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月の手毬(月星雪✻②✻)下巻  作者: YUQARI
第五章 奪還作戦
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護りの呪印

 ブツブツ文句を言いつつ、先を急ぐ玉兎(ぎょくと)と、してやったり……とご機嫌な様子で、その背に取り付く姮娥(こうが)


 二人は姮娥(こうが)の吐き出した、泥の耳栓のおかげで、破魔弓の音を一切感じる事はなく、比較的快適に谷底の通路を駆けた。


(……しかし、音が聞こえないとは、何とも心もとないものですね……)

 玉兎(ぎょくと)は顔をしかめる。


 破魔弓の効力が、自分たちには無効だということは有難い。

 しかし、これでは姮娥(こうが)との意思疎通がはかれない。

 何か不測の事態が起こった時はどうすればいいのだろう? 視線だけでの会話で、想いが伝わるのだろうか……?


 けれど心配しているのは、玉兎(ぎょくと)だけのようだった。

 かたや姮娥(こうが)の方は……と言えば、綺麗好きの玉兎(ぎょくと)に泥団子を押し付けることが出来て、ひとりムフムフと笑いを堪えている。


 玉兎(ぎょくと)はムッとする。

(姮娥(こうが)も何か、痛い目を見ればいいのです……!)


 姮娥(こうが)はいつもこうだ。以前、玉兎(ぎょくと)姮娥(こうが)の住んでいる沼について苦言を発した後から、どうにかして玉兎(ぎょくと)に泥をつけてやる……! と息巻いていた。

 けれどそれを簡単に許す玉兎(ぎょくと)ではない。

 気配を察知するが否や、素早く逃げていたのだ。


 《……しかし、今回はそうもいきません》


 話し合いの席で《破魔弓》の話が出たが、それを上手く防ぐ手立てを玉兎(ぎょくと)は持っていなかった。鉄鼠(てっそ)もそうだ。

 すると姮娥(こうが)がニンマリと微笑んだ。




 ──それなら()()()()がありますわ。




 《……まぁ、予想はついてはいましたが……》

 玉兎(ぎょくと)は溜め息をつく。


 姮娥(こうが)は元は美しい仙女ではあったが、欲が高じ天帝から怒りを買ってしまった。




 ──ガマとして生きよ!




 そう命じられて、いったいどれ程の時を過ごしたのだろう?

 おそらく姮娥(こうが)自身も、綺麗好きだったはずだ。けれどガマとして生きてきた年月は、仙女姮娥(こうが)()()()へと変えた。


『……』

 玉兎(ぎょくと)は顔を歪める。


 仕方のないことだとは思うが、美しい仙女がここまで変わるものか? と玉兎(ぎょくと)は解せない。

 今の姮娥(こうが)は、泥水大好きのただのガマ……に甘んじている。天女だったころの気品など、ガマの姮娥(こうが)には、ひと欠片もない。


 《日々の生活とは、なんとも恐ろしい……》


 そう玉兎(ぎょくと)が震えた時だった……!





 シュン──。


 シュン。シュシュン……!




『!?』


 カカカ……!

 と軽い音を立てて矢が飛んで来た……!

『な……!』

 玉兎(ぎょくと)は慌てて体を捻る。


 思えば当たり前のことだ。

 《破魔弓》を使うのであれば、当然《破魔矢》も繰り出す。

 それは太陽と月が存在することと同じように、至極当たり前のことで、事前の話し合いの場でも取り沙汰されたことだ。


 けれど耳の機能を完全に奪われた玉兎(ぎょくと)には、辛い状況だ。

 もともと玉兎(ぎょくと)は、この自慢の長い耳で、遠くの物音すら察知できることを誇りに思っていた。

 過信していたつもりはなかったが、いざ使えなくなると、なんとも歯痒かった。


『くそ……っ』

 思わず玉兎(ぎょくと)らしからぬ言葉が口をついて飛び出る。

 姮娥(こうが)が聞いていたら、真っ先に指を差して笑っていたかも知れないが、肝心の姮娥(こうが)も耳栓をしていて玉兎(ぎょくと)の言葉は聞こえない。


 ぎゅっと、玉兎(ぎょくと)の首筋を握ったのが分かった。

 《……姮娥(こうが)

 姮娥(こうが)もまた、聞こえないこの状況に不安を感じたようだった。

 心なしか玉兎(ぎょくと)を掴むその手が、微かに震えているように感じた。


 泥玉を耳の中に詰められて、ムッとした玉兎(ぎょくと)ではあったが、そんな事を言っている暇ではない。玉兎(ぎょくと)は矢が飛んで来る軌道を目測で予想しながら、出来るだけ素早く跳ね廻った。




 シュン……!

 シュシュ……。




『ぐっ……』


 けれど相手も、何も考えていないわけではない。

 追い込むように矢を射掛け、その数を増やす。

 逃げる速さが追いつかず、遂に矢が玉兎(ぎょくと)の体をかすり始めた。


 シャッ──。


『ぐぁ……っ』

 太ももを大きく削られ、玉兎(ぎょくと)は転がる。

玉兎(ぎょくと)……!』

 姮娥(こうが)は悲鳴を上げ、玉兎(ぎょくと)に走り寄った。

 走りよると共に、玉兎(ぎょくと)をひっつかみ、安全そうな低木を見つけ、その下に逃げ込んだ。




 シュン……!

 シュン、シュン……!




 矢は、それでも執拗に二人へと襲いかかる。

 まるで竹林の若竹のように、ニョキニョキと矢が地面に突き刺さる……!




 シュン……!

 シュン……!




 玉兎(ぎょくと)は堪らず唸る。


姮娥(こうが)……光の近くにいけば、私の眷属が──』

 そこまで言って、ハッとする。

 《そう、でした……。耳栓》

 耳栓の存在に気づき、玉兎(ぎょくと)は悔しげに唇を噛んだ。


 光が灯された場所は、そう遠くはない。

 せめてそこまで辿り着きさえすれば、玉兎(ぎょくと)の眷属であるウサギたちが、傷の治療薬である丸薬を出してくれるはずだ。

 けれどその説明すら、ままならない。

 自分で行こうと体をおこせば、傷ついた足から大量の血液が溢れ出した。


『……っ、()ぅ……』

玉兎(ぎょくと)玉兎(ぎょくと)……!』

 不安気な姮娥(こうが)の顔が見えた。

 玉兎(ぎょくと)は苦笑いをする。


 《やはり、侵入は無謀でした……》


 鉄鼠(てっそ)が止めるのも聞かず、今日決行する! と息巻いた二人だった。

 侵入するのは陰陽頭(おんみょうのかみ)である吉昌(よしまさ)の自宅。どう考えても無謀だった。




 シュン──!

 カ、カカカカ……っ!




 いく筋もの矢の軌道を見つつ、玉兎(ぎょくと)は半ば諦めかけた。

 低木に身を寄せたが、それももう持ちそうにない。二人はジリジリと交代する。




 ガコン──。




『……?』

 不意に何かの石に背中が触れた。大きな石なのに、不思議と()()は軽く、簡単に傾く。

 玉兎(ぎょくと)は不思議に思って、その石を観察した。随分昔の庭石の様にも見える。

玉兎(ぎょくと)……?』

 姮娥(こうが)玉兎(ぎょくと)の行動に気づき、振り返る。


 玉兎(ぎょくと)はそのぐらつく庭石を揺り動かし、ゴロン……と転がした。

『あ……!』

 思わず目を見張った。


 石の下の地面に何やら彫り込みがある。

 何かの呪印のようだ。

 文字は掠れ、よく確認が出来ず、玉兎(ぎょくと)はその文字を指でなぞる。

 すると──。




 パァァァ……。




『!?』

 二人は目を見開いた。


 光は微かで、直ぐに消えたが、なんの呪印なのか判別出来た。

『護りの呪印……?』

 ゴクリと唾を飲み込む。


 鉄鼠(てっそ)が言っていた。

 古い呪術が掛けられていると……。その呪印なのではないだろうか?


『……』

 二人は顔を見合わせる。

 声は聞こえないが、思っていることは同じだろう。


 微かに頷き合い、二人は呪印を調べることにした。




眠い〜( ¯꒳¯ )ᐝ


てなわけで、またしても推敲せず。。。

( [▓▓]_*˘꒳˘*)_スヤァおやすみなのー……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、ついに呪印に辿り着きましたね! 次でぇぇぇぇ!!
[良い点] 41/41 ・ガマ、ガマガマ、ガマガーマ。ガマがやたら記憶に残る [気になる点] 今、この瞬間に、天女に戻したい。 [一言] おつかれさまです
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