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DATA:003 勇者と魔王

 ドアを、見上げる。


 下地は赤。

 ところどころちりばめられている金。

 モチーフにされ、黒で描かれた鴉。

 四隅を青で飾っている花。


 アミラさんが止まった場所は、なにやらもの凄く豪華そうな扉の前だった。

 私たちの身長の倍はあるんじゃないかと言うくらい大きな扉にされている装飾。

 それは、とてもじゃないが私程度じゃ価値は測れない。

 が。


――――なに、これ?


 この扉を一言で言うならば、悪趣味の一言につきるだろう。

 いや、高価な扉なのだろう、とは思うけれど。恐らく本物の金箔なのだろうとは思うけれど。

 少なくとも私の趣味ではない。少なくとも一般庶民の感性には合わない。少なくとも……変。

 …………お金持ちの考える事は、分からない、と言うことだろうか?


「さぁ、入ってください」


 アミラさんは、大きな扉を片手で開けて、私たちを先に中へと入れた。

 あ、あれ? 重そうな扉なのに、軽々と開けた? 意外と力持ちなのかな、アミラさんって。

 そして、わくわくしながら中を覗く。扉があの装飾だもん。部屋の中には、金持ち趣味のきんきらきんなものがいっぱいあるんだろうなって誰だって思うでしょう?

 さてさて。私と皆の意識のすり合わせといきましょうか。まず私の頭に浮かんだのは、鹿の頭の剥製だ。そして、赤い絨毯。シャンデリア。

 うん、こんなもんかな。私の頭で、金持ちからで連想されるのはこんなものばかりですとも。どーせ、貧乏人ですよ。貧相な発想しか出来ませんよー。

 いやでも、一般庶民ってやっぱりこういうの思い浮かべると思うんだけど、どう思う? あと、絵画とか。花瓶とか。

 ……とまぁ、貧乏人の思考回路の話は置いといて、その悪趣味な扉の部屋の話だ。

 なんと、部屋の中は。


 紙まみれでした。


「な、何これっ?!」

「紙がまるで雪みたーい」


 ゆ、雪?

 ミィ……いや、ちょっとそれは……。

 確かに、ね? 積み重なった紙は天井に届く勢いで、その天井近くのはるか頭上から紙がひらひらと落ちてくるけどね。一面真っ白で、雪景色と良い勝負だけど。

 よーく見て! 本当にA4サイズの紙が雪に見える?


「……この部屋、何?」

「国王の私室です」

「ええ?! 王様の部屋? ってか、そんなとこ勝手に入っていいの?」

「大丈夫だと思いますよ? ノックしても聞こえないですし」

「そ、そんな適当でいいんだ……」


 いいのかなぁ。一国を治める王様の部屋なのに、そんな適当で。

 大事な書類とか、それこそ国家秘密レベルの書類がこの部屋に置かれているかもしれないわけでしょう?


「あ、陛下。こんなところにいたんですか?」


 そう言ってアミラさんが声をかけたのは、紙の山の向こう側。どうやら机らしき物の上に積みあがっている紙の、向こう側だ。私たちからは、丁度見えなくなっているところ。


「あー? アミラぁ? 何で居るんだよ、お前」

「例の勇者を王に紹介しようと思いまして」

「勇者ぁ? んだよ、めんどくせぇ……」

「そのままの格好でいいですから、早く彼女達の前に出てください」

「ったく……」


 などの会話が、ぼそぼそと聞こえてくる。

 おいおい、面倒とか聞こえたぞ? 本人が居る前で面倒って、いくら王様でも許されるもんじゃないと思うよ? 失礼にもほどがあるでしょ! それでも国王か!

