」


「「そんなわけあるか!!!!!!!!」」


 またしてもハモってしまう。顔を見合わせる俺と春菜、それを見る月乃は実に楽しそうだった。あの、あなたのおもちゃかなにかじゃないんですよ?

次回更新は明日(1/17)の0時です。

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