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DATA:004 勇者と魔王

「へぇ。それってつまり、魔道に関する制度があるってこと?」


 異世界に辿り着いたのが昨日だった事もあり、私たちは今、お昼ご飯をいただいたあと、お城の中を探検させてもらっていた。探検、と言ってもあちこち歩き回って見学をしただけのようなものだったけどね。

 そのときメイドさんやら護衛の人やらから話を聞いたりして、ここの世界観の大体のイメージをつけた。この国、フィーア国は中世のヨーロッパらへんの町並みの外観。そこに魔道やらの制度や歴史を足しているみたい。けど、城から見下ろす町並みを一見のところそれは全然分かんない。なんでも、魔道というのは使える人間がごく少数なのだそうで。

 さて。そんな探検も終えて、部屋でのんびり休んでいたときのことだ。突然、窓のガラスをカタカタと揺らすほどの轟音が鳴った。いや、実際に音の所為でガラスがなったのかはあやしいけどね。


「な、何この音?」

「なんだろねー?」


 私は吃驚して、急いで立ち上がり窓の外を見る。ミィは落ち着いたものだ。の、のんびりしすぎじゃない……?

 この部屋は、私とミィの二人部屋として用意された部屋だ。この部屋の窓の外には、この城の広場が見える。今は何故か、その広場に大勢の人が集まっている。

 青色の鎧を着た数十人ほどの男達。女の人は居ないみたい、だな。

 そして次に多いのが、黒または白のローブを着た人達。えーと、さっき会ったあのジナが着ていたやつによく似ているんだけ、ど。あいつが着ていたやつの方が装飾が激しかったかもしれない。

 ともあれ。その場所は、広場の端から端まで人で溢れ返っていた。


「? これ……何があるの?」

「知りたい?」


 そう言ったのは、アミラだった。今はヅラをつけていて、女仕様。

 うう、女のヴァージョンはすっごく綺麗なんですけど! 私よりも綺麗だ。や、うん…………当然か。


「アミラさん。これ、何なんですか?」

「これはね、月に一度の王宮武闘大会なんです」

「ってか、もういいよ、敬語は使わなくて。本性は知ってるし」

「大会?」

「……ああ。この国の、騎士部隊vs魔道部隊。どっちが強いか、毎月戦ってるんだ。今日は、月に一度のその日。見に行くか?」

「………どうする? ミィ」


 ミィは、好奇心に目をキラキラさせている。

 ……うん、答えなんて聞かなくても分かったよ。そうだね、今、暇だもんね。






*****






 熱に浮かされたような、奇妙な高揚感が会場を包んでいた。鼓膜が破れるような、たくさんの人々の雄叫び、悲鳴。私は少しだけ、ここに来たことを後悔した。

 それでなくてもうるさいのに、私たちが会場についたとき、一際大きな歓声が上がった。

 どうやら、ちょうど戦いが終わったらしい。

 耳をふさぎたくなるような大きな音の中、私たちは少し離れた場所から戦闘を見ていた。


「あ、ほら、次はジナが出ますよ」

「ジナ? ああ、さっき王様のとこに居た、子供っぽい……」

「ええ。あんなのでも黒魔道部隊の隊長ですからね。トリですよ」

「…………え? 隊長?」

「はい。隊長」


 にっこりと、それはもう完璧な笑顔をされて、分かるかな、とでも言いたげな視線をよこされた。馬鹿にしてんのか、変態アミラ!

 …………てゆーか、


「敬語じゃなくていいっつってんじゃん。気持ち悪い」

「そうはいきません。誰が聞いてるか分からないので。気持ちわりーのはがまんしろ」


 うっわ、二重人格。

 そして、さっきのアミラの話どおり、黒いローブを着たジナがリングの上に乗った。それだけですさまじい声援が上がった。思わず耳を塞ぎたくなる。煩すぎて。

 この場に居る男女比はだいたい男六、女四、ぐらいなのに、どう聞いても男の野太い声よりも、女性の気が狂ったような黄色い声の方が多い。へえ、ジナってモテるんだー。

 そしてそして、ジナの反対側。つまりは対戦相手も、続いてリングの上へと上がる。と、これまたさっきと巻けず劣らずの声援が響いた。ジナほどじゃあ無いけど、こっちも黄色い声多し。


「騎士側は、レオンハルトのようですね」


 アミラが説明してくれる。

 そのレオンハルトと言う人は、騎士部隊の隊長のようで。つまり、ジナとレオンハルト。隊長対決、ということらしい。

 で、彼の容姿ね。レオンハルトの方は、青い鎧を身につけ、剣を腰に差していた。決まりなのかどうなのか、兜はつけてないから、顔は見える。…………うん、アウトですね。

 意志の強そうな太目の眉に瞳。唇は一文字に結んであって、いかにも硬派、というような顔だ。

 ……えー、個人的な見解では。ジナよりはまし。でも、この人もカッコイイ部類に入るので苦手。ジナが苦手度85だとしたら、この人は75。ついでにアミラは90。

 まぁね、もっとも、アミラが90なのは、男ヴァージョンだったら、の話だけど。


「……女なら、大丈夫なのになぁ……」

「悪かったですね、男で」

「男には……見えないよなぁ…………」

「当然です。見えないようにしてるんですから」


 アミラは、にこりと笑って言う。ああ、この綺麗で邪気が全く無い笑顔が作り物なのか……。一体、この世の何を信じたらいいのだろうか?