 そして、紙の向こう側から、国王が顔を出す。なんと。


 私の前に現れた国王は……少年だった。


 私の視線の先よりも、下。目線の下の下。男の人が来るのだろうと思い、自然と上がっていた視線を、自分の頭よりも下へと下ろす。

 身長は、百三十か四十くらい。年齢的に、十歳……にも、まだなってないかも。

 その男の子は、青い髪をしていた。その綺麗な髪は男としたら長いほうに切られていて、その髪型はなんとも少年らしい。

 …………私の独断と偏見で言うならば、サッカー少年。野球ではなく、サッカー。ええ、私の勝手なイメージでしかないですが。

 それに、なかなか可愛い顔をしている。子供だからまだギリギリセーフだけど、あと三年ぐらいしたら、私の苦手なカッコイイ男になるだろう。


「こちらが、このフィーア国の国王です」

「第十三代国王…………シントだ」

「今、名前省きましたね? 自己紹介をするときは名前は省かずに、と何度も申したでしょう」

「長いんだよ。どうせ、言ったって覚えられる訳ねぇんだからいいだろ」


 生意気な口を利く奴だ。私が思ったのは、とにかくそれだった。さっきの私たちに向かっての面倒だと言った発言もそうだし、やけに生意気なガキだ。

 や、待て。問題はそこじゃない。違う。


 こく、おう? 王様?

 この、チビが?


「王様?」

「ああ」

「子供なのに?」

「まーな」

「まぁ、いろいろと諸事情があって、こちらのシント様がこの国を治られめているのです」

「…………できればその諸事情を詳しく、一から十まで聞きたいところですケド」

「国家機密です」


 いつもの笑顔でアミラさんはさらりと述べた。国家機密。へぇ。ソーデスカ。

 というか……。王様って、子供でもなれるもんなんだ。この紙の山を見る限りでは、ちゃんと仕事もしてるみたいだし。そうか。子供でも…………。うん、なれる?

 ……いまいち納得がいかないが、やっぱり、流石異世界、といったところだろうか。


「で、お前らの名前は?」

「ルイ・千原」

「ええっと、ミィ・ユリです」

「んじゃ、話はこれだけだな? 俺は忙しいんだ、さっさと帰ってくれ」

「……つくづく、生意気なガキね」

「生意気で結構。これぐらい捻くれてないと国王なんて務まらないもんでね。ま、お前らみたいな一般庶民には分からないだろうが」


 クソ生意気なガキだ。可愛げと言うものが何一つ無い。まったく、可愛い顔してるのに……!

 流石の温厚な私も、ガキに馬鹿にされて笑って許せるはずが無かった。……ええ、私、温厚なんですよ? 本当に。

 さて、ミィはといえば。頭の上に「?」を浮かべている。…………えーと、今の会話の何処が分からなかったのかのほうが、「?」なんですけど。

 どこから説明したらいいのかが分からない。お手上げだ。君の馬鹿には付き合ってられないよ、ミィ。


「あのね、あんたはその一般庶民のために……!」


 生意気なガキのシントにめちゃくちゃ怒鳴って怒ってやろうとしたのだけど、私の言葉は勢いを失った。

 何か、柔らかいものを踏んでしまったのだ。こう、ぐにゃ、と。


「いってー!」


 私が踏んだ何かが、そう言って飛び跳ねた。私の足の下からその柔らかい何かが引っ張られて消える。どうやら人の手だったらしい。

 あれ、誰の手をふんじゃったの?

 ミィじゃないし、アミラさんでもないし、このクソガキでもない。もしかして、この部屋にもう一人居たの?


「いってぇな! 誰だよ、踏んだの!」

「あ、ごめ、私」

「てめぇ……!!」


 うー。私の苦手な、顔の良い男。そう、苦手な所ストライク。今まで出会ったことのあるイケメンの中でも、なかなかの上位に入る顔だ。

 ……ん? なんか、この人見たことある気が……?


「ジナ、いたのですか?」

「アミラ? 何でお前もいるんだ?」

「そちらの勇者のお嬢さんたちを王に紹介していたのです」

「ああ……。そうか、お前昨日の…………」


 昨日……。あ、もしかして、昨日の黒いローブを着てたあの感じの悪い男? そうか、言われてみればあの男だぁ。どうりで見たことあると思った!


「で、何故ジナはこんなところに居るのでしょうか?」

「は? ああ、えーっと、シントに呼ばれたんだよ。な、シント!」

「嘘つけ。てめぇが勝手にやってきて、勝手に寝始めたんだろーが」

「ああ、裏切ったなシント!」

「はなからお前をかくまうつもりなんざねぇっつの」


 これまた楽しそうな会話だ。こうやってると、あの国王も普通の生意気な子供に見えるから不思議。

 何でだろー? ……ああ、そうか。あのジナとか言う男が子供レベルだからだ。


「で、この女は?」

「ああ、こちらが勇者のミィさん。で、こちらがルイさん」

「初めまして、ミィです」

「…………ルイです」

「……なんか、お前愛想悪くねぇ?」

「え、いや、別に」

「いや、愛想悪い。そんなんじゃ嫌われるぜ?」


 ジナは、ずい、と顔を近づけた。私は反射的に身体を後ろへ後退させた。

 うわ、やめてよ! 私、顔がカッコイイ男って苦手なんだから!

