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【告知あり】クズだらけのプロット  作者: 蒼風
Ⅲ.作品をよくするための会議をしよう
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14.味の無いガムほど虚無なものはない。

「だけど、それにだって、限度はある。例えば推理小説で、毎回神のお告げで全てを解決する探偵がいたらどうだ?」


「そ、それは……つまらないと思う、けど」


「だろう?だけど、そのお告げを使うたびに主人公の寿命が削られる。けれど主人公はなんとか事件を解決したいから使い続ける。そして、そんなことを繰り返していくうちに、お告げなんかなくても解決できるようになる、とかならどうだ?」


「それは……ちょっと面白そう、かも?」


「だろう?だけど、これらはどちらもあり得ないことだ。どころか、後者の方がありえないぞ?なんだ、寿命を削られるって。それに比べたら、最初の話はただ神の啓示を受けるだけだ。世の名だたる預言者は神からのお言葉を授かって、信者たちに伝えているわけだから、こっちの方がよっぽど現実に即している。だけど、面白いのはこっちじゃない」


 一息つき、ホワイトボードのヒロインが(略)の右隣に、「面白いかどうか」というフレーズを書く。


「ようは、面白いかどうかだ。楽しいかどうかだ。それがエロならエロいと感じるかどうかだし、ラブコメなら、その恋愛をするキャラクターが可愛いと思うか。その葛藤を身近に感じられるか。他にも重要な要素はいくらでもあるだろうが、概ねそんなところだ。ヒロインの可愛さという部分においては、割と現実っぽさが求められる。なにせ人間の感情だからな。別にUFOにのって宇宙人と戦う最後のフーファイターだったみたいな条件もない。普通に学校に通い、普通に恋愛をする人間だ。その人間が、創作上にしか存在しないテンプレツンデレみたいな台詞を吐いてみろ。共感なんて夢のまた夢だぞ」


 そこまで聞いた春菜(はるな)はやや堪えたような感じに、


「やっぱ…………駄目、だったかな」


「当たり前だ。お前はあんなテンプレみたいなキャラを可愛いと思うか?」


「うぅ…………」


 どうやら、一応自覚はあったらしい。それならまだましかな……


 俺は引き続きホワイトボードにあった三つ目の項目をトントンと指で叩き、


「最後がこれだ。なんだあの文は。あんな特徴のない文章良く書けたな」


「そ、それは……だって、読みづらいって、声が、あった、から」


 徐々に声のトーンが小さくなる。これはあれか。読者の声を真に受け過ぎたか。このあたりのバランスは難しいからな。本来なら編集が指摘してやって欲しいんだが……ここまで話を聞いた感じだと難しそうだからな……


 俺は改めて地の文(略)の右に「個性ある文章は大事!」と書き、


「なあ、如月(きさらぎ)。そもそも人はなんで小説を読むと思う?」


 春菜は如月と呼ばれたタイミングでびくっとなるも、あくまで平易を崩さずに、


「どうしてって…………面白いから?」


 うむ。実にぽい答えだ。


 多分こいつ、小説が特別好きってわけじゃないんだろうな。


 活字離れ、という言葉が叫ばれて久しい。まあ最近はなんでもかんでも離れたことにして警鐘をならしたがるので、一概にそれが正しいとは言い切れないし、実際は趣味や余暇の多様化という波に飲まれ、溺れてしまっただけで、読む人は相変わらず読むのかもしれない。そのあたりはよく分からない。


 俺にでも分かることがあるとすれば、


「如月。お前、漫画って読むか」


 春菜は「なにを言っているんだ」とでも言いたげな顔で、


「読むわよ?もちろん」


「じゃあ、アニメは?」


「見るわよ?何が言いたいのよ」


「話は単純だ。如月。お前は小説をこよなく愛する人間の心が分かっていない」


 それを聞いた春菜は「う」と言葉につまる。これも自覚ありか。これ、編集が口出さないで、本人に任せておいたほうが良かったんじゃ……


 とまあ、そんな感想はさておいて、


「いいか?世の中には色んな人間がいる。ライトノベルなんて漫画の劣化コピーだって断言するやつもいるし、アニメ化しないと作品に触れないってやつもいる。そして、今おまえがアプローチするべきなのは「文章を読むことを好き好む層」だ。彼ら彼女らは、文章、ようは小説を読むのを好む。何故か。絵や、映像では表現しきれない部分や、それとはまた違ったニュアンスを楽しむためだ。如月。お前の文章もそれだったんだよ。だけど、おまえはその「武器」をあえて捨てた。だからこう書いたんだ」


