18.ラブコメは付き合うまでがラブコメです。
その反応を見た月乃は純粋に驚いたような顔をして、
「駄目なのか?」
まず春菜が、
「駄目に決まってるでしょ!一応これでも打ち切られては無いんだから!」
「もう思いつかないよぉ……ふええ……と泣きついたらどうだ?」
「そんなことできるわけないじゃないの!仮に出来たとしても、次回作なんかないわよそんな作家に」
「そういうものか」
「そういうものなの」
続いて俺が、
「第一、あのまま完結させるなんて、打ち切りエンドも良いところだぞ。一巻で終わってるならまだしも。しかも、一応話が続くように伏線まで張ってるわけだから、「俺たちの戦いはこれからだ!」みたいな一応話をまとめて終わってる打ち切りより酷いぞ」
「そうなのか?」
「そうだ。いいか?」
俺はホワイトボードにいくつかの箇条書きをした。それがこれだ。
・付き合い始めた二人はどうなるのか?
・幼馴染の海外渡航はどうなったのか?
・チラ見せされた出版関係者はどうなるのか?
「ざっと思いつくだけでもこれだけの伏線を露骨に放置することになるんだよ。な?ありえないだろ?」
「へぇ……そんなに……」
そのやり取りと、ホワイトボードの箇条書きを見た春菜が「うっ」とダメージを食らっていた。きっと何も考えていなかったんだろう。その状態であんな迷走した話を書いたんだ。三巻なんて書けるはずもない。
物語開始の時点ではただの同級生だった主人公・池上とヒロイン・雪谷。だけど、最終的には雪谷が池上に告白するというところまで行って一巻は終わる。従って、二巻は、その後の物語……つまり付き合うことになった後の話が描かれると思うだろう?誰だって思う。俺だってそう思う。
が、待っていたのは、付き合うことを決断する前と特に変わらない日常だった。最初にあれを読んだときは本当にあぜんとしたものだ。どんな話が展開されるのだろうと期待している、ページをめくる手が段々と鈍くなっていくあの感覚は正直思い出したくない。
読んだときは「一体どうしてしまったんだ」としきりに悩んだものだけど、こうなれば結論は明らかだ。要するに「先の話が思いつかないが故のひきのばし」だったんだ。十回倒さないと死なない四天王で十週くらい引っ張ろうとする漫画家みたいだ。
俺はキャップを閉じたマーカーで、コンコンと箇条書きの文を叩き、
「どうしてこんなに伏線をまきまくったんだよ」
春菜は視線を逸らしながら、
「……だって、自分に無茶ぶりをしろって」
「あ?」
春菜が逆切れするように、
「あんたが言ったんでしょ!創作で大事なのは自分に無茶ぶりをすることだって!忘れたとは言わせないわよ!」
「忘れた」
「なんだとこら!」
「悪い。冗談だ。なんか必死だったから、つい」
「こ、こいつ……」
春菜が拳を握り締めてわなわなと震える。
そうか。こいつあの時のアドバイスを間に受けたのか。
確かに、俺はそんなことを春菜に言った気がする。
だけど、それは売り言葉に買い言葉、喧嘩の中で出てきた、言ってしまえば「特に意味の無い言葉」だ。もちろん、嘘を言ったつもりはないし、創作において大事なことなのは間違いないと思う。だけど、それは、
「あれは、それをきちんと回収しきれるだけの力があれば意味があるんだ。回収しきれなかったら、ただ破綻するシナリオを作るだけだぞ」
「だって、あんたそんなこと言ってなかったじゃない」
「そうかもしれないな。でも、別に嘘は言ってないぞ。とんでもない無茶ぶりを改修すれば、それが名作になる可能性が高い。人はいつだって、予想の外から出てくる作品を好むからな」
春菜は不満げに、
「じゃあどうすればいいのよ」
俺は「うむ」と言って、
「そうだな……昨日上げた点の修正は必須としても……そろそろ二人の関係性を進展させるべきだろうな」
「関係性?」
「そうだ。池上も、雪谷も今は宙ぶらりんの状態だ。だけど、話の展開からすればこの二人が恋人として関係性を深める話になっていくのは必然だろ」
春菜が人差し指をつんつんと突き合わせながら、
「でも、青葉ちゃんもいるし……」
俺はにらみを利かせ、
「……もしかして、お前。あそこからどこに転ぶか分からないラブコメにしようとしてたのか?」
春菜はちょっと恥ずかしそうに、
「そ、そうよ。悪い?」
「はぁ~~~~…………」
「ため息で返事するのやめてくれる!?」
うるさいやい。だって、ねえ?ため息の一つもつきたくなるでしょ。あんなにいい雰囲気で告白されて、OKして、それで付き合うことになった二人がそのまま宙ぶらりんってどういうことですか。
だって考えてもみてくださいよ。このまま池谷が青葉ともラブコメしたら、主人公が速攻で二股をかける最低クソ野郎に成り下がるじゃないですか。どこかのドロドロエロゲじゃないんだから。勘弁してくれ。
次回更新は明日(1/16)の0時です。