 少し赤が混ざったような彼の茶色の髪が、つんつんと立っている。どうやって立っているのか。重力を完全無視した髪型だ。

 そして、バンダナらしきものでカチューシャのように頭を縛っている。

 あれは何? オシャレ? オシャレなの?

 そのバンダナに意味があるのやらないのやら。バンダナのお陰なのか、彼の前髪は後ろにあげられていておでこが丸見え。その所為なのか、ばっちり目が合ってしまった。…………綺麗な茶色の瞳でした。

 彼は、機嫌が悪そうな顔をしながら、私に向かって歩いてきた。それでなくても苦手な顔が、どんどんどんどん近づいてくる。

 止めて欲しい。

 いや、マジ、止めて欲しい。


「やー! ちょ、顔近づけないで!」

「はぁ? なんだよ、いきなり!」

「わ、私、顔が良い男って無理なの!」

「……は?」

「とにかく無理なの! だから来ないで!」

「はぁ? んだよそれ、変な奴。んじゃ、シントとかアミラとかは何で大丈夫なんだよ?」

「子供はある程度までなら、ギリギリセーフなの。それに、女の人は大丈夫だし」

「だから、アミラは男だろ?」


 ……………Pardon?


 なんて言った? こいつ?

 ええっと、アミラさんが……男?

 ……はい?

 男? 嘘でしょ?

 こんなに綺麗な顔で、おしとやかで……女にしか見えないよ?

 嘘だ、誰か嘘だと言ってくれ。


「お、とこ?」

「ほんとですか? えー、全然見えませんねぇ」

「こら、ジナ。乙女の秘密は隠しておくものですよ?」

「誰が乙女だ。野郎の癖して」

「嘘嘘嘘! アミラさんが男? 嘘だー!」

「ほんとだって。ほら」


 そう言って、アミラさんの綺麗な金髪を掴むジナ。


 …………まさか。


 止めて! 現実なんて見たくないっ!

 そんなに無理やり現実を突きつけないで!


――――しかし。



 スル、と効果音がついたように感じるほど、いとも簡単に彼女の長い金髪は取れてしまった。

 そう。取れてしまったのだ。

 今、彼女の髪はジナの手の中に…………。


「う、嘘……。ヅラ…………?」

「そー。な? 男だろ?」


 …………う、確かに。

 髪が短くなっただけで顔のつくりはまったく変わっていないのに、私の苦手な男へと変化したアミラさん。かの……彼の髪も、きれーいな金色だ。ヅラとまったく同じ髪質に思える。これこそ地毛だろう。そうであることを願う。

 彼は右手で自分の額あたりをぐしゃぐしゃにしていた。先ほどまでとはまったくの別人に見える。まったく、といった呆れ顔だ。まあ、たぶんジナに対してだろうけど。

 まったくの別人。さっきの女の人にしか見えなかったアミラさんは絶対にしないであろう表情をしている。あれ、二重人格気味だよね?

 うーん…………。こうなってみると、もう男の人にしか見えなくなってくるから不思議だよなぁ。背は高いしー。まあ、女の人でも不自然じゃない程度だけど。一番気になる所の体は、実は服でまったく分からなくなっている。彼が着ている服は、召喚師の衣装なのか、だぼだぼで身体の線がさっぱり分からないのだ。


「ったく、返せ、ジナ」

「はいはい。でも、何で黙ってたんだよ?」

「……その方が楽しそうだろ?」


 うっわぁ、性格悪っ!

