11.譲れないものに触れられて。
「全く……仲良しこよしが難しいとは思ってたけど、まあよくこんなに綺麗に喧嘩が出来るね」
と芥が俺と春菜の間に割って入る。俺はあくまで淡々と、
「別に喧嘩をした覚えはないけどな。ただ事実を述べただけだ」
芥は苦笑し、
「それが喧嘩の元なんだって。コスモだって分かってるだろ?」
「まあ、な」
そう。
そんなことは分かっている。
俺が煽らなければ、春菜が月乃に半ば羽交い絞めに近い状態で止められることもなかっただろうし、もうちょっと円満に事は進んだかもしれない。そんなことは分かり切っているんだ。
だけど、
「一巻の時はほんとによかったんだ。ああ、よかった。こんな話を作れる人間がまだ居たんだって喜んだ。だけど、二巻になってみればどうだ。どこにでも転がってる話と、誰でも考えつく展開。正直目を疑ったし、実は作者が二巻にして交代しましたなんてことがあるんじゃないかと思って何度も作者名を見直したさ。だけど、そこに書いてある“コハル”っていう三文字が消えることは無かった。俺は「ああ、またか」って思ったよ。また、名作になりえた作品がつまらなくなっていくのかってな。それがどうだ。今、俺はその作品を正しい方向に導けるチャンスを手にしているんだ。そりゃ、冷静さも欠くさ」
分かっている。
なんの免罪符にもならないと。
それでも俺からすればこれが本音なんだ。
その時、
「…………最初から、そう言えばいいのに」
と呟く声が聞こえる。
春菜だった。
今は月乃の支配下からは脱出し、それでもまだ手を握られたまま、立っていた。あれ、きっと俺に向かって敵意を出したら、技の一つや二つかけるつもりなんだろうなぁ……月乃はああ見えて合気道の有段者だからな。
芥が、
「提案なんだけどさ。取り合えず俺と月乃もいる状態で、コスモの話を聞いてみるってのはどうかな?コスモがアレだったらこっちで何とかするから」
「アレってなんだ、アレって」
そんな俺のツッコミは風もないのにどこかに吹き飛ばされるようにして無視され、
「…………そう、だね。それなら、まだ、なんとか、我慢は出来る、かも」
「我慢ってなんだ、我慢って。人をなんだと思ってるんだ」
「むしろアンタこそ人をなんだと思ってるのよ……」
若干げんなりした表情で俺を見つめる春菜。なんだと思ってると言われても困る。正直春菜に対しては大して興味が無い。興味があるのはコハル先生だけだ。もっとも、その先生のイメージもここ二日間でぶち壊されたわけだが。どうしてくれるんだ、全く。
その会話を聞いた芥は肩をすくめ、
「ま、取り合えず殴り合いの喧嘩にならなければ大丈夫かな。それじゃ、どうしようか……、ホワイトボード、つかう?」
と俺に聞いてくる。
「あれ、ホワイトボードって言っていいのか?」
芥がホワイトボードと呼んだ代物は、我らが現代文化研究部室内にある、特別教室からお払い箱になっているのを拾ってきたものだ。
お払い箱になっているのには当然理由があって、長年使っているからか、ホワイトボードはいくら消しても汚れが取れずちょっぴりグレーボード状態だし、一緒に置いてあったマーカーは何一つ使い物にならず、結局全て自前で新調することになったというものだ。
正直何に使うのか疑問ではあったし、拾ってきた俺ですら、階段を上がるという重労働を途中で投げそうになったくらいだ。
ちなみに、一人では運べないので、芥に手伝ってもらった。代金はラーメン一杯分。本当は並盛一杯の予定だったのだが、余りの重労働に、最終的には特製ラーメン大盛に飲み物までつけるという状態で、それでも「もう一回は勘弁かな」という感想を頂戴したわけだが、その苦労が遂に報われるというわけだ。
良かったな。このままだと、あのラーメンは「ゴミをゴミ置き場から引きずり出した挙句、三階まで移動させる迷惑行為」に対する報酬になるところだった。
いや、どうせ、最終的にはゴミになるんだけど。具体的に言えば後一年後くらいには。この部活動が俺らの卒業後も残ってることはまあ、無いだろう。
と、そんな出会いに思いを馳せていたら、芥が部室の奥に格納した、ホワイトボードを上手いこと使える場所に引きずり出していた。あれ、どうやって格納してるんだろう。俺には多分無理だ。
「この辺で良い?」
「ああ、サンキュ」
「ん」
芥は最低限の返事だけすると、自分の巣へと帰っていく。確かにそこからもホワイトボードはぎりぎり見えるとは思うけど、PCの方見てたら無意味だと思いますよ芥さん?本当に仲裁するつもりあります?まあ俺はいいんだけどさ。
次回更新は明日(1/9)の0時です。




