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DATA:005 勇者と魔王

「ふーん、その子のお守りが雑用?」



アミラから雑用をしろと命令をされて、問答無用で連れてこられたシントの部屋。

嗚呼、一日のうちに二回もこの悪趣味な扉を見る羽目になるなんて、誰が思っただろうか?


そして、中に入った途端、シントが迷惑そうな顔をした。


…………何だよ。こっちだって好きで来たんじゃないよ。

アミラに行けって言われて、無理やり連れてこられたんだよ。

そういう顔するなよ。……ちょっと落ち込むから。


すると、後から入ってきたアミラが、シントに事情を説明する。

彼の表情は、すぐに迷惑そうな顔から納得したような顔に移り変わった。

……ん? 納得? 何を?


シントが、なにやら後ろに向かって一言二言話し掛けた。

あれ、誰か居るの?

と、思ったのもつかの間。

すぐに、後ろから子供が現れた。


黒い髪に黒い瞳の男の子だ。

そして、マントらしきものを着ている。

まだまだ幼い。シントよりも年下なのは確かだ。

六歳くらいか、それよりも下だろう。


その男の子は、可愛い顔をしている。

いや、子供だから、私はセーフだけど。

苦手では、無いけど。


「その子のお守りが雑用?」

「いや。そんな簡単な話じゃねーんだ」

「簡単じゃない? ……まさか、その子、訳あり、とか?」

「まぁな」


さて。ミィは、と言えば。

ずぅっと私の隣りに居るんだけど、一言も喋らない。

……? 何したの?


「あの!」


ミィが、シントの言葉を割って、真剣な顔で大きな声を出した。

……どうしたの?

なんか、すごく深刻そうだけど。


「その子……名前は、なんて言うんですか?」


ミィは尋ねた。

それ、シントの説明を中断させてまで、今どうしても訊かなくちゃいけないこと?

君は空気を読む能力も無いのか。


「……分からん」

「え?」

「実は、その事も含めて、そいつは訳ありなんだ」

「どういうことですか?」

「実はな、つい先日、この国の貧困街の路上に住む子供たちを保護したんだ。

こいつも、その際に保護した子供の一人。まぁ、それだけなら別に良かったんだが……。

たまたま其処に居合わせた神官の一人がな、こいつはこの世界の人間じゃない、って言ったんだ。

で、ちょっと確認してみたら、確かにこいつはこの世界の人間じゃなかった」

「…………ちょ、ちょっと待って下さい……。『この世界の人間じゃない』?」

「まぁ、お前らと一緒ってことだ。異世界人、てとこだな」

「ああ、なるほど」


……発見。どうやら、シントは説明が上手いらしい。

あのミィにも分かるような説明なんて、なかなかできるもんじゃない。

シント、やはり国王なだけある。

…………説明の腕なんて、役に立ちそうで立たない気もするが。


「で、そこで。俺たちが立てた推論。こいつは、別の国の勇者召喚システムによって召喚された子供だと仮定を立てた。

そして、勇者召喚が出来るほど魔道の技術が進んでいて、尚且つ勇者召喚に興味を持っている国を調べた結果、隣国のリン・マカの可能性が非常に高いという結論に達したというわけだ」

「はい」

「……で、それを私たちにどうしろと?」

「本当にリン・マカの召喚した勇者なのかどうか、リン・マカへ行ってきて確かめて欲しい」

「それは、なんで私たちが?」

「人手が足りない」


ばさり、とシントは言い放った。

はっきり言うなぁ。


「それに、勇者として旅をするのも悪くないだろう。

いつまでも城でだらけてたんじゃ、召喚した意味が無い。お前らには強くなってもらわなきゃならん」

「まぁ、それは私も思ってたけど」

「そういうわけだ」


シントは、手に持った資料を机の上へ置き、部屋の中央にあるデスクワーク用の机と椅子へと近づく。

そして、当然のように机の両脇に紙の束がどどーんと積み重なっている間から、シントは顔を出した。

私たちからは、なんとか顔が見えている状態だ。

何せ、紙の量が半端無い。


そして、シントは改まったように私たちに向き直った。


「さて。此処まで説明をしておいてなんだが、お前達には確かめておかなきゃならないことがある」

「確かめる事、ですか?」


ミィは、不思議そうに尋ねた。

もちろん、私もこの彼のセリフに何の疑問も持たなかったわけではない。

私は黙ってシントの次の言葉を待った。


「この国から一歩出れば、魔物、魔族がうじゃうじゃいる。当然、隣国へ行く為には戦闘も必要になるだろう。

その戦闘の際に命を落とす可能性だってある。

だから、お前達の意志を訊いておく必要があるんだ」

「…………」

「お前らは、この世界の為に死ねるか?」


シントの声には、力があった。

そして、ぎらりと光るような目力。

さすが一国を治めているだけある、と思った。

そうか、こんな少年でも国王なのだ。

威厳がある姿くらい出来なくてはいけない。


「わ、私は、あの時言いました」


ミィが、震える声で言った。

そうだね、ミィは、こういう風に自分の意見を主張するの、苦手だったね。


「足を引っ張るかもしれないけど、よろしくお願いします、って……。

其処まで言ったからには、無責任なことは出来ません。

死ぬ可能性があっても、私はこの世界の為に戦います。

私を必要としてくれる限り、この世界で戦いつづけると誓いますっ!」


ミィは、言い切った。

うん。頑張ったよ、ミィ。

あんた、ほんとにこういうの苦手だもんね。

昔から他の人の前に立つだけで可哀想なくらい震えてて。

そうだね、良く言い切ったよ。あんたは、ほんとに、凄いよ。


「……ルイは、どうなんだ?」

「右に同じよ。

私もね、あの円の外に出たときに腹括(はらくく)ったの。

一度決めた事くらい、最後までやり通せる。

……この世界の為に死ぬ気は無いけど、自分の誓いを守るために死ぬ覚悟ならあるわ」


私も言い切った。

ミィは、「ルイちゃんかっこいい……」と小さな声で呟いた。

うん、ミィ。私は何て君に返したらいいんだい?


「よし、確認は済んだな。では、さっそく出かけてもらう」

「ちょ、待ってよ。もしかして、私とミィの二人で行けとか、そういう無謀なこと言っちゃう?」

「流石の俺も其処まで無謀なことは言わない。せっかく呼んだ勇者を見殺しにするようなまねするか」

「あ、そう」

「今のこの国で最高の戦力。ジナとレオンハルトに同行してもらう」

「ああ、あの二人ですか!」


ミィは嬉しそうに言った。

……もしかして、知り合いになったの? 何時の間に?


私も、一応誰かは分かるけど。

魔道部隊の隊長と、騎士部隊の隊長。

ついさっき戦っていた、あの二人だ。


「あいつらにはさっき説明をしておいた。もうすぐ来るだろ。来たら、さっさと行け。以上!」

「……うわ、そこはてきとーなんだ」

「ああ、そうだ。城の外に出るんなら、ルイのその髪は染めた方が良いな」

「へ? なんで?」

「黒の髪と瞳は、凶事の前触れとされているんだ。快く思う奴はまずいない」

「ああ、そうなんだ……」

「アミラ、ルイとあのガキの髪と眼の色を染める手配をしとけ」

「はい」


今まで、ずぅっと無言だったアミラが始めて喋った。

ああ、そういえばずっと居たんだよ? アミラ。

シントの後ろに、控えてたの。存在感全く無かったけど。


そうそう、ミィの髪と瞳は結構日本人離れしてて、亜麻色の髪に茶色の瞳。

なんか、外国人の血が混ざってるとかいないとか。



そして私は、髪を染める為に、この悪趣味な扉を開けた。






とまぁ、そんなこんなで、私たちの初めての勇者としての旅は、もうすぐ始まろうとしていたのでした。





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