 いや、アミラさんが腹黒いかも、と思ったのは今に始まった事じゃないけど……。やっぱりか、という落胆はあるよねー。


「ああ、やっぱり、腹黒かったんだ……」

「まーな。でも、知ってただろ? お前」

「知ってたけど……。でも、男だったことにショック」

「ああ、お前顔が良い男ダメなんだっけ? で、オレはカッコイイ?」


 …………。……カッコイイとは、思うよ。思うけども。

 それをそのまま伝えるほど、私は素直な奴じゃなかった。ミィなら間髪居れずに、はい、とか言うんだろうけど。私は結構捻くれ者なので、そんなことをいう気はまったく無い。


「……や、別に?」

「へぇー?」


 ニヤニヤ、といやーな感じで笑うアミラさん。私が本心でそう言ったわけではないことが分かっている上で、ほくそ笑んでいるらしい。

 なんつー性悪。もうこんなやつのこと、アミラさん、なんて二度と呼ぶもんか。

 そういえばミィは驚いてるのかな、と思ったけど、平然としていた。

 ええ?! 何で?

 なんか普通に、「アミラさんって男の人だったんですねー」なんて言っている。

 いやいやいやいや!!

 可笑しいだろう! 女だと思ってた人が男だったんだよ? 普通はもっとテンパるよ?!


「で、何でアミラは女装なんてしてるの? どーやらオカマさんってわけでもないみたいだし?」

「んー、まぁ……一番の理由は、オレが召喚師だからかな」

「召喚師だと女がいいの?」

「ん、まーな。他の職業は別だが、召喚師だけは女が多いんだよ。だから、女だと召喚する時の力も上がる。自己暗示みたいなもんだけどな」

「ふーん。趣味なのかと思ったのに」

「お前、それは失礼にもほどがあるぞ」


 ぐっと眉間にしわがよった。綺麗な顔してるのに、そうやってるとなんだかガラが悪そうだ。ま、美人はどんな表情してても様になるから卑怯だよね。


「あー、なんか疲れた」

「驚きの連続だったもんねぇ」

「そーだね。国王がこんなチビで、しかも美女だと思ってたアミラが実は男で。あとそれから、ミィの反応も疲れる」

「ええ? ミィもー?」


 ミィは本当に不思議そうに尋ねた。

 そーだよ、キミだよ。紙を雪みたいって言ってみたり、謎なところで頭に『?』を浮かべてみたり、驚くべきところでまったく驚かなかったり。

 うん、ミィは大物だね!


「ま、疲れたんなら部屋にでも戻ればどうだ? もう直ぐ昼飯だしな。それまで寝てりゃ良い」

「そうさせてもらおうかなぁ」

「あ、じゃあミィも一緒に戻るー」


 くるりと身体を半回転させ、部屋から出ようと扉に手をかけた。

 そしてふと手を止めて、この部屋の扉の装飾とお子ちゃま国王であるシントの顔を思い出す。あれだけセンスの欠片も無いデザインの扉……。確か、この部屋って国王の私室なんだよね? てことは、あの扉もシントの趣味だったりするのかな?

 シントって、センス良さそうな顔してるけどなぁ。でも、顔で人を判断しちゃいけないってさっき学んだばっかりじゃないか。よし、ここは後から驚くよりも、今尋ねておくのが賢いだろう。


「ねぇシント、一つ聞いていい?」

「ん? 何だ?」

「この部屋の扉の装飾。あれってさ、シントの趣味なの?」

「………」


 はぁ、とシントは大きな溜め息をついた。これは後から聞いた話なのだが、今までに何度もその質問をされたらしいのだ。どーりでうんざりした表情だった訳だ。

 そのとき、アミラとジナはなんとも可笑しそうに笑っていた。

 ……だって、ねぇ。シントのあの可愛い顔で、あの扉みたいなのが趣味、なんて信じられない。というか信じたくない。でも、この部屋はシントの部屋なわけだし。ありえなくないよね。


「……あのな、ルイ。この部屋はな、代々国王が受け継ぐしきたりなんだ」

「へー……」

「俺の父親でもある前王は、その際にこの部屋を改装したんだよ」

「ああ、てことは、あの扉は…………」

「前王。俺の親父の趣味だ」



 …………どーやら、最後はなんの意外性もなく終わってしまったようですね、神様。

アミラ

職業:召喚師

属性:光属性

キャラ:腹黒・女装


国のお抱え召喚師。召喚師としての仕事以外にも、王様の補佐役などをやっている。表向きには穏やかな性格の女として通っているが、実は性格が最悪の男。金髪碧眼の美青年。または美女。

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