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月の手毬(月星雪✻②✻)下巻  作者: YUQARI
第九章 求めるモノと、吉昌の足掻き。
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渦巻く炎の中で。

 轟々と燃え盛る炎の中で、しかし何故だか澄真(すみざね)には、熱さを感じられなかった。

 狐丸と澄真(すみざね)の周りには、目に見えない()()()が存在し、二人を守っているようにも見えた。


「熱く……ない」

 澄真(すみざね)は呟く。

 すると狐丸はクスクスと笑う。


『うん。僕、ちゃんと澄真(すみざね)も護れているでしょ? 澄真(すみざね)は僕の《(あるじ)》だから、ちゃんと護らないとね』

「主……」

 その言葉が、なんだかくすぐったい。

 澄真(すみざね)は何も言えなくて、黙り込んでしまった。



 それを見て、ムッとしたのはミサキだ。

 怒りを露わに、まくし立てた。


『何を呑気な! ミサキと対峙しているのに……! あぁ、悔しい! 悔しい……! ミサキが視えるのなら、人間など簡単に怯えさせるものを……! 何故ミサキは誰の目にも映らないの……!!』


 力を放出し、風が湧き上がる!

『炎が苦手なのなら、燃え尽くしてしまえばいい! 何もかも燃えてなくなってしまえ……!』


 ミサキは力のある限り、風を舞い上がらせる。

 憎い狐丸を中心に風が逆巻き、火柱が天まで伸びた!




 ごおぉぉおぉぉー……!




「狐丸……」

 燃え盛る炎の中で、澄真(すみざね)は狐丸を護ろうと、その首を抱いた。

『……澄真(すみざね)。大丈夫』

 狐丸は微笑むと、澄真(すみざね)の頭に首を傾ける。


『ねぇ、気づいていないのかも知れないけど、ここの結界を張っているのは、澄真(すみざね)なんだけどね』

 言ってふふふと笑う。

「…………。え?」


『え?』


 二人はキョトンとして顔を見合わせる。

「え? 今、なんて?」

『え? いや、だから、()()()()()()()()()()()()()()()って言ってるんだけど。……え? まさか、本当に自覚ないの!?』

 狐丸は目を丸くする。


「いや、だってお前、さっき《ちゃんと護れている》って言ったじゃないか!」

『そ、そうだよ! ()()()()()()()()()この結界を張っているから、《澄真(すみざね)の結界》だろ? だけど澄真(すみざね)には自覚ないから、僕が代わりに結界を展開してる。だから、《ちゃんと護ってる》のは僕ね』

 ふふふと狐丸は笑う。

「……私の力?」

 澄真(すみざね)は訝しげに尋ねた。


 狐丸は苦笑しながら頷く。

『そう。澄真(すみざね)の《力》』

 言って狐丸は静かに前を向く。


 恐らくその目の先には、怒り狂ったミサキがいるに違いなかった。


『僕は……』

 狐丸は口を開く。

『僕は、確かに《炎》が苦手なんだ。暑いのが嫌いでしょ?』

 燃え盛る炎の中で、狐丸は呑気に話し出す。

「そう、……だな」

 澄真(すみざね)も、冷静に言葉を返す。


 炎の勢いは強すぎて、逃れられそうにない。

 熱くないのなら、会話を楽しむのもいいかも知れない。そんな呑気なことを、澄真(すみざね)は漠然と思った。

『だけどね、澄真(すみざね)は、僕と正反対で、炎が力の源みたいなんだよね』

「は……?」

 何を言うんだ! と言わんばかりの澄真(すみざね)を、狐丸はチラリと見る。


澄真(すみざね)は、……もしも澄真(すみざね)が妖怪だったとしたら、多分《炎の眷属》。しかも、太古のとても古い、炎の大元。だからこんな炎、わけないんだよ……』

「……」

『……。逆に僕は、《雪》から生まれた。……澄真(すみざね)が妖怪で妖怪紋があるとしたら、多分、《雪の妖怪紋》。だって澄真(すみざね)、寒いのが苦手でしょ?』

 言って悲しそうに笑う。


『僕の弱点は澄真(すみざね)で、澄真(すみざね)の弱点は僕。だから僕たちは弱点があって、弱点がない……』

「……狐丸。意味がわからん」

 澄真(すみざね)の言葉に、狐丸はふふふと笑う。


『僕たちが一緒にいれば、《無敵》ってこと。だけど離れれば、……』

 そこで狐丸は言葉を切る。


『あ、ほら。コレで炎はおしまい。一つ憂いが消えた』

 言って狐丸は澄真(すみざね)に擦り寄り、自分の背に乗せると、トーンと大きく跳ねた。


「!」

 澄真(すみざね)はその背にしがみつきながら、眼下を見る。


 眼下には、黒ずみになってプスプスと煙を上げ、燃え尽きた吉昌(よしまさ)の屋敷の一棟が見えた。

 狐丸がさきほど跳んだその一蹴りで、残った骨組みも、見事に崩れ去る。


『僕たちに狙いを定めて、風を巻き起こしてくれたから、延焼は免れたよね?』

「……!」

 さも当たり前だと言うように笑う狐丸が、澄真(すみざね)には少し遠い存在に思え、ドキリとした。


 延焼。

(そうだ。私は、火事が拡がるのを案じていた……)


 澄真(すみざね)は眼下を見下ろす。もう炎はどこにもない。


 妖怪紋をミサキに見せ怒らせる。()()()()だと()()()ミサキに知らしめて、風を操るミサキを利用した。


 ミサキが狐丸を憎み、葬ろうと頑張れば頑張るほど炎はうねり、狐丸に襲い来る。けれど、狐丸に執着するが為に、風は壁となり炎を包み込む。

 おかげで、炎がまわりに飛び火する事なく、火柱となり天まで燃え尽くした。


 その炎はもう、今は少しの燻りを残すのみとなっていて、あとは人の力だけだとしても、消すのは用意だろう。


「……」

(まさか、狐丸がそこまで計算していた……?)


 澄真(すみざね)は狐丸を仰ぎ見る。

 狐丸はそのことに気づいて、近くの別棟に飛び降りると澄真(すみざね)に擦り寄った。嬉しそうに口を開く。


『後は、あの式鬼(しき)と剣だよね? だけど多分……』




 ──あの剣は、どうしようもないんだよね……。




 そう困ったように、小さく呟いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど! 計略だったのですね! [気になる点] 狐丸、もうちょい、おバカだと思っていたのですが、意外。
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