0.もしもこれが作られたプロットならば。
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これは物語だ。フィクションだ。脚本だ。誰かが考え出した、現実にはありもしない空想上の産物だ。
だから、起きる出来事なんてのは決まり切っている。高校入学直後に意気込んで作った部活動と、なんとか集まった仲間と共に、面白可笑しい日々を展開するに違いない。
運動部だろうと文化部だろうと、必要があろうとなかろうと、毎日のように顔を突き合わせ、夏休みになれば合宿と名の付いた、仲間同士の旅行に行き、花火大会に、夏祭りに、プールに、海にと、イベントが盛りだくさんの長期休暇を堪能し、気になるあの子との距離もぐっと縮まった気になるのはずだ。
秋になれば、一体何を間違えたのか同じ学期に詰め込まれた体育祭と文化祭という文武の一大イベントを消化するだろう。文化祭では誰と一緒に回るとか、どんな出し物をするとか、そんな話が展開されるのは最早お約束だ。
それ以外にもイベントは満載だ。クリスマスになれば当然クリスマスデートをするだろうし、新年には皆で集まって深夜に初詣をするに違いない。バレンタインデーは送る方も、送られる方もドキドキの一日になるのは最早自明の理で、一か月後のホワイトデーとセットでちょっと小粋な展開が待っている。
これがフィクションならば、の話だが。
あらかじめお詫びしておこう。今から俺が語るのは、そんな夢溢れる高校生活のお話ではない。
高校入学と同時に作られた部活動は、すっかり幼馴染三人のたまり場と化しているし、カースト上位の女子と秘密を共有しても、そこから恋愛が始まるなんてことは一切なかった。
高校三年生になるまでの二年間で行われた学校行事はほとんど適当に、流すようにしてやり過ごしていたし、修学旅行で起きたイベントと言えば、同じクラスのやつらが、女子の部屋に潜入しようとして、見つかり、こっぴどく叱られ、朝の集会が説教の場に早変わりしたことくらいだ。
な?夢も希望もないだろ?現実なんてそんなもんだ。幼馴染の女の子なんて甘美な枕詞をお持ちのはずの小早川月乃は俺のことを時々無視するし、同じく幼馴染(こちらは同性だ)の千里芥に至っては小学校以来の付き合いとは思えないくらいの淡白さだ。
カースト最上位の如月春菜は俺のことを見るたびに馬鹿の一つ覚えのように「あ、陰キャオタクだ」と、レッテルを貼り付け続けていて、俺の高校生活を悪い意味で彩づけている。
イベントも無ければ可能性もない。ないないづくし。
もしこれが物語のプロットだとしたら、俺はきっと鼻で笑うね。馬鹿じゃねえの?って。こんなの受けるわけねえだろって。
だってそうだろう?人は皆決まりきったお話を望んでるんだ。主人公はかっこよくなくちゃいけないし、ヒロインはその主人公に恋して、悩み、そして最終的にはむずばれなきゃいけない。味方になるのはみんな良いやつで、敵になるのは皆悪いやつ。勧善懲悪の分かりやすいシナリオがお好みなんだ。
そして、どれだけの苦難があっても、最終的には主人公たちが勝って、平和が訪れる。めでたしめでたし。それが求められる物語の姿だ。誰だって物語の中でくらい綺麗なハッピーエンドを求めているんだ。
けれど。もし。もしだ。こんな俺の話を聞いてくれるやつがいるのだとしたら。どうか聞いてほしい。世の中決まりきったテンプレをなぞるだけが面白い物語じゃないんだぞってことを、どうか覚えて帰ってほしい。
確かに登場する人間はクズばっかりだし、物語は予定調和のフィクションではありえない方向へと転がり続けるかもしれない。
それでも、これだけははっきりと言える。
俺はこのクソみたいなノンフィクションを、案外、気に入っていたのだ。
これは現実だ。ノンフィクションだ。クソほどあっけない事実だ。俺たちの周りで起きた、想像だにもしない出来事の数々だ。
だけど、どうか安心してほしい。このクズだらけのプロットも、
終わりはハッピーエンド、なのだから。
次回更新は明日(12/29)の0時です。




