表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の手毬(月星雪✻②✻)下巻  作者: YUQARI
第五章 奪還作戦
42/92

呪印と矢よけのまじない。

 玉兎(ぎょくと)姮娥(こうが)は呪印を調べた。


『これは重複呪印……』

 玉兎(ぎょくと)は呟く。

 ……が、姮娥(こうが)には聞こえない。

『……』

 これでは、話し合いもへったくれもない。


 玉兎(ぎょくと)は溜め息をつくと、姮娥(こうが)の知識はあてにしないことにして、呪印を調べた。




 ──《重複呪印》




 要は、いくつかの呪印で構成される術式である。

 術は大きく分けると二つに分類される。

 直ぐに実行可能な術と、継続的に執行される術。


 前者は、澄真(すみざね)や他の陰陽師が使う、護符を元にした呪術で、即時遂行の為の術式。

 後者は継続的に執行するための媒体として、御札として護符を定着させたり、岩肌に文字を刻んだりする。今回の呪印は、明らかにこの後者で、とても古いものに思えた。

 そしてその呪印は、ひとつの術式だけではなく、別の術式も巧みに混ざり合わされており、パッと見はひとつの呪術にしか見えなかった。


 《……なんでこんな事を》

 玉兎(ぎょくと)は唸る。


 普通術式は複合することはない。合わせる術式の種類によっては、副産物を生み出すことがある、リスクの高い代物だ。玉兎(ぎょくと)は岩肌の文字をなぞる。


『……』

 先程と同じように光り輝くのかと期待したが、呪印は光らなかった。けれどその効力が、失われたようには見えない。呪印はほのかに妖力を発していて、ほんのりとあたたかい。




 ──昔の呪術が存在する。




 鉄鼠(てっそ)の言っていたのは、これのことだろうか? 玉兎(ぎょくと)は首を捻る。

 鉄鼠(てっそ)は、地形を変える術式が組み込まれてると言っていた。それは古くて、媒体となるものを見つけ出せなかった……とも言っていたように思う。


『これ……ですよね……?』


 目の前の呪印は相当古く、鉄鼠(てっそ)の言っていたことに当てはまる。

『呪印の種類は、《幻影》と……《護り》……?』

 玉兎(ぎょくと)は首を捻る。


 屋敷に護りの呪印を刻むのは珍しくはない。

 けれどコレは、普通の《護り》とは種類が違う。

『家……を護ってはいない……』

 姮娥(こうが)が呟く。


 二人の言葉は互いに、姮娥(こうが)が詰め込んだ泥玉のお陰で聞こえないのだが、二人の思うところは一緒だ。

 二人は顔を見合わせる。


 呪印の()()()()()()は、明らかに《屋敷》ではない。では何なのか……? それは二人には読み解けなかった。


『何なんですの? この呪印……』

 姮娥(こうが)が顔をしかめる。

 その様子を見て、玉兎(ぎょくと)も渋い表情を浮かべた。


 分かったのは一つだけ。

 目の前にいる仲間は、この呪印が何なのか《分からない》と言う事。




 ──はあぁぁあぁぁぁ……。




 どっと疲れが溢れる。

 結局何の解決にも繋がらない。

 ズドーンと二人は落ち込みつつ、この窮地をまずは脱しなければならないという事に、重きを置いた。


『ゲコ……!』

 姮娥(こうが)が喉を膨らませ、低く唸る。


『……』

 もちろん玉兎(ぎょくと)には、その声は聞こえない。

 聞こえないが、喉が膨れたのは見て取れた。玉兎(ぎょくと)姮娥(こうが)を見る。


 姮娥(こうが)玉兎(ぎょくと)が自分を見てくれたことに気づくと、玉兎(ぎょくと)に自分の背中を見せた。ついでに両腕を後ろに廻して、手を拡げる。

 要は《背負ってやる!》と言っているのだ。

『……』


 玉兎(ぎょくと)は少し躊躇った。


 言っていることは分かる。

 でも、普通のガマよりも大きいと言えども、ガマはガマ。玉兎(ぎょくと)よりひと廻り小さな姮娥(こうが)におぶさるのは、流石に気が引けた。

 グッと息を呑む。


 けれど迷っている暇はない。

 先程から雨のように降っていた矢が、急に止まったのだ。一本も飛んでこない。

 それは明らかに、人間たちが二人を捕獲しに切り替えたとしか思えなかった。姮娥(こうが)が地団駄を踏む。

 《早く! 早く!!》そう言っている。


『……』

 玉兎(ぎょくと)は少し悩んだが、そうするより他、手はない。

 自分は不覚にも傷ついてしまった……。


 血が流れ出る、足の傷を、忌々しげに見ながら、玉兎(ぎょくと)姮娥(こうが)におぶさる。

『ふぐ……っ、』

 動くと傷がひどく痛んだが、それも自分の眷属に会うまでの我慢。眷属に会えば、速攻で傷が癒える薬を出してもらえる。

 他の者ならばそれほどでもないが、作った本人が使用するとなると、その効力は普段の治癒力に輪をかけ作用する。もう少しの辛抱だ。

 玉兎(ぎょくと)は自分に言い聞かせた。


『行きますわよ……!』


 玉兎(ぎょくと)が背に掴まると同時に、姮娥(こうが)は地面を蹴る……!


