10.争いは同じレベルでしか発生しないらしい。
俺は言った。ああ、言ってやったさ。高らかに宣言したんだ。俺なら『だけ僕』の良いところも悪いところも知っていると。だから、その軌道修正をするくらいは訳ないんだと。
なにせ俺は狂信者だからな。なんならこの世界で二番目に作品のことをよく知っているという自負がある。
ちなみに一番は当然春菜だ。まあ、作者だからな。いくら話を作りながら考える質だったとしても、俺より詳しいのは間違いないだろう。悔しいが認めてやる。お前がナンバーワンだ。
と、そんなわけで、ナンバーワンの座を(脳内で)譲りつつ、作品を良くする手伝いをしてやろう的なことを切り出した俺に対する反応はといえば、
「は?何言ってんの。そんなことあるわけないじゃない。馬鹿じゃないの?」
散々だった。
あれぇ?おかしいなぁ……
仕方ない。俺は再度、
「馬鹿じゃない。むしろ馬鹿なのはお前の方だろう」
春菜がむっとなり、
「は?馬鹿って言った方が馬鹿なんですけど?」
「その理屈で言うと、お前も無事に馬鹿ということになるぞ?頭大丈夫か?」
「うっさいわね!黙れ馬鹿!」
どうやら反論する材料がなくなったようだ。
まあ、そうだろうな。そもそも春菜は、反論するほど俺のことを知らない。その状況であるわけないなんて言葉を返してくるのは、単純に俺に対する対抗心だろう。
あの日以来春菜は俺をずっと敵視してきているからな。ちなみにあの日っていうのは女の子特有の“あの日”ではない。補足するまでもないか。
と、俺が何とも無駄な思考を巡らせていると、芥が、
「ごめん、ちょっと良いかな、如月さん」
「…………なに?」
今、大分迷ったな。多分芥も「陽山宇宙と愉快な仲間たち」だと思ってるんだろう。実際そうともとれるし、そうでないとも言えるんだけどな。
断言してもいい。もし、芥や月乃が俺と自分の恋人(三人とも現在はシングルなので、それくらい大事な相手、という意味だ)どちらかしか助けられない状況に追い込まれたとすれば、間違いなく後者を助けるはずだ、と。
そしてそれは俺にも言える。三人が三人、割とそんな感じなのだ。ここに集まってるのは、ただお互いに干渉せず、それなりに気が合い、そしてなによりも付き合いが長いからだ。それ以上の理由は恐らくない。芥にも、月乃にも。
ただ、それとは別に、お互いのことをよく知っているのは事実で、
「コスモはまあ変なやつだし、胡散臭いと思うのは分かる」
「分かっちゃうのかよ」
芥は俺のツッコミなどはなから存在しなかったかのようにして、
「だけど、コスモのコハル先生に対する熱の入れようは相当だ。それは俺でも分かるし、多分月乃でも分かる。それに加えてコスモの審美眼自体はある程度信用が置けるレベルにあると思う。もし、編集さんのアドバイスが役に立たなくて迷走しているとしたら、コスモは相談相手として文句なしだと思うよ。変なやつだし、胡散臭いと思うのは分かるけどね」
と諭す。どうでもいいんだけど、なんで「変な奴」と「胡散臭い」だけ二回言ったの?そこそんなに重要だった?
と、そんな俺の脳内ツッコミを軽く踏みつぶす勢いで月乃が、
「そうだな。コスモは変なやつだし、胡散臭くは見えると思うが、少なくともコハル先生や、創作に対する愛は本物だ。それが狂信者的なのはまあ脇に置いておくとしても、相談相手としては良いだろうな。例え変なやつで、胡散臭くて、狂信的だったとしても、な」
と、賛同する。ねえ、君たち?君たちは俺のことを普段どう思ってるのかな?僕ちょっと心配になってきたよ。
今からでもこの部活やめて、陽山宇宙ファンクラブでも結成したほうがいいんじゃないかって気がしてきたよ?まあそんなものに加入してくれるのは多分うちの妹だけだと思うけど。ちなみに、中学三年生なので、正式にはまだ参加資格はない。
だけど、そんな二人の言を聞いた春菜は少しうつむいて、
「そ、そんなに、好き、なんだ?」
と、呟く。あれ?もしかして、これ、俺に対して聞いてる?
俺はそれならばと力を込めて、
「ああ、好きだぞ。大好きだ。昨今の絵師ガチャで生き残った作品とは違う、骨のある作品を書く作家を、俺が嫌いなわけがないだろう。まあ、もっとも、絵師ガチャでも成功しているとは思うけどな。作品に非常によくマッチした絵師をあてがったもんだ。あの人を連れてきたのも編集だとしたら、一体どこで壊れてしまったんだろうな?人間、一度成功すると守りに入ると言われているから、きっとその辺が作用」
と、俺が語っていると、
「うっさい!!!!!!!!」
一括される。春菜はゴミを見るような目で俺を見つめながら、
「キモ。ホントキモイ。あんたあれ?早口オタクってやつ?」
罵倒語が何ともテンプレートだ。だけど、それとは別に、
「なんだ。うるさいな。人が喋っているときに割り込むなって小学校で習わなかったのか?」
「は?それがなに?」
「俺が喋っているときに口をはさむな、ということだ。いいか?俺は今お前の疑問に答えていたんだぞ?それをなんだ。キモイだとか、早口オタクだとか。いいか?そもそも得意分野も早口で語り倒せないような薄っぺらい人間が使う言葉だ。主にお前みたいな、な」
春菜が思い切り立ち上がる。椅子が大きな音を立てて倒れる。
「はぁーーーー????黙って聞いてればあんた何様よ!どんなに言葉を重ねてもアンタが早口オタクなのは変わらないでしょ!?」
「だとしたらなんだ?その事実が認められたとして、それがなんだ。むしろ好都合じゃないか。俺がもし、創作や、コハル先生に対する早口オタクだったのならば、これ以上の味方は無いだろう?それをキモイと一喝するのは良い。だけど、それで何が変わる?二巻が出てからかれこれ一年だ。複数作品を抱えている作家じゃないのは分かってる。そのお前が一年だぞ?それだけ悩んで結果が出なかったところに、新しい風の一つも入れないで何が変わる?その状況を変えるならまずその無駄なこだわりを捨てるべきだと思うけどな」
言ってやる。
確かに、俺の対応が悪いのは分かってる。それが春菜の反感を買っているのも知っている。
だけど、それはお互い様なんだ。あの時、喧嘩を売ったのはどっちが先だったなんてことは人によって意見が異なるところだろうし、仮に喧嘩を売ったのが俺からだったとしても、春菜にはそれを無視する選択肢がある。買ってしまった時点でやつも同じ土俵に乗っているんだ。
それを聞いた春菜は暫く口をぱくぱくさせた後、
「っ……このっ!」
右手を振りかざし、俺を思い切り、
「ストップ。そこまでだ」
はたこうとしたところで、月乃に手を掴まれる。
次回更新は明日(1/8)の0時です。




