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月の手毬(月星雪✻②✻)下巻  作者: YUQARI
第六章 不測の事態
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思わぬ展開

『ちょ、何するんですかあぁぁあああ……!』


 玉兎(ぎょくと)は半ば発狂しながら、ジタバタと暴れた。

「ぎょ、玉兎(ぎょくと)……っ! 暴れないでくださいましっ!」

 姮娥(こうが)が唸る。

 自分の背中から落ちようとする玉兎(ぎょくと)の耳を慌ててつかもうとした。


『……っ! だから、私に触らないでください……っ!』


 ギリッと歯ぎしりしつつパッと耳を伏せ、玉兎(ぎょくと)姮娥(こうが)の《手》を避けた。


『あ、暴れないでなのー……!』

 子だぬきたちは、そんな二人のやり取りを見て、叫んだ。うにょん……と例の布がたわむ。


『ひぃぃい……!』

 玉兎(ぎょくと)が悲鳴をあげる。

 絶対に触らないぞ! と言う意志と共に、姮娥(こうが)の背中から滑り降りると、地面に這いつくばった。




 ぶわん──。




 びしっ、

『ふぐ……っ、』


 布は大きくたわみ、姮娥(こうが)の顔面を直撃する。

 《……うわぁ。もう、姮娥(こうが)には近づきません……》

 青くなりながら、玉兎(ぎょくと)は腹這いになって、先を進んだ。




 ごご……ごごごごご……。




『!』

 地面に平伏したからだろう。地の底から湧き上がるような地響きに、玉兎(ぎょくと)は身を強ばらせる。

 ()()()が、地の底をうごめいている──?




 ごごごごご……。




 地響きは大きくなり、姮娥(こうが)や子だぬきたちも異変を察知した……!

『な!』

『じ、地震!?』

『違うの! 変な妖力がうごめいてるのおぉぉ』

 子だぬきたちが悲鳴をあげる。


 ワタワタと子だぬきたちが騒ぎ出したと同時に、()はシュルっと収納される。幸いにも、破魔矢による攻撃はやんだ。

 地に突き刺さる無数の矢が、先程の攻撃の凄まじさを物語っていた。

 子だぬきは四つん這いになって、警戒する。


 グルルルル……と唸る子だぬきたちの地面が、ぐらり……と蠢いた……!

 見れば地面が、蛇のように()()()()いる。


『……!?』

 玉兎(ぎょくと)姮娥(こうが)は、目を見張る。頭を(はた)いて、耳の中に詰まった泥玉を取り出した。

姮娥(こうが)何が来ているか、分かりますか?』

 玉兎(ぎょくと)姮娥(こうが)を見ずに尋ねる。

 姮娥(こうが)も耳の泥を掻き出しながら、頭を振る。


『わ、分かりませんわ……。でも──』

 ()()()()()()()


 姮娥(こうが)は後ずさる。



 ただの地震ではない。

 地面の下……いや、()()()何かの生物かのように、のたうち廻っている……!


『な、何なんですの!?』

 姮娥(こうが)が唸る。

 思わず玉兎(ぎょくと)に触りそうになり、再び(はた)かれる。

『……』

 バシッと小気味良い音が立ったかと思うと、姮娥(こうが)の手が赤くなる。

 痛む手を抱き寄せながら、姮娥(こうが)は非難じみた目を玉兎(ぎょくと)に向けた。


『そんなに、毛嫌いしなくてもよいでしょう!? (わたくし)だって、好きで触ったわけではないし、ましたや顔面に激突したのも、事故ですわ! ましろ(わたくし)は、被害者ですのに……!』


 涙目になって抗議する姮娥(こうが)を見て、玉兎(ぎょくと)はすまなく思った。

 《姮娥(こうが)……すみません。けれど()()()()()()っ!》

 玉兎(ぎょくと)の気持ちはブレない。


 姮娥(こうが)の手を避けると同時に、玉兎(ぎょくと)姮娥(こうが)の背中を蹴った。



『……え?』

 姮娥(こうが)の目が点になる。


 ぐらり……と姮娥(こうが)の体が揺れ、ゆっくり倒れる。

 倒れた先の地面……先程からうねっていた、その地面が割れた……!




 バリっ。



 バリバリバリ、……ガシャ……ガシャン……!




 ──ぉぉぉおおおあぁ……。




『!?』

 土が割れる音と、不気味な金属の擦れる音と共に、大量の死霊兵が地中から溢れ出た……。



 ──うおぉぉぉおおお……、



 ガシャン──ッ。




 ギラリ……ッ! と赤い双眸の目を光らせ、不気味な唸り声をあげながら、死霊兵たちは這い出て来る……!


 錆びてくすんだ鎧を身につけた死霊兵は、ちょうど玉兎(ぎょくと)姮娥(こうが)を蹴り倒したその先に現れた。


 恐らくは、剣で斬られたのだろう。

 首の骨の途中まで裂け、妙な角度を保った生気のない首が、ぐるん! と姮娥(こうが)を見下ろした。




『ひ、……ひ……ひぎゃああぁぁあああ!!!!!』




 姮娥(こうが)の悲痛な悲鳴が、響き渡った。




 ✻✻✻




 そもそも玉兎(ぎょくと)は、その見た目に反して非情である。


 白くふわふわの体毛に包まれて、ふんわりと柔らかく、人好きのするその目はまるで、上質な紅玉のよう。

 時に血のように、妖しく美しく輝くその瞳に見つめられれば、誰もが玉兎(ぎょくと)の虜になるに違いない。


 長い年月を、冷たく青白く光る月で過ごしていたからか、玉兎(ぎょくと)は意外にも冷たい。

 相手の心配をしてくれる、臆病なウサギ……などと思っていると、途端に牙を剥き出したりする。


 《情》というものを持ち合わせていないのでは……? と、姮娥(こうが)は思う。

 《そもそも、玉兎(ぎょくと)()()()()()()()()という事すら信じられなかったのですから……!》


 だから、玉兎(ぎょくと)が《狐丸さまが好き》などと告白した時には、目の玉が飛び出るかと思うほどに驚いた。

 相手が男だとか、そういうのを抜きにして、玉兎(ぎょくと)()()()()()()日が来ようとは、夢にも思っていなかったのである。


 《玉兎(ぎょくと)なら、平気で()を踏み倒して先へ進む……そんなヤツですわ》


 そしてそれが正に、今の状況なのである。




 ✻✻✻




『ひぎゃああぁぁあああ……』




 ガチャリ……。


 死霊兵がザラリ……と錆びた剣を抜く……。

『ひぐっ』

 目の前で剣を抜かれ、姮娥(こうが)は喉を鳴らす。キラともしない、その剣で斬られれば、きっと物凄く痛い上に、傷口はすぐに化膿して、苦しむのに違いない。

 サーっと血の気が引く。


『あ、あ……。玉兎(ぎょくと)。……よくも蹴ってくれましたわね……!』

 言って恨みがましく姮娥(こうが)は振り向く。


 死霊兵はそれをものともせず、剣を振り上げた。

『……玉兎(ぎょくと)


 しかし、振り向いたそこには、玉兎(ぎょくと)は影も形もなかった。

『あ、いつぅ……!』




 ザン──!



 死霊兵が剣を振り下ろす音が、辺りに響いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ゾンビ来ましたか! 別の方との関連で、地面の下と聞いて、鮎とか思ってしまいました。
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