 流石に玉兎(ぎょくと)ほどの跳躍力はなかったが、捕獲しようと忍び寄る人間たちの間をくぐり抜けることは、難なくできた。


「なっ、妖怪が逃げた! 撃て! 撃てぇ!」


 捕獲しようと忍び寄っていた者たちが、崖上から待機する仲間に状況を伝える!


「矢を番え! ……撃て!」




 シュン──。

 シュシュン……!!




 指揮官と思しき者の合図と共に、再び二人に矢が襲いかかる……!

 あっという間に、空は矢の黒い点で覆い尽くされた。


 《……!? 数が、多い……っ》


 玉兎(ぎょくと)は空を見上げ、ギョッとする。

 射掛けられた矢は、今までの比ではない。所狭しと密集する矢に、肝が冷える。


 《だ、ダメです。……これは、もう……》


 不意に脳裏を狐丸が過ぎる。

 《……っ。死にたくない……!》

 けれどどう足掻いても、逃げきれない状況に、玉兎(ぎょくと)は落胆の色が隠せない。

 《せめて、あと一目……あの人の顔を……》


 そう思って目をつぶった。



『きゃー。間に合ったのぉー!!』

『お前が悪いの! あんなところでコケるとか!』

『ひどいの! 痛かったの。うぇーんて泣きたかったのおぉぉ』

『泣いてる暇なんてないの! 失敗したら、醜鬼(しゅうき)さまが鬼みたいに怒るんだから! それでいいの?』

『……うぐ。それは、怖い』

『だったら、気合いいれるの!』

 おー!


『……』

 妙な気合と共に、妙な者たちが現れた。

 数匹の小さな子だぬきである。

 子だぬきたちは、何やら言い合いをしつつ、二人の傍へ寄ってきた。頭には何やら皮で出来た布を押し広げ、雨あられと降る矢を防いでいる。


 《あ……、助かった……?》

 姮娥(こうが)玉兎(ぎょくと)は目を見張る。


 破魔弓の音を気にして!玉兎(ぎょくと)姮娥(こうが)は強力な耳栓をしているが、子だぬきたちの耳栓は、そう強力でもないのだろう。見ていると会話が成り立っているように見えた。


『もう、大丈夫なの! 助けに来たのー!』


 一匹の子だぬきが、姮娥(こうが)玉兎(ぎょくと)に話しかける。

 けれど二人は、何を言われているか分からない。

 困った様な複雑な表情を浮かべたが、子だぬきは平気なようで、そのまま話を進めていく。


『ボクたちの主がね、助けに行きなさいって言ったの。だから、助けに来たの!』

 ふんふん♪︎ と飛び跳ねつつ、子だぬきたちは嬉しそうだ。


『あ! 君、怪我してるよ!?』

 別の一匹が玉兎(ぎょくと)の傷を見つける。


 何を言われているのか分からないが、傷口を覗き込まれた玉兎(ぎょくと)はバツが悪い。苦笑いしつつ、傷を隠そうとした。

 と、その時──。


『そんな傷はね、ペッペッペッ……!』

 子だぬきは事もあろうか、自分の手に唾を大量に吹き出し、その手を玉兎(ぎょくと)の傷口へと刷り込む。

『!?!?!?!?!?』


 ……何度も言うが、玉兎(ぎょくと)は綺麗好きだ。

 子だぬきから大量の唾を傷口に刷り込まれ、玉兎(ぎょくと)の毛が総毛立った。

『ひ、ひぃ……』

 ワナワナと体が震える。


『ふふ。ほーら、もう治ったよ?』

 真っ青な玉兎(ぎょくと)とは裏腹に、子だぬきはご機嫌だ。ふんふーん♪︎ と再び跳ねながら、玉兎(ぎょくと)から離れた。


『!?』


 玉兎(ぎょくと)は目を見張る。

 不思議なことに、アレだけ酷かった矢傷は、綺麗さっぱりなくなっていた。

 《……掠ったと言えども破魔矢。タダでは済まないと思ったのですが……》


 瞬時に傷を直した、この子だぬき。タダの妖怪であるはずがなかった。

 《そう言えば、鉄鼠(てっそ)もそのような事を言っていた》




 ──おかしなタヌキがいる。




 おかしなタヌキとは、おそらく、この子だぬきたちのことだと玉兎(ぎょくと)は瞬時に理解する。

 《確かに、おかしい……》


 自分たちを何故助けるのかもそうだが、唾で傷を治すなど、聞いたことがない。

 こう見えても玉兎(ぎょくと)は薬を司る。

 治癒に関したことならば、知らないハズがなかった。


 けれど、この子だぬきたちの事は知らなかった。

『……』


 不審に思いつつも、消える寸前の自分たちの命を救ってくれた、この子だぬきたちには、感謝の念もある。

 《ひとまず、様子を見ましょう……》


 玉兎(ぎょくと)がそう思うのも、当然のことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 42/42 ・たぬきー、ペロペロたぬき。イケメンだったらとんでもない [気になる点] どーん はーまやー
[良い点] タヌキついに登場! 布で矢を防ぐとか、戦国武将の母衣でしょうか? [気になる点] もしかして、ケブラー製? 防弾チョッキなどに使われるヤツ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