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月の手毬(月星雪✻②✻)下巻  作者: YUQARI
第五章 奪還作戦
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援護

「んー……。すぐ側まで()よるね……」


 醜鬼(しゅうき)は木の上で、足をパタパタしつつ、眼下の世界を感じ取った。

「ガマとウサギかぁ。……あのウサギ、少し懐かしい匂いがする……」

 ふんふんと鼻をひくつかせ、醜鬼(しゅうき)は呟いた。

 けれど、どこで嗅いだ匂いなのか分からない。それはもう、随分と昔に嗅いだ懐かしい匂いだ。


「なんの匂いだっけ? ……うーん。思い出せないぃぃぃ……」

 喉まで出かかっているのに、答えが出せず、ムズムズする。

 醜鬼(しゅうき)はバタバタと、大イチョウの木の上でもがいた。思い出そうとすると、ズキズキと頭が傷んで、涙が出そうになる。

 心が、ひどく悲しいと叫び声を上げた。


(思い出しちゃ、ダメな奴かな?)

 ぼんやりと思う。


「まぁ、いずれにしても、あの妖怪たちには、ここに来てもらわないと……」

 醜鬼(しゅうき)は考える。


 もしもここまで妖怪たちが辿り着けなかった場合、吉昌(よしまさ)はここには来ないだろう。

 醜鬼(しゅうき)はムッとする。

 正直、待つのに飽きてしまった。

 木の上から降りて、走り廻りたい気持ちでいっぱいだ。

(お腹も空いたし、そろそろ決着つけたいんだけど……)


 けれどそう簡単には、いかないようだ。


 人間は人間で、ウサギの妖怪の薬玉にやられ、気が立っている。何としても仕留めるぞ! とする気合いが見られた。

「……うわぁ、めんどくさい」

 醜鬼(しゅうき)は唸る。


「アイツら、ここまで来れるかな……?」


 気配を探れば、人間たちは破魔の弓を持ち出し始めた。醜鬼(しゅうき)は唸る。ただの妖怪たちにとって、破魔の弓は存在自体が脅威だ。弾く音だけでも、動きを封じられるというのに、そこに矢を(つが)えられれば、的になるしか術はない。

 醜鬼(しゅうき)は、うーんとうなると、自分の眷属を呼んだ。


「ねぇ、誰かいる?」

 ぷらぷらと足をぱたつかせ、醜鬼(しゅうき)は木の下を見る。

 するとすぐに、『あーい!』と返事が返ってきた。

『なになに? なんなの? 醜鬼(しゅうき)さま、お呼びですか?』

 子だぬきたちが、短い足をパタパタと動かして、ウキウキと走りよる。


「うん。お前たちに、仕事して欲しいと」

『分かったのー。何でもするの。何するの?』

 可愛らしく小首を傾げ、内容を尋ねる。


「この池と繋がっとる川が、崖になっとる(とこ)があったい?」

「あい」

 醜鬼(しゅうき)の言葉に、子だぬきたちが、頷く。

「そこから、ガマとウサギが走って来よるとだけど、人間たちが邪魔しよる。だけん、ウサギとガマを助けて欲しいと」

 醜鬼(しゅうき)が子だぬきたちに言う。


「あい! 分かったと! ガマとウサギを助けるのー!」

 おー! と子だぬきたちは拳を振り上げる。可愛らしいお腹が、たぷんとなった。


 醜鬼(しゅうき)は、ウンウンと頷きながら、でもね……と付け足す。

「人間関係たちは、《破魔の弓》を出して来たから気をつけて……?」

『……は?』

 子だぬきたちは目を丸くする。


「うん。だから《破魔の弓》だよ。気をつけて?」

『……。醜鬼(しゅうき)さま? 破魔の弓は、どう対抗すればいいの……?』

 プルプルと震えながら、一匹の子だぬきが尋ねる。


 醜鬼(しゅうき)はプーっと膨れ、ムッとして眉をしかめた。

「もう、そぎゃんこつも知らんと?」

 醜鬼(しゅうき)がムッとした事に、子だぬきたちは焦る。

『もももも申し訳ありませんっ! もっと勉強して来るの!』

 言ってワタワタと走り出した。

 醜鬼(しゅうき)は更に眉を寄せ、おしりから太く長いしっぽを出す。




 ビタ──ン!




 しっぽをしならせながら、木の上に寝そべったまま、地面を叩いた。




 グラグラグラ……。




『!』

 軽い地響きが起こり、子だぬきたちは尻もちをつく。それからブルブルと震えながら、木の上にいる主を見た。


「……いちいち、五月蝿(うるさ)かと……!」

『!』

 ギリッと紫色の瞳で睨まれ、子だぬきたちはパパッと跪く。

 ギロリと静かになった子だぬきたちを眺め廻し、醜鬼(しゅうき)は口を開く。


「破魔の弓は、その《音》から直接、頭ん中に衝撃ば与えるけん、出来るだけ音が聞こえんごつすっとよか。耳栓ばしときなっせ」

『……』

 子だぬきたちの目が細くなる。


「あ! その目! なんなん!? 信じとらんと!? 本当とにっ!!」

 キィーッ! と唸り、ビシビシ! と大イチョウの幹を叩いた。

「だけど、矢の威力まではどうにも出来ん。……ん? 待てよ。アレならいける……うん! ()()を使え!」

 バーンと両手で幹を叩いた。


 子だぬきたちは(おのの)く。

『あ、()()?』

()()を使うの!?』

『え? でも、()()したら、どうするの……!?』

 言って子だぬきたちはヒィ! と震え出す。


「大丈夫大丈夫。()()は特別製だけん、すぐには壊れんごつなっとる。第一ウチら、本当は妖怪やないもん。もしかすると破魔の弓の音も、平気かもって思うとだけど、用心に越したこつはなかけん、耳栓ばしときなっせって言いよるの!」

 醜鬼(しゅうき)の説明に、子だぬきは『なるほど』と納得する。


『分かったの! それじゃ、早速行ってくるの!』

 おー! と再び子だぬきたちは拳を振り上げ、パタパタと走りつつ姮娥(こうが)玉兎(ぎょくと)のいる崖へと向かって行った。


「……」

 醜鬼(しゅうき)は、そんな子だぬきたちを見送る。

「しまった。ウチと代わってもらえば良かった……」


 しかし今更気づいても、もう遅い。子だぬきたちは、小さな点になって消えていった。


「でも、決戦はウチじゃないと、いかんけん……」


 そう呟いて、醜鬼(しゅうき)は一人木の上で、丸くなった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] お、兎の次は狸だぁ! [気になる点] 助けに行っても、地形が変わってるとか??
[良い点] 39/39 ・アレですかアレ、アレ……なんじゃあーー! [気になる点] 貫通したら、助かりませんねw [一言] ガマと兎、焼くとうまそう
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