 そこまで言って、ホワイトボードに書いた文字列をとんとんと叩き、


「味の無いガム、ってな」


 春菜は「ううううううう……」と唸る。月乃(つきの)が、


「大丈夫か?殴りたかったら殴っていいぞ?私も参加するから」


「おい、そこ。日々の文句があるなら聞こうじゃないか」


 そんなツッコミを他所に春菜は、


「大丈夫……むかつくけど、言ってることは間違ってないから」


「ほう」


 意外だった。


 正直もっと食って掛かってくるかと思っていた。


 あの春菜のことだ。自分の書いた作品にここまでケチを付けられれば文句くらいは言いたくなるだろう。殴りかかるという表現もあながち誇張ではないと思うし、それくらいはあってもおかしくはないと思っていた。


 身内に内通者がいたのはちょっと想定外だったけど、月乃が止めないなら、一発くらいは甘んじて受け入れるつもりではあった。あ、月乃からは勘弁な?何されるか分からないし。しかも多分抵抗出来ない。


「……それに、加賀(かが)も似たようなこと言ってたしね。二人から言われちゃったら流石に認めざるを得ないかなって」


 なんだよ。


 要は加賀さんのおかげじゃないか。なんなら俺は要らないまである。これがフィクションなら俺の立ち回りはモブ側に位置するのかもしれん。木Gとか、そのレベルの。


 春菜は俺の方を向いて、


「で?どうしたらいいと思う?」


「そうだな……」


 正直なところ、一言で答えるのは難しい。


 主人公の口調に関しては三巻からまた戻すという手もあるだろう。だけど、その場合、二巻はなんであんなに嫌な奴だったのかについての理由が欲しい。


 ヒロインのテンプレツンデレ発言に関しては……正直どうしようもない気もするけど、これに関しては徐々に軌道を修正すれば、「二巻のはちょっとした気の迷いだったんだ」ということで消化させることは可能だ。


 なんだったら「そういうのを漫画とかでみたから」とか理由付けをするっていう手もある。後出しじゃんけんにはなるけど、あのままテンプレキャラを続けるよりは万倍ましだろう。


 文章に関しては再び元に戻すしかないだろう。これを徐々に戻していくなんてことをしながら内容もいじるとなると、かなりの負担になる。場面ごとに文章の感じを変えるくらいならともかく、途中から文章の感じを変えるなんてこと、僕には難しいよう。ふえええ。


 と、冗談はさておいて、


「まず、三巻でどんな話を書くつもりかを聞いておかないといけないだろうな。その中にどれだけ一巻に軌道を戻すための話を差し込めるかがわからんしな。文章なんかはもう思い切って一巻の感じに戻すのが良いとは思うが……」


 と、そのタイミングで春菜が、


「どんな話……」


 と呟く。その顔は「ぽかん」という感じだ。おい、まさか……


「なあ、如月?如月さん?」


「な、なによ。なんで急にさん付けしたよ」


 いや、だって、ちょっと考えたくもない想像をしちゃったんで……


「そんなことは無いと思う。思うが、もしかして、もしかして、だぞ?三巻のシナリオって考えて無かったりは…………しないよな?」


 と聞く。その瞬間春菜は全力で目線を逸らし、吹けもしない口笛を吹いていた。おい、まじかよ……


「えっと、もしかして……?」


 春菜は未だに俺と目線を合わせずに、


「詰まっちゃった……てへへ☆」


 と白状した。離陸直後にエンジンが爆発したような気持ちだ。前途多難が過ぎるだろう。これ。

次回更新は明日(1/12)の0時です。

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