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月の手毬(月星雪✻②✻)下巻  作者: YUQARI
第一章 策略と侵入
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侵入方法

「お帰りなさいませ。吉昌(よしまさ)さま」

 自宅に戻ると、女房たちが、出迎える。

 吉昌(よしまさ)は、それには目もくれず素早く指示を出した。


澄真(すみざね)を休ませる。部屋の用意は出来ているか?」

「こちらでございます……」

 対応は迅速だ。

 帰る前に紙人形を飛ばした。事情は既にみんな把握している。


 吉昌(よしまさ)は案内されるまま、澄真(すみざね)を運んだ。


(さて、お膳立ては済んだ。妖怪どもは、どう出る?)



 吉昌(よしまさ)の思惑はこうだ。


 まず、屋敷の結界を緩める。

 今までは、これ以上にないほど結界を張り巡らせていたが、妖怪たちををおびき寄せるとなると、これが邪魔になる。屋敷に忍び込ませるどころか、覗き見る事すら叶わない。

 けれど、それでは計画が水の泡だ。


 妖怪たちから奪った《手毬》を、別の場所に移す事も考えたが、いかんせん吉昌(よしまさ)は忙しい。移動しても、ずっと監視出来なければ、意味がない。


 万が一、取り返されるようなことにでもなれば、一生の不覚。

 仮にもこの手毬は、陰陽師であった父親も探していたほどの代物だ。手放せば、今度こそ二度と拝むことは出来ないだろう。

 ならば……と、屋敷へおびき寄せる事にした。


 けれど、結界を緩めたとしても、用心深い妖怪のこと。簡単におびき出せるとは思っていない。


 目に見えない式鬼(しき)……ミサキの存在も、知れ渡っている。しかし、見えないからと安心する事は出来ない。妖怪たちの中には()()で感知出来る者がいるらしいのだ。


 だから簡単には忍び込まないだろう。

 まずは覗き込んで、様子を窺うはずだと吉昌(よしまさ)は踏んでいる。

 いつ覗き込まれてもいいように、ミサキには別の場所に移動させた。


 現に屋敷の周りでは、妖怪の気配がよくするようになった。

(いい調子だ……)


 けれど、それだけだ。一向に、忍び込まれる気配がない。

(……やはり用心深い)

 なかなか進展が望めず、イライラしていた所に、先日の白狐騒ぎである。


 (くだん)の白狐が澄真(すみざね)とじゃれ付いているだけなら、吉昌(よしまさ)もただの妖怪事件として、処理したかもしれない。

 しかし、澄真(すみざね)の報告によると、白狐の騒いだ蒼人(あおと)の屋敷に、ネズミが一匹忍び込もうとしたと言うのだ。


(ネズミ……)


 手毬の所在を突き止めたミサキの報告では、その近くには妖怪が三匹いたと言う。


 ウサギとガマ……それから《ネズミ》。

 蒼人(あおと)の屋敷に現れたネズミは、同じネズミではないだろうか……? と、吉昌(よしまさ)は睨んでいる。


(しかも、そのネズミと白狐は、繋がっている……)


 ネズミを祓おうとした澄真(すみざね)の前に、例の白狐が飛び出して、庇ったと言うのだ。

(何故庇う?)

 もともと妖怪は、他に興味を示さない生き物だ。それが庇った……となると。

(《仲間》……だろうな)

 そう思うより他ない。


 白狐は敦康(あつやす)さまの(めい)で、そうそう手は出せないが、ネズミは別だ。仲間であるネズミが悪さをしているとなると、上手く行けば、白狐も始末出来るかもしれない……。

 吉昌(よしまさ)は、薄く笑う。


(しかも白狐は今や、澄真(すみざね)との繋がりが出来つつあるからな。これを使わない手はない……)


 流石に人である澄真(すみざね)には、手が出せないが、妖怪わおびき寄せる餌くらいはなるかもしれない。


(自分の仲間を助けた白狐が、この屋敷に忍び込もうとするのを見れば、妖怪ども何とするだろう? 妖怪のサガで無視するか……? それとも……)



「まぁ。噂に違わぬ、美しいお顔ですこと……」

「……!」


 甲高い声が近くで上がり、吉昌(よしまさ)はムッとする。


 いつの間にか、眠っている澄真(すみざね)な周りに女房たちが集まって来ていて、盛り上がっていた。


 黙っていれば、見目麗しいのかも知れないが、いかんせん女どもは人の噂と事件が大好きである。起きている澄真(すみざね)には気味悪がって近寄りもしないクセに、眠っているとなると調子がいい。


見鬼(けんき)の才がおありなんですって」

「何でも、人と物の怪の区別がつかないほどなのだとか?」

「見て見て、この御髪(おぐし)! このような髪は見たことございませんわ」

「陽の光を反射して、まるでお月様のようでございますわね……!」


 女房たちの話は尽きない。

 吉昌(よしまさ)は、はぁ……と溜め息をつくと、手を振った。

「こらこら。澄真(すみざね)玩具(おもちゃ)にするな。仕事へ行け。仕事へ……」

 すると女房たちは膨れる。


「まぁ! 吉昌(よしまさ)さまったら、わたくしたちは仕事をしているのですよ!」

 ぷりぷり怒って、反論する。

「……し、仕事?」

 まさかの反論に、吉昌(よしまさ)は面食らう。


「ええ! そうですわ! 澄真(すみざね)さまは眠っていらっしゃいますけれども、お客さまなのでございましょう?」

「……。まぁ、そうだが……それが……?」

「ならば! わたくしたちが、お世話申し上げるのが筋でございましょう!」

「……」


 女房たちに圧倒され、吉昌(よしまさ)は、何も言えない。


「あ、ほらお怪我をされておりますわ……!」

 誰かが言った。


「まぁ、汚れているではありませんの! わたくしが、お薬を替えて差し上げましてよ……」

「わたくしがしますので、貴方はお薬箱をお持ちして……?」

「え? 何を言いますの! わたくしが……」


「あぁ! うるさい! お前たちは下がれ! これの世話などせずとも良い!」


 我慢できずに、吉昌(よしまさ)が叫ぶ。

 でも……と言葉を返す女房たちをギロっと睨む。

「それ以上騒ぎ立てると、夜中に怨霊が出て来るぞ……!」

 暗に、《呪うぞ!》と脅す。


 女房たちは一気に青くなる。吉昌(よしまさ)に言われては、冗談で済まなくなる。

「……そ、そう吉昌(よしまさ)さまが仰せられるのでしたら、致し方ございませんわ……わたくしたち、傍へ控えておりますゆえ、何かございましたならば、お呼び下さりませ……?」


「……。あぁ。分かった」

 言いながら、絶対呼ぶものか……と吉昌(よしまさ)は思う。

 女房たちは仕方なしに、しずしずと消えて行った。


(……あいつらは、嵐か……)

 どっと疲れが出たが、これからが本番だ。


(さて、どう出る?)

 予定外だったが、蒼人(あおと)も後を追って来ると言っていた。


 蒼人(あおと)のために門を開ければ、結界は更に弱まる。

(その時を狙って入り込むやもしれん……。門に紙人形でも置いておくか……)


 ついでに攻撃するよう、仕掛けておこう。


 ……そうほくそ笑み、吉昌(よしまさ)は妖怪たちが来るのを、今か今かと待ちわびたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 待ち伏せは当然分かっている? 鼠の毛で陽動かっ。 [気になる点] 手毬の核心にそろそろくるのでしょうか? [一言] 白雪姫。小人は妖怪たちで。
[良い点] 4/4 ・なにこれ、きゃあきゃあ黄色、黄色い声よ [気になる点] 狐さん、どう飛び込むか、まずネズミかな? はげ分身 [一言] すみさんまじヒロイン
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