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月の手毬(月星雪✻②✻)下巻  作者: YUQARI
第二章 奪還
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悪霊の珠

 しかし吉昌(よしまさ)には、少し疑問に思うことがある。

 姮娥(こうが)の様子だ。


 確かに吉昌(よしまさ)に向けて、ひどい悪意を感じはするが、それ以上でも以下でもない。狐丸が《ダメだ!》と制止すれば、素直にそれに従っている。

(いや、むしろ、白狐の言いなりだ……)


 時に、狐丸を諭す姿も見られるのだが、狐丸が強い口調で姮娥(こうが)をたしなめれば、姮娥(こうが)は歯噛みしつつも従うのである。


(悪霊の珠を欲しいままにする妖怪が、そのような事をするのか……?)

 吉昌(よしまさ)には、それが理解できない。


 悪霊の珠は、その名の通り、巨大な怨霊を呼び起こし、世界に混沌を生む。

 それを掌握せんとする妖怪が、こんなにも()()()はずがない。


(……この妖怪だけじゃない)

 吉昌(よしまさ)は考える。


 最初に報告を受けた、ミサキの話に出てきた妖怪三匹は、けして利口な妖怪ではなかった。ただただ、毬を転がして遊ぶ子どものようで、その報告を受けた吉昌(よしまさ)も、少々面食らってしまったほどだ。




(もしかして、《珠》違いか……?)

 あの時……ミサキの報告を得た時、吉昌(よしまさ)は、ふとそうも思った。

 けれど実際目のあたりにしたその手毬は、禍々しくも怨念をまとわりつかせ、どす黒い瘴気を放っていた。

(……いや、間違いない)


 一瞬は自分の勘違いだと思い、また悪霊の珠に手が届かなかったと、落胆したのだったが、珠を見てその想いは吹き飛んだ。

(間違いなく、()()だ……!)


 妖怪ならいざ知らず、人の子が触れることは到底出来そうにないその瘴気に、吉昌(よしまさ)はあてられそうになった。間違いなく、この珠だ。

 もし、この珠ではない……としても、これはこれで浄化せねばならない物だと、見れば瞬時に判断できた。




(しかし、……人の世を潰そうとする妖怪が、こんなにも他を尊重するものなのか……?)

 吉昌(よしまさ)は、眉をしかめる。


(もしや、そもそもの根源が、この白狐なのだとしたら……?)


 思いながら、吉昌(よしまさ)は狐丸を見る。

「……」

 狐丸は目を伏せ、一点を見つめ、何を考えているのか分からない。

(……虫すら殺せぬような顔をしているのに)

 しかし相手は所詮妖怪なのだ……と、吉昌(よしまさ)は自分に言い聞かせる。


 どんなに幼い容姿だろうと、儚げであろうと、妖怪は妖怪。腹に一物も二物も持っていそうな輩たちだ。油断は出来ない。

(しかしそうなると、面倒な事になる……)

 吉昌(よしまさ)は手を口に当て、小さく唸る。


(この妖狐は、保護せよとのお達しだ……)

 敦康(あつやす)(めい)が、重くのしかかる。

 吉昌(よしまさ)としては、そんな命令など無視して突き進むつもりではあるのだが、事はそう簡単ではない。

 敦康(あつやす)を傷つけないように、事を運ばなければ、相手は帝の嫡男。ややこしい事になるのが、目に見えていた。


 しかしそれが事実なら、早めに手を打たなければ、澄真(すみざね)が危うくなる。

(……いや、冷静になれ)

 吉昌(よしまさ)は目をつぶる。

(澄真(すみざね)は、異様なほど妖狐の肩を持った……)

 それは吉昌(よしまさ)の目には、奇異にもうつる。

(もしや、澄真(すみざね)も一枚噛んでいて……)

 そんな思いが頭をもたげた。


「……」

 それは有り得ない事ではなかった。


 吉昌(よしまさ)の生まれた家は、父も兄も()()()であったから、それ程の苦労はなかったが、本来()()()は迫害を受けるものだ。

 澄真(すみざね)にとっては、それが他よりも顕著(けんちょ)だった。

 視える事のみならず、その色素の薄さ……ただ薄いだけではなく、燃え尽きた灰のような、深く冷たい青を帯びた鉛色……。


 人付き合いなど、ほとんどない。

 鬼の視える者の多い陰陽寮の中でも一際目立ち、誰とも話そうとしない。

 確かに、話しかけられれば言葉も発するが、それだけだ。誰が話しかけなければ、一日中黙って過ごすのである。

 例の澄晴(すみはる)の子……と言うのも、澄真(すみざね)に近寄ってはならぬ! と言う暗黙の了解に拍車をかけた。


(あれ程となると、人を憎んでも不思議ではない……)

 吉昌(よしまさ)は、澄真(すみざね)を哀れにこそ思い、非難しようとは到底思えなかったのである。


 澄真(すみざね)に関わりがあるのかないのか、現時点では判断がつかない。けれど、万が一、澄真(すみざね)が関わっていたとしても、それは人との関わりが少なかったが為の過ち……そう吉昌(よしまさ)は思っている。

(妖怪とは、やっかいな……っ)

 目を開け吉昌(よしまさ)は、歯を食いしばる。


(そうであるならば、何としてでも澄真(すみざね)を救う……!)

 そう、心に決めた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 15/15 ・なにこれ楽しいw  よっちゃんどんだけ悩みまくるんを [気になる点] んでタマ、謎ボール出ましたね [一言] どんなかおしてるんでしょうねw すごそう
[良い点] どんどん、心理戦になってきましたね。女性ならでは? なかなか深い。こういうの、私は、あんまり得意じゃないかも。
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