「レディー……ファイ!!」


 そんなくだらない話をしてたところ、いつの間にか、二人の戦いが始まった。ミィは、大きく手を振って、ついでにぴょんぴょん跳ねて、ジナ君頑張ってー、と叫んでいる。

 ジナ君って! 友達かよ。ついさっき知り合ったばっかなのに?

 とりあえずミィは放っておいて、戦いの方に意識をやった。

 私が彼らを見たとき、騎士のレオンハルトは剣を構えたところで、ジナは右手を上げたところだった。もちろん二人の距離はそこそこあるので、中距離なら魔道の方が有利。呪文を唱えたのかどうなのか、私の位置からは見えないけど、何か光が彼の右手から発射される。そして、レオンハルトの近くで小さな爆発。

 わお、すごい、ほんとに魔法だ。

 その後は、彼らの動きを目で追うことが出来なかったのだけど、多分、レオンハルトがその爆発を恐れずに前進し、ジナと接近戦に持ち込んだ、というところだと思う。煙が晴れたら何故か、彼が振り下ろした剣をジナが杖らしきもので受け止めている体勢で、膠着状態にあったから。

 ジナはなんとか距離を取ろうとレオンハルトの剣を払うが、その度に彼の剣は角度を変えてジナを襲い、なんだかレオンハルトが優勢に見えた。あ、素人目だけど。

 そしてそんな状況に焦りが生じたのか、ジナが杖を盾にして剣を受け止めている状態のまま、ぴたりと止まってしまった。何したんだろう、今まで忙しく動き回っていたというのに。そう思ったのは私だけではないらしく、レオンハルトも不審そうな顔をした。

 それもつかの間、横顔だから良く見えないけど、ジナが笑う。多分。ニヤリと。

 レオンハルトの吃驚した顔とジナの笑った顔が、閃光のような光に包まれ、爆風と共に轟音が鳴り響く。さっきと一緒だ。一番最初の、ジナの先制攻撃。

 思った通りというかなんというか、爆心地は彼らが居た場所、というかジナの手の中らしく、その辺りの地面だけが黒く焦げ付いている。

 死んだのか、と私は思ったけど、レフェリー…………いや、審判の人が慌てて生死の確認したところ、命に別状はないらしい。

 あからさまに、ギャラリーの女性人がほうと安心したような息をつく。でも、二人とも立てなくて試合が中止だと告げられると、残念そうな声をあげる。忙しい人たちだ。


「……アミラ、」


 私は爆心地に目をやったまま、その人の名前を呼んだ。


「はい?」

「魔道って、どうすればできるの?」

「……え?」

「魔道って、すごいね! カッコイイ!」


 と、まぁ、すっかり魔道の魅力の虜になってしまって。魔道カッコイイ! 魔道最高! としきりにアミラ相手に叫んでいた。

 私の、今までに無いミーハー的なハイテンションに、最初はアミラも驚いていたようだけど、次第に慣れたようで、面白いものを見るような目で私を見出した。


「魔道ってどうすれば使えるようになるのっ?」


 私がそのミョーに高いテンションのまま、アミラに尋ねたところ、かの………いやいや、彼はふわりと微笑んだ。すっごく優しげな、慈愛に満ちた表情で。

 …………ええ、正直に言いましょう。少し、ドキッとしました。

 だって、だってね! 今はすっごい美女だし、あんな微笑み、性別問わず、誰だってドキリとすると思うんだよ!


「…………どうやら、職業は決まったようですね」

「……へ?」

「魔道を使うには、魔道を使える職業に就く必要がありますから。槍使いは魔道を使えない。となると……」

「赤魔道師しか無い、てことね?」

「そういうことです」


 赤魔道師という職業がどういうものか、私にはさっぱりだ。でも、赤魔道師になると、魔道が使えるらしいのだ。私が魔法使いとか魔道師とか、そう言うのと全く縁の無い、科学の世界の住人であるにも関わらず。そりゃあ、当然、一つ返事でオッケー出すに決まってるじゃん?


「では、ルイさんの職業も決まった所で…………」

「ん、何?」


 アミラは、にっこりと笑った。さっきの微笑みとは違う。

 …………嗚呼、黒い。どす黒いオーラが何故か見えるようだよ、アミラ。



「雑用でもやってもらいましょうか」



………………はぁ